日本大百科全書(ニッポニカ) 「水産基本法」の意味・わかりやすい解説
水産基本法
すいさんきほんほう
わが国の水産において基本となる法律。「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」を基本理念として、講ずべき施策の基本方向を明らかにしている。その対象は、水産資源、漁場環境、漁業経営、水産加工・流通業、漁村など、水産分野全般にわたる。2001年(平成13)6月29日に公布・施行された(平成13年法律第89号)。
わが国の水産をめぐっては、国連海洋法条約の締結や日韓および日中の漁業協定の発効等による本格的な200海里体制への移行、周辺水域の資源状態の悪化等によるわが国漁業生産量の減少、漁業の担い手の減少と高齢化の進行など、国内外の諸情勢が大きく変化している一方、水産業や漁村に対し、国民から、新鮮で安全な水産物の安定供給のほか、健全なレクリエーションの場の提供などの多面的機能の発揮などの新たな期待が高まっていた。このような状況から、わが国の水産が歴史的な転換点にあるとの認識のもと、こうした諸情勢の変化への対応や国民の期待に応え、国民全体の合意として、新たな政策の理念を明確にして、政策の再構築を行うために本法は制定された。
水産基本法は、基本理念の「水産物の安定供給の確保」として、以下のように規定している。
(1)将来にわたり、良質な水産物を合理的な価格で安定的に供給すること
(2)水産物の供給に当たっては、限りある水産資源の持続的な利用を確保するため、海洋法に関する国際連合条約の的確な実施を旨(むね)として、水産資源の適切な保存および管理を行うとともに、環境との調和に配慮しつつ、水産動植物の増殖および養殖を推進すること
(3)国民に対する水産物の安定的な供給については、水産資源の持続的な利用を確保しつつ、わが国の漁業生産の増大を図ることを基本とし、輸入を適切に組み合わせて行うこと
また「水産業の健全な発展」としては、以下のように規定している。
(1)水産業については、国民に対して水産物を供給する使命を有することにかんがみ、水産資源を持続的に利用しつつ、高度化・多様化する国民の需要に即した漁業生産と水産物の加工・流通が行われるよう、効率的かつ安定的な漁業経営の育成、漁業・水産加工業・水産流通業の連携の確保、および漁港、漁場その他の基盤の整備により、水産業の健全な発展を図ること
(2)漁村が、漁業者を含めた地域住民の生活の場として、水産業の健全な発展の基盤たる役割を果たしていることにかんがみ、生活環境の整備その他福祉の向上により、漁村の振興を図ること
その他、本法は、国や地方公共団体の責務などを明らかにし、農林水産省に水産政策審議会を置くことを定めている。また、本法に基づき、施策展開の基本的な方針や自給率目標などを明らかにした「水産基本計画」が2002年3月に閣議決定された。
水産基本法制定以前、わが国の政策は、1963年(昭和38)に制定された「沿岸漁業等振興法」に示された方向に沿って、他産業と比べて立ちおくれていた沿岸漁業等の発展とその従事者の地位の向上を図ることを目標として展開されていた。しかし、社会・経済的な変化により、水産をめぐる状況もそれまでの施策では対処しきれなくなり、新たな法整備が必要となっていた。なお、水産基本法の成立に伴い、「沿岸漁業等振興法」は廃止された。
[森 高志]