海図(読み)かいず(英語表記)chart

翻訳|chart

精選版 日本国語大辞典 「海図」の意味・読み・例文・類語

かい‐ず ‥ヅ【海図】

〘名〙 航海に用いる海の主題図。通常、海洋、港湾、島嶼付近の深浅や潮流の方向、航路標識などを明示して航海、停泊などに役立たせる。
※漂荒紀事(1848‐50頃)一「アメリカの海図を按ずるに、此地方に人の住する国なし」

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デジタル大辞泉 「海図」の意味・読み・例文・類語

かいず【海図】[書名]

田久保英夫短編小説。昭和55年(1980)「新潮」誌に発表。同名の作品集は昭和60年(1985)刊行。妻子と別居し、若い女と暮らす作家を主人公とする七つの短編が絡み合い、一つの物語をなす。昭和61年(1986)、第37回読売文学賞受賞。

かい‐ず〔‐ヅ〕【海図】

海の深さや岩礁の存在、海底の性質、潮流・航海標識など、海洋の状態を記入した航海者用の地図。総図や、大洋用の航洋図、陸地付近用の航海図、沿岸用の海岸図、港内用の港泊図などがある。水深はふつう最低低潮線を基準にする。
[補説]書名別項。→海図

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海図」の意味・わかりやすい解説

海図
かいず
chart

航海のためにつくられた主題図で、航海上必要な水深、底質、海岸地形、危険物、航路標識など水路の状況を正確かつ見やすく表現した図。1990年代中ごろより紙海図のほか電子海図も現れた。

[佐藤任弘・桂 忠彦]

歴史

海図は航海の必要から生まれたもので、羅針盤が中国からもたらされた13世紀のヨーロッパで、航海技術の進歩とともに発達した。当時の海図はポルトラノといわれる図で、羅針盤からの多数の方位線が記入されている。15世紀以降の大航海時代には航路の開拓とともに、海の深さを記入するようになり、投影法もメルカトル図法が用いられた。日本では幕末に欧米諸国が寄港地付近を測量し海図をつくっていた。幕府も1862年(文久2)に日本近海の測量を始めたが、本格的な海図の作成は明治時代になる。1870年(明治3)イギリス測量船の指導を受け、三重県の的矢(まとや)湾と尾鷲(おわせ)湾、香川県の塩飽(しわく)諸島の測量が行われ、翌1871年には海軍水路局が創設され、北海道の諸港湾、岩手県の宮古(みやこ)湾と釜石(かまいし)湾が測量された。釜石湾の海図「陸中国釜石港之図」は日本の海図第一号となった。

[佐藤任弘・桂 忠彦]

海図の内容

海図は航海のためにつくられるので、細部について、航海に使いやすく配慮されている。すなわち、水深の基準面は陸図の高さの基準面(東京湾平均海面)と異なり、各地ごとに潮汐(ちょうせき)観測を行い、これ以上海面が下がることがない面を定め、これを0メートルとしている。日本では最低水面が海図基準面である。投影法はメルカトル図法による。この図法では経緯線は直交する直線となり、また一定の方位を保って航走すれば、航跡は直線となり、航跡線と子午線のなす図上の角度は方位角と等しくなるので、航海上きわめて便利である。深さの表現は水深数字を記入し、等深線は補助的に使用されるために一部記されている。

 昔はおもりとロープによる測深であったから、測深地点以外を推定によって等深線で描くよりは水深数字のみを示し、航海者は自ら測深しつつ喫水(きっすい)に余裕をもって航海するのが安全であると考えられていた。現在は音響測深機が用いられ、未測区域がないように測深されているが、表現法は変わらない。音響測深により無数に得られる水深値の取捨選択は、図を見やすくし、しかも地形を的確に表現することに重点をおいてなされる。等深線は、等深線と同一の水深値が等深線の深い側に記入されないように描くのが国際的な習慣である。つまり船舶の安全のために浅所を誇張表現するわけである。陸部も、海上から見えるものを描くのが原則で、高い山の背後は省略し、海岸付近の煙突、塔、建物、灯台など顕著な目標を描いてある。

