泰山府君(読み)タイザンフクン

デジタル大辞泉 「泰山府君」の意味・読み・例文・類語

たいざん‐ふくん【泰山府君】


中国泰山に住むという神。道教では人の生死をつかさどる神で、日本では素戔嗚尊すさのおのみことに配され、また仏家では、閻魔王えんまおうの侍者として人の善悪行為を記録するとも、地獄の一王ともいう。
《「たいさんぷくん」「たいざんぶくん」とも》謡曲。五番目物金剛流世阿弥作。桜町中納言が桜の花の寿命を惜しんで泰山府君を祭っていると、天女が一枝を手折って天に昇る。やがて泰山府君が現れ、天女を責めて花の寿命を延ばす。
桜の一品種。花は八重で淡紅色

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精選版 日本国語大辞典 「泰山府君」の意味・読み・例文・類語

たいさん‐ぶくん【泰山府君・太山府君】

  1. ( 「たいざんぶくん」「たいさんふくん」とも )
  2. [ 1 ]
    1. [ 一 ] 中国で古代から名山として知られる山東省の泰山に住み、人の生命や禍福をつかさどるとされる神の名。本来は道教の神であるが、仏教と習合して、閻魔王の侍者とも、地獄の一王ともされ、また、十王の第七太山王とも混同されるなど、道仏二教で尊崇されるようになった。日本にも古くから伝えられ、ことに平安時代には、延命・除魔・栄達の神として崇信されている。なお、比叡山にある赤山明神はこの神であるといわれ、同じく冥界の支配者であることから素戔嗚尊大国主命のこととされ、あるいは本地垂迹説でこの神の本地は地蔵菩薩であるともいう。泰山。
      1. [初出の実例]「令晴明朝臣祭泰山府君」(出典:権記‐長保四年(1002)一一月九日)
      2. 「桜待(さくらまち)中納言〈略〉殊に執(しっ)し思はれける桜あり。七日に咲散事を歎て、春ごとに花の命を惜て、泰山府君(タイサンブクン)を祭られける上へ〈略〉祈申させ給ければ、三七日の齢(よはひ)を延たりけり」(出典:源平盛衰記(14C前)二)
      3. [その他の文献]〔捜神記‐巻四〕
    2. [ 二 ] 謡曲。五番目物。金剛流。世阿彌作。桜町中納言は桜の花盛りが短いのを惜しんで泰山府君をまつっていると、天女が現われて花を賞し、一枝折って天に昇る。やがて泰山府君が現われて天女を責め、中納言の風雅な心を愛して花の寿命を三七日に延ばす。
  3. [ 2 ] 〘 名詞 〙
    1. たいさんぶくん(泰山府君)の祭」の略。
      1. [初出の実例]「陰陽師のする祭ども属星 天地天変 玄宮北極 泰山府君」(出典:簾中抄(1169‐71頃)下)
    2. サトザクラの園芸品種。花は淡紅色で八重咲きにちかい。若い枝と葉柄には細毛がある。《 季語・春 》
      1. [初出の実例]「いせさくら ひさくら〈略〉太山府君」(出典:俳諧・毛吹草(1638)二)

たいさん‐ぶく【泰山府君】

  1. ( 「たいざんぶく」「たいさんぷく」とも。「たいさんぶくん」の撥音の無表記 ) =たいさんぶくん(泰山府君)
    1. [初出の実例]「その父国にて患ひて失せ給にけるを、その子の父のためにたいざんふくのまつりといふことを、法の如くに祭の供(そな)へども整へて、祈り乞ひたりければ」(出典:今鏡(1170)九)

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改訂新版 世界大百科事典 「泰山府君」の意味・わかりやすい解説

泰山府君 (たいざんふくん)
Tài shān fǔ jūn

中国の五岳の一つ東岳泰山の神。東岳大帝ともいう。山東省泰安県の泰山は古来,天神が降り,死者の霊魂が寄り集う冥府がある霊山とされた。この山にあって人間の寿夭(じゆよう)生死をつかさどり,死者の生前の行為の善悪を裁く神として信仰されたのが泰山府君であり,その起源は後漢(25-220)のころにまでさかのぼりうる。魏・晋以降道教の成立にともなって,新たに北方の果ての冥府羅鄷都(らほうと)とその支配者北鄷大帝が説かれるようになると,泰山は羅鄷都への中継地,泰山府君は北鄷大帝の下僚とされた。さらに仏教の地獄説と習合すると,泰山府君を閻羅大王麾下の地獄の十王の一人とする十王信仰が成立して民間に盛行し,日本にも伝わった。しかし,泰山府君の信仰は終始衰えることなく続き,泰山の碧霞宮(へきかきゆう)を初めとして各地に泰山府君を祭る東岳廟が建てられた。その誕生日とされる3月28日には盛大な祭りが行われ,中国の民間信仰の代表的なものの一つであった。
東岳廟
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泰山府君」の意味・わかりやすい解説

泰山府君
たいざんふくん

中国、山東省の東岳泰山の神に対する古称。漢代では地方州郡の太守を府君と敬称したから、泰山太守閣下の意。俗説では、この神は人間の生死、寿命、官位および死後の審判をつかさどり、生前に罪を犯した者はその魂を拘引し、地底の獄に投じて懲罰すると考えられたから、仏教の閻魔(えんま)王に相当する冥府(めいふ)の神である。日本にも入唐(にっとう)僧の慈覚(じかく)大師円仁(えんにん)(794―864)によって比叡山(ひえいざん)に勧請(かんじょう)せられ、延命をつかさどる守護神、福徳神として祀(まつ)られた。しかし中国では、泰山が五岳の第一として歴代王朝の尊崇を受け、神も東岳天斉大生仁聖帝(てんせいだいせいじんせいてい)に封ぜられ、世間にも東岳大帝とよばれるに及んで、地域の限られた泰山府君の古称は消え、わずかに晋(しん)・唐時代の古伝説にその名をとどめるに至った。

