主として水死者や死亡した妊産婦の回向(えこう)や,また魚類などの供養のために行う仏事。川施餓鬼(かわせがき)の一種であり,流水(るすい)灌頂ともいう。この行法の典拠は《金光明経》流水長者子品によるとされるが,1689年(元禄2)成立の《寂照堂谷響集》に〈これ経軌の説にあらず(中略)本邦の古徳,経軌のむねを按じて,しかも施設するところなり〉(流水灌頂条)とあるように,日本で始修された呪術的供養法である。板塔婆(いたとうば)の上に幡(はた)を懸け,これに陀羅尼(だらに)や経文,弥陀の名号などを書き,水辺に建てて誦経供養をなし,水中に流す。真言宗,天台宗,浄土宗,禅宗などで行うが,作法・書式は宗派によって相違がある。真言宗で最も略式なのは,四角の白布の中央に阿字を,四隅に〈迷故三界域〉などの文を記し,4本の棒で水辺に張り,そばに柄杓(ひしやく)をそえておき,通行人に水をそそいでもらうようにする。地方によっては,産で死んだ女性を弔う場合,川に建てた板塔婆に長い縄を結びつけ,僧の読経中,村の女性が川に入り,両手でその縄を洗ってやる。また塔婆に垂らした縄に鏡や女性の頭髪の装具などをはさんで,水中に流したりする。《平家物語》にある平康頼の故事のように,多数の塔婆を流すこともあるが,もと灌頂幡を水中に流したのを,のちに塔婆で代用したものであろう。
執筆者:伊藤 唯真
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死者儀礼の一つ。「産で死んだら血の池地獄、あげておくれよ水施餓鬼(みずせがき)」という歌があるように、難産で死んだ女性の霊は血の池に落ちて苦しむという仏説に基づき、その霊を救済しようとする呪(じゅ)的な行事。洗い晒(ざら)し、水かけ供養などともいい、水辺に4本の杭(くい)や竹を立てて布を張っておき、通りがかりの人に柄杓(ひしゃく)で水をかけてもらう。赤い布の色や、布に書いた経句の文字が消えると、死者の霊が成仏(じょうぶつ)するという。川に縄や布を流す例もある。灌頂は本来、頂(いただき)(頭)に水を灌(そそ)ぐことで、キリスト教の洗礼と同じく、俗人から聖職に生まれ変わる儀礼であった。成人式や婚礼にも水祝儀(しゅうぎ)などがあり、通過儀礼の折々に次の段階に生まれ変わる意味がある。産死は予測できない不幸であるが、仏教儀礼やその元になった再生の呪術を取り込み、さらにいくつかの要素を加えて、極楽浄土(ごくらくじょうど)に再生させようとする行為である。
[井之口章次]
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…井戸にも同様の崇拝がみられることがある。同時に水には,死者の汚れを清め死霊を他界に導く霊威があるとされ,そこから死者の死水をとり墓場に水を供えることが行われるようになり,さらに盆の精霊(しようりよう)流しや流れ灌頂などの民俗も生みだされた。泉井戸川【山折 哲雄】。…
※「流れ灌頂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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