出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
熊本県玉名郡和水町江田の清原台地上にある5世紀末の前方後円墳。日本で最も重要な古墳の一つで,多数の豪華な副葬品とともに,大王名を記した銀象嵌銘を刀背にもつ鉄製大刀を出土したことで知られる。1873年に多数の副葬品が掘り出され,1922年の梅原末治の調査と報告が基礎になって,さまざまな議論が交わされた。しかし古墳の構造と規模については,梅原による44,45年の調査,菊水町教育委員会による75年の調査が重要である。
古墳は3段に築かれ,全長61m(現状47m),後円部径40m,前方部幅40mで,前方部を南西に向け,周囲に馬蹄形の空濠をめぐらし,もとは円筒埴輪,形象埴輪,石人が立てられていた。後円部の中央に,短辺に入口をもつ組合せ式家形石棺を西くびれ部に向けてすえ,入口部の両側は板石を立てて羨道状につくってあった。出土品には朝鮮半島からの輸入品が多く,金銅製冠3,金製耳飾3,玉類,帯金具,金銅製履,銅鏡6,環鈴,銀象嵌銘大刀,環頭大刀,甲冑,馬具,須恵器などがあるが,竜文透し彫冠や三連式耳飾に代表される古墳築造時のものと,亀甲文冠や鉄製輪鐙(わあぶみ)に示される530-550年ころの一群とに分けることができる。すなわち,5世紀末に古墳が築造されて,6世紀の第2・四半世紀に追葬が行われた可能性が強い。銀象嵌銘の大刀がどちらにはいるかは不明。銘文の解読の基礎は福山敏男が1934年につくり,最初の部分を〈治天下𤟱□□□歯大王世□□〉と読んで,蝮(たじひの)宮に天の下治(しろし)めす弥都歯(みずは)大王,すなわち反正天皇にあてた。この福山説にしたがって,大刀を438年ころの製作と考えるのが定説であったが,78年に埼玉(さきたま)稲荷山古墳出土の鉄剣に金象嵌銘が発見されたとき,岸俊男らの解読の際に再検討が加えられ,これはむしろ稲荷山銘と同じく獲加多支鹵(ワカタケル)と読めることが示され,雄略天皇の時代の製作とみる説が有力になった。内容の概略は〈獲□□□鹵大王の世に,事(つか)える典曹人の无利工が大錡(かま)を用いて好い刀を作った。此の刀をもつ者は長寿で,子孫は栄え,其の統(す)べる所を失わないであろう。刀を作った者は伊太[加]で,書いた者は張安である〉。古墳は史跡,出土品は国宝の指定をうけており,近くに虚空蔵塚古墳や塚坊主古墳がある。
執筆者:小野山 節
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熊本県玉名(たまな)郡和水(なごみ)町江田字清原(せいばる)の台地にある前方後円墳。周囲の虚空蔵(こくんぞう)、塚坊主(つかぼうず)などの前方後円墳とともに1951年(昭和26)6月、国史跡に指定された。古墳は本来全長61メートル、前方部幅約40メートル、同高さ約6メートル、後円部直径40メートル、同高さ約7.9メートルを有したが、いまでは若干変形縮小している。周溝内より朝顔形円筒埴輪(はにわ)や円筒埴輪を出土し、北西方約80メートルに古墳の残骸(ざんがい)らしいものがあり、武装石人、石製腰掛、石製家などが発見されている。後円部には妻入(つまいり)方向に入口を有する横口式家形石棺を埋設し、その前方には両側に切石(きりいし)を立て並べた通路を設ける。1873年(明治6)1月、石棺内より90点以上の重要遺物を出土し、1965年2月国宝に指定された。すなわち、鏡6面のうち5面は中国の後漢(ごかん)ないし六朝(りくちょう)時代の所産で、金銅製冠帽(こんどうせいかんぼう)や冠(かんむり)、金製垂飾(すいしょく)付き耳飾、金銅製沓(くつ)、金銅製轡(くつわ)金具などは朝鮮三国時代の新羅(しらぎ)や伽耶(かや)文化の所産として注目され、蓋坏(ふたつき)や提瓶(さげべ)も類品が伽耶地方から出土している。そのほかにも玉類や金環、甲冑(かっちゅう)、大刀(たち)、剣、鎗(やり)、鏃(やじり)、刀装金具、帯(おび)金具などがあり、なかでも大刀の一つには銀象眼(ぎんぞうがん)の銘文があり、日本最古の金石文の一つとして知られる。
[乙益重隆]
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熊本県和水(なごみ)町の台地上にある古墳中期の前方後円墳。1873年(明治6)発掘。墳長62m,後円部径41m,高さ10mの3段築成で,周囲に盾形の周濠をもつ。円筒・朝顔形・家形・馬形の埴輪がある。くびれ部からは陶邑(すえむら)産の14個体分の須恵器が出土。後円部中央に阿蘇溶結凝灰岩製の横口式家形石棺を直葬する。副葬品には神人車馬画像鏡などの中国鏡5面と仿製鏡1面,玉類・武器類・甲冑(かっちゅう)・馬具・須恵器のほか,金銅製の冠・冠帽・沓(くつ)・帯金具,金製垂飾(すいしょく)付耳飾など,朝鮮系要素の濃厚な装身具類がある。銀象嵌された75文字の銘文をもつ大刀(たち)も出土。国史跡。
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