五岳の一つの「泰山」と、大きな山の意の「大山」とが、意味を重ね合わせて用いられることが多い。
中国,山東省の山岳,またそれにつらなる山地。魯山・沂山(ぎざん),蒙山の山地とあわせて山東中部の山地を構成する。なかでも泰山が最も高く,主峰の天柱峰(玉皇頂)は標高1545m。山麓地帯は安定した自然をもち,大汶口(だいぶんこう)文化,竜山文化などの新石器時代遺跡も多く分布する。平坦な華北平原の東にそびえ立つため古くから注目され,五岳のうちの東岳として岱宗(たいそう)(五岳の首峰)とも呼ばれた。《詩経》閟宮(ひきゆう)に〈泰山巌巌,魯邦所詹(けわしくそびえる泰山は,魯の国から行くところ)〉とあるように,多くの古典にも記されている。伝説の聖人や孔子,孟子も登ったり,中原諸侯の会盟が行われるなど,古代華北文化の象徴的存在であり,北麓には斉,南麓には魯の国が繁栄した。天子の行う最高の儀式とされる封禅(天地の祭り)は泰山で行うものとされ,秦の始皇帝が始めて実行した。以後,漢の武帝,後漢の光武帝・章帝,唐の高宗・玄宗,宋の真宗,清の康煕帝などがこれに倣った。同時に山上山下に堂廟が建てられ,露岩には題字が刻されるなど,文人墨客の訪れる名勝の地となっていった。これらの訪問者の残した詩詞の類も数えきれない。その奇景と文化財があいまって天然の歴史博物館となっており,現在も有数の観光地である。山下の天貺殿(てんきようでん)は宋代に建てられた宮殿式建築であり,それより山頂に至るまで紅門宮,万仙楼,壺天閣,普照寺,中天門などの名勝がある。
→泰山刻石 →泰山府君
執筆者:秋山 元秀
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中国、山東省中部、魯中(ろちゅう)山地最西部にある山脈。済南(さいなん)市の南東、泰安地区との境界を北東から南西に延び、全長約200キロメートル。主峰の玉皇頂は1524メートル、中国五岳の一つ「東岳」で、岱(たい)山または岱宗ともいう。1987年に世界遺産の複合遺産(文化、自然の両方の価値がある遺産)として登録されている(世界複合遺産)。震旦(しんたん)系の古い片麻(へんま)岩からなる断層山脈で、黄河下流部、華北平原部からは切り立ってそびえる。また、山地の表面には一部カンブリア・オルドビス系の石灰岩が覆うため、済南市の南方にはカルスト泉が湧出(ゆうしゅつ)し、突泉(ほうとつせん)や黒虎泉の名で知られている。山自体信仰の対象とされたが、南天門、雲歩橋などの名勝旧跡が多く、観光地としてにぎわい、中腹まで自動車道、山頂まではロープウェーが通じる。
[駒井正一]
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東岳ともいう。中国山東省の名山。中国五岳の一つ。秦漢以降,天子は泰山の頂で封(ほう)(天祭),禅(地祭)をなすべしとの道家(どうか)の説があり,始皇帝,漢の武帝,唐の玄宗,宋の真宗らはその盛儀を行った。現在まで道教第1の聖山。
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…かんきつ類の栽培が盛んで,中島ミカンとして有名。島の北部の泰山(たいのやま)(289m)には忽那氏の城跡がある。南部の姫ヶ浜は海水浴場となっており,源義経が鎧を掛けたという伝説を伝える松などがある。…
…一般に,墓地の情景や死体の腐乱過程との連想から生みだされたものだが,超常的な観念や表象によって作りだされた場合もある。〈地獄〉の語はもとサンスクリットに由来し,のちに仏教とともに中国に輸入されると,泰山府君の冥界観と結びついて十王思想を生みだし,さらに日本に伝えられると,記紀神話に描かれる黄泉国(よみのくに)や根の国の考え方と接触融合して独自の地獄思想を生みだした。地獄の観念に共通にみられる特色は因果応報や,受苦と審判の思想である。…
…中国の五岳の一つ東岳泰山の神。東岳大帝ともいう。…
…中国の五岳の一つ,東岳泰山の神をまつる道教寺院。泰山は古来天神が下り死者の霊魂が寄り集う霊山とされた。…
…崑崙山は仏教でいう贍部洲(せんぶしゆう)にある無熱悩池の北の香酔山(こうすいせん)のことで,道教と仏教の混交はここにも認められる。一方,中国では泰山も天斉と呼んだ。〈斉〉は中心のことで,へそを指す。…
…中国の帝王がその政治上の成功を天地に報告するため,山東省の泰山で行った国家的祭典。〈封〉と〈禅〉は元来別個の由来をもつまつりであったと思われるが,山頂での天のまつりを封,山麓での地のまつりを禅とよび,両者をセットとして封禅の祭典が成立した。…
…後漢時代には,墓券の記述に見られるように,黄帝が天帝の命を受けて死者を統治する神に当てられ,丘丞,墓伯,地下二千石,主墓獄史,墓門亭長といった冥界の官僚組織が考えられるようになった。また,霊魂の赴く場所としては各地の名山が当てられるようになり,なかでも山東省の泰山がその代表格とされた。泰山は古来山岳信仰の中心地であったが,泰山神が天帝の命を受けて人間の寿夭禍福をつかさどる神と考えられたことから,やがて寿命の尽きたものを拘引する冥府の神という性格を付与され,いわゆる泰山治鬼説が形成されて後漢から魏にかけて盛行した。…
…たとえば《山海経(せんがいきよう)》には,天下の名山は5370,そのうち銅を産出する山は467,鉄を産出する山は3690と数えている。それら諸名山の代表は五岳,すなわち東岳の泰山(山東省),西岳の華山(陝西省),南岳の衡山(湖南省),北岳の恒山(河北省),中岳の嵩山(すうざん)(河南省)の五山であり,三公の地位になぞらえられて天子が祭りを行った。なかでも東岳泰山は,死者の霊魂が集まる冥府の所在地と考えられ,また,しばしば封禅の儀式が行われたところとして有名である。…
※「泰山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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