[佐藤任弘・桂 忠彦]

種類

海図は航海計画用の総図(400万分の1より小縮尺)、大洋航海用の航洋図(400万~100万分の1)、陸地付近の航海図(100万~30万分の1)、沿岸用の海岸図(30万~5万分の1)、港内用の港泊図(5万分の1より大縮尺)に分けられ、それぞれの目的によって表現も省略されていく。これらの海図は、陸図のように格子状の区分をもつ連続図ではなく、縮尺、包含区域はさまざまである。これは、航海中に図を取り替えるときの船位記入の便のために同縮尺の図の間でも重複部分をとっているためであり、また包含区域と縮尺は陸地地形により適宜に変え、岬から岬まで、あるいは顕著な目標や危険な浅所を一図の中に含めるという配慮のためでもある。

 狭義の海図は総図、航洋図、航海図、海岸図、港泊図の航海用海図をいうが、広義には特殊図も含める。特殊図は海図とは別の内容をもつ航海参考用図で、大圏航法図(地球上の2地点間の最短航路を求めるための地図)、パイロットチャート(船の安全かつ経済的航行のために必要な、気象・海象・大圏航路・貿易風の限界などの情報が記載されている水路特殊図)、海流図、潮流図、位置記入用図、漁具定置箇所一覧図、磁気図、その他がある。

 一方、1990年代中ごろになってディスプレー上に海図情報を表示する電子海図が登場した。電子海図とは海図データベースなどのソフトウェアとハードウェアである電子海図表示システムをあわせたものと規定される。航海用電子海図(ENC)は航海安全に必要な海図情報を国際的に決められた技術基準により電子化した海図データベースである。これを船橋に装備された電子海図表示システム(ECDIS)で使用することにより(紙)海図同等物として船の運航に利用される。

 海上保安庁水路部(現海洋情報部)は1992年(平成4)から電子海図作成システムを整備し、1998年から日本およびその周辺海域を包含する最新の小縮尺電子海図4版と主要港湾域を包含する大縮尺電子海図11版を刊行している。

[佐藤任弘・桂 忠彦]

国際機関

海図は日本船舶だけでなく、国際航海をする外国船舶も使うので、国際的に統一された図式(記号や略語)に従ってつくられ、英文を併記してある。海図が陸図と違う特徴の一つは最新図を維持することである。目に見えない海底の状況は海図に頼るほかないので、海岸や海底の変化に対してはつねに測量し、毎週公表される水路通報や電子水路通報(CD-ROM)で海図を修正し、危険な浅所や沈船などは随時、無線航行警報によって周知を図っている。

 日本の海図は、日本周辺地域を中心に太平洋、インド洋を包含して刊行され、イギリス、アメリカ、フランス、ロシアは全世界について、ドイツはヨーロッパ、大西洋を、その他の国は自国周辺を刊行範囲としている。これら世界各国の海図作成機関は国際水路機関(IHO)に加盟し、水路業務の発展と国際的協力を図っており、モナコにはその恒久的な事務局が置かれている。

[佐藤任弘・桂 忠彦]

『川上喜代四著『海の地図――航海用海図から海底地形図まで』(1974・朝倉書店)』『沓名景義・坂戸直輝著『海図の読み方』新版(1989・舵社、天然社発売)』『杉浦邦朗著『海図をつくる』(1996・交通研究協会、成山堂書店発売)』『沓名景義・坂戸直輝著『新訂 海図の知識』改訂版(1996・成山堂書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「海図」の意味・わかりやすい解説