[澤田瑞穂]

『澤田瑞穂著『地獄変――中国の冥界説』(『アジアの宗教文化3』所収・1968・法蔵館)』『澤田瑞穂編『中国の泰山』(『世界の聖域 別巻1』所収・1982・講談社)』

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百科事典マイペディア 「泰山府君」の意味・わかりやすい解説

泰山府君【たいざんふくん】

中国五岳の一つである東岳泰山の神。東岳大帝ともいう。人間の寿命をつかさどり,泰山は死者の魂が集まる冥府と考えられた。道教でも重要な一神。その信仰は日本にも平安時代に伝来,生命の神として陰陽(おんみょう)家(陰陽師)がまつった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「泰山府君」の意味・わかりやすい解説

泰山府君
たいざんふくん
Tai-shan fu-jun

道教の神。「たいさんぶくん」とも読む。山東省泰安県にある東岳 (泰山) の山神で,天帝の孫と伝えられ,人の寿命,福禄を司る。仏教と習合し,閻魔大王の眷族とされた。日本では,地蔵菩薩が本地とされ,比叡山延暦寺の守護神である赤山権現として祀られる。スサノオノミコトや三輪明神に付会されることもある。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「泰山府君」の解説

泰山府君 (タイザンフクン)

学名:Prunus ×miyoshii
植物。バラ科の落葉小高木

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世界大百科事典(旧版)内の泰山府君の言及

【閻魔】より

…閻魔が罪人を裁く裁判官としての風貌を強くおびるようになるのも中国的な着色であろう。死者の裁判官としての閻魔は,唐末から五代の時期に,死者に対する7日ごとの供養と結びついて,冥府の十王(ほかに秦広,初江,宋帝,伍官,変成,泰山府君,平等,都市,転輪)の一人となる。十王の組織は,当時の民衆的な冥府の神々を基礎にして形成されたもので,閻魔王も道教的な神々と席をならべることになるのである。…

【陰陽師】より

…平安時代,民間では播磨国に海賊を呪縛した智徳なる名人をはじめ法師陰陽師の活躍がみられたし,京都一条堀川の戻橋辺では陰陽師団が斯道の達人安倍晴明にゆかりの伝承を説き,みずからを権威づけるところがあった。また宮廷陰陽師の行った祭りには泰山府君祭,鬼気祭,属星祭,土公祭,天曹(てんちゆう)地府祭,四角四境祭,雷公祭,三万六千神祭など50に近い種類があり,七瀬祓,河臨祓など神道の祓に近い作法もあった。とくに泰山府君は冥府の王で人間の生命を左右すると信じられ,病気平癒,長寿延命を祈って盛んにまつられ,その祭文を都状と呼ぶ。…

【地獄】より

…一般に,墓地の情景や死体の腐乱過程との連想から生みだされたものだが,超常的な観念や表象によって作りだされた場合もある。〈地獄〉の語はもとサンスクリットに由来し,のちに仏教とともに中国に輸入されると,泰山府君の冥界観と結びついて十王思想を生みだし,さらに日本に伝えられると,記紀神話に描かれる黄泉国(よみのくに)や根の国の考え方と接触融合して独自の地獄思想を生みだした。地獄の観念に共通にみられる特色は因果応報や,受苦と審判の思想である。…

【東岳廟】より

…泰山は古来天神が下り死者の霊魂が寄り集う霊山とされた。その神を泰山府君または東岳大帝といい,人間の寿夭(じゆよう)生死をつかさどり死者を裁く神として人々の信仰を集め,各地に東岳廟が建てられた。現在北京の朝陽門外に残っているのが最も有名で,廟内には東岳大帝や地獄の七十六司をはじめ財神などの神々がまつられて,3月15日からの祭礼は殷賑を極めたという。…

【冥府】より

…泰山は古来山岳信仰の中心地であったが,泰山神が天帝の命を受けて人間の寿夭禍福をつかさどる神と考えられたことから,やがて寿命の尽きたものを拘引する冥府の神という性格を付与され,いわゆる泰山治鬼説が形成されて後漢から魏にかけて盛行した。この泰山の神は泰山府君と呼ばれ,その下には泰山主簿,泰山録事,泰山伍伯などの属僚がいて,寿命台帳の管理,死者の拘引,冥界の統治に当たると考えられた。かかる泰山の組織は現世の地方行政組織をそのまま反映した,きわめて現実的で素朴なものであり,死霊も泰山で現世同様の徒役に服するものと考えられていた。…

【山】より

…神々と悪魔たちの激しい争いの末に,アムリタは結局神々に独占されることになったというのである。 古代中国で天下第一の名山とされた泰山は,〈人の魂を召すことをつかさどる〉とか,〈死者の魂神は泰山に帰する〉などと言われて冥府のようにみなされ,この山の神の泰山府君または東岳神は,人々の寿命を預ると信じられた。このように山中に冥界があるとみなす観念も多くの地域にみられる。…

※「泰山府君」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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