海図 (かいず)
nautical chart
hydrographic chart

航海を目的として作られる主題図で,航海に必要な水深,海底の性状,海岸地形,危険物,航路標識など水路の状況を正確かつ見やすく表現した図である。海図は13世紀に羅針盤の発明と航海技術の進歩に伴ってヨーロッパで発達した。ポルトラノPortolanoという当時の海図には,通常1~2個の方位盤compass roseから放射状に出る32本の方位線と海岸線,主要な沿岸地名が描かれている。沿岸の地形や島なども当時としては正確に描かれているが,各地点の位置は相対的なもので,天文観測により経緯度を決定したものではなかった。しかし作図の簡便さ,航路を直線で求められるという利点から17世紀ころまで用いられた。15世紀以降の大航海時代になると海図には水深が記入されるようになり,メルカトル投影法が用いられ,著しい進歩を示した。なかでも1768-79年,J.クックは3回の世界周航中,測量を実施して使用にたえる海図を作成した。日本では桃山時代の御朱印船貿易によってヨーロッパから航海術やポルトラノ海図が伝わったが,その後鎖国時代に入ると,瀬戸内海などの航路を記したスケッチ風の航路図が作られたのみで,本格的な海図はなかった。幕府は1859年(安政6)に神奈川港図を作るなど日本の港の測量を始めているが,これがのちに日本の海図作成の基礎となった。幕末から明治にかけては欧米列強が寄港地の測量を行っており,1870年(明治3)に政府は柳楢悦(やなぎならよし)(後の初代水路部長)らにイギリス測量船の指導をうけさせ,的矢湾,尾鷲湾,塩飽諸島の測量を行わせた。翌71年兵部省海軍部水路局が創設され,柳らは独力で測量を実施し,72年《陸中国釜石港之図》が海図第1号として刊行された。

 海図はあらゆる点で航海に役立つように作られている。水深の基準面は陸図と異なり,潮汐がそれ以上さがることがない面を各地で定める。基準面の決め方は各国で多少異なるが,日本では略最低低潮面を海図基準面と定めている。投影法はメルカトル図法(大縮尺図ではノモン図法,正距割円筒図法など)を用いる。メルカトル図法では経緯線が直交する直線となり,また航跡線と子午線のなす図上角はそのまま方位角となるので航海に便利である。海底の深さは水深数字を記入し,等深線は補助的に用いられる。海図上の水深は,航海上の必要に応じる程度に取捨・編集される。等深線はそれと同一の水深値が等深線の外側に記入されないように描くことになっている。これは航海安全のため,水深と水深の間には,それ以上浅い水深がないように,浅所は誇張して表現するためである。海域にはそのほか底質,暗礁,浅瀬,沈船,魚礁,潮流の流速と方向などが記載される。陸部の表現も海上から見えるものを描くのが原則で,高い山の背後は省略し海岸付近の煙突,塔,建物,灯台など船位決定に役立つ顕著な目標物が表現される。

 海図は縮尺とその用途により総図(400万分の1より小縮尺),航洋図(400万~100万分の1),航海図(100万~30万分の1),海岸図(30万~5万分の1),港泊図(5万分の1より大縮尺)に分けられる。海図は航海中の図の取替えに便利なように,同縮尺図の間にも重複部分を設けている。また包含区域と縮尺は陸地の地形や海底の状況によって適宜に変え,顕著な岬から岬まで,あるいは著目標や危険浅所を含めるなどの配慮がなされる。これらの海図に電波ラティスを加刷したのが電波航法用図である。二つの陸上局から同時に発射される電波が到達する時間の差を距離に換算し,2局からの距離差の等しい点の軌跡を求めると双曲線となる。さらにもう1組の局に基づく双曲線を得れば,2線の交点として船位が求められる。電波航法用図はこの双曲線(電波ラティス)を記入した図で,大洋航海用のロラン海図,オメガ海図,沿岸航海用のデッカ海図などがある。以上の航海用海図のほか広義には航海参考用,学術用,生産資源開発用等の特殊図も海図に含めることがある。特殊図には海流図,潮流図,気象図,漁業用図,地磁気図,測地系変換図,海上交通安全法適用海域図,領海図などがある。

 海図は外国船舶も使うので国際的に統一された記号や略語を用い,英語を併記するのが望ましいとされている。海図が陸図と異なる大きな特徴は,内容の最新維持である。未知の海や港にいく船舶にとって目に見えない海底の状況は海図に頼るほかない。海岸や海底の自然変化や人工変化について,常に測量し海図の修正がなされ,毎週発行される水路通報や無線航行警報によって一般に周知されている。

 日本の海図は,日本周辺海域をはじめ太平洋,インド洋を対象に刊行されている。イギリス,アメリカ,フランス,ロシアは全海洋について,ドイツはヨーロッパ,大西洋を,その他の国は自国周辺を刊行範囲としている。全世界の海洋に共通する一組の海図があれば,航海者にとっては非常に便利である。このため国際海図という考えがあり,大洋の小縮尺図(1000万分の1および350万分の1)については,各国が分担して標準的な国際海図がすでに完成している。中・大縮尺図については,記号や略語の統一が進められ,国際海図の作成を地域的に推進しようという気運が高まっている。世界各国の海図作成機関の国際組織である国際水路機構International Hydrographic Organization(IHO)は1921年に創立され,モナコに恒久的事務所をもち,水路業務の国際的協力と発展をはかっている。
地図
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図書館情報学用語辞典 第5版 「海図」の解説

海図

主として航海に必要な海の状況を詳しく記載した地図.〈1〉総図:縮尺400万分の1級,〈2〉航洋図:100万分の1級,〈3〉航海図:30万分の1級,〈4〉海岸図:5万分の1級の4種はメルカトル(Gerhardus Mercator 1512-1594)の正角円筒図法で描き,〈2〉では沖合の水深や主要灯台,〈3〉では沖合から昼間見える陸上目標,〈4〉では沿岸地形の細部が記入される.〈5〉港泊図:5万分の1以上の大縮尺図は,局地的ゆえ平面として扱う平面図法により,港湾,錨地,水道が詳述される.このほか,水路特殊図として,水深,海底地質,資源,地磁気,海象などの主題図や船位決定のためのロランやデッカ海図などがある.日本では海上保安庁水路部が担当し,2004(平成6)年度から航海用電子海図を作成している.

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百科事典マイペディア 「海図」の意味・わかりやすい解説

海図【かいず】

チャート。海洋を主体とし,航海上必要な沿岸地物を含め水路の状況を表現した図。広義には航海参考用,学術,生産,資源開発などを目的に作られる海洋の図をも含む。前者には総図(航海計画用),航洋図(長途航海用),航海図(陸上物標による船位決定航海用),海岸図(沿岸航海用),港泊図(港湾・泊地・錨地(びょうち)・水道・着岸施設を含む)があり,後者は水路特殊図ともいい,海底地形図,漁業用図,小港湾図など。日本では海上保安庁水路部で測量,刊行。海図の図法はメルカトル図法が普通で,まれに大圏図法,多円錐図法。水深は日本では基本水準面(ほぼ最低低潮面)から測る。
→関連項目水路図誌地図ポルトラノ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海図」の意味・わかりやすい解説

海図
かいず
marine chart

陸地における地形図と同様,港湾,海岸,大洋などの海や海底の状態を縮小し,記号化した地図。船舶の航海用をおもな目的として,水深,底質,航路標識,沿岸の目標物,危険物,海流,潮流,磁気偏差,航海上の注意事項などが記入してある。海面に記入する水深は,各国で若干異なるが,船が浅瀬に乗上げないため,低潮海面を基準にしている。地形図と違い,深さを等深線で表わさず,実際にはかった地点を数字で示し,海底の地質も,R (岩) ,S (砂) ,M (泥) ,など記号で示す。海図は日本では海上保安庁水路部が発行し,近年,特殊海図として底質分布図,等深線図がある。

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世界大百科事典(旧版)内の海図の言及

【水路情報】より

…船舶が安全な航海を行うために必要な水路に関する情報。海図,水路書誌,水路通報および海象,気象情報などをいう。海図は航海をするのに必要な沿岸の地物や水路の状況などを示したもの,水路書誌は,海図では表しきれない水路に関する細かい情報や,航路標識に関する情報,天測航法用の天測暦,潮汐表などを書籍の様式にまとめたものである。…

【スティック・チャート】より

…ココヤシの葉柄と貝殻を結びあわせてつくった海図。太平洋,ミクロネシアのマーシャル諸島の人々は,かつて海面のうねりの諸現象に習熟し,それらをもとにして独自の優れた航海術を編み出したことで知られる。…

※「海図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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