地震探査(読み)ジシンタンサ(英語表記)seismic exploration

デジタル大辞泉 「地震探査」の意味・読み・例文・類語

じしん‐たんさ〔ヂシン‐〕【地震探査】

爆薬の爆発を利用して人工的な地震を発生させ、その地震波弾性波)の伝播でんぱの状況から地下の構造を知り、鉱床などの地下資源を探索する方法。地震探鉱

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改訂新版 世界大百科事典 「地震探査」の意味・わかりやすい解説

地震探査 (じしんたんさ)
seismic exploration

地下を調べる物理探査技術の一つで,弾性波探査ともいう。爆薬等の人工的震源から地下に地震波,すなわち弾性波を送れば,その一部は地層の弾性的不連続面で反射,屈折され,再び地表に帰ってくる。したがって,これを観測すれば地下構造や地下の物理的性質を知ることができる。図1のように波の伝搬速度がそれぞれv1v2の地層があるとき,その境界に波が角度θ1で入射すれば同じ角度で反射される。また一部はこの境界面で屈折され第2の層に進入する。この角度をθ2とすると,スネルの法則により,sinθ2=(v2/v1)sinθ1となる。一方,反射波の振幅はθ1=0の垂直入射のとき,反射係数=(ρ2v2-ρ1v1)/(ρ2v2+ρ1v1)で決まる。ここでρ1,ρ2はそれぞれ接する2層の密度である。屈折波についてはθ1が大きくなるとθ2も大きくなるが,もしv2v1であればθ2=90°,sinθ1=(v2/v1)となり,波は境界に沿って第2層中を進行する。この波は同じ角度で逐次屈折され再び地表に帰る。この特殊な屈折波を利用するのが地震屈折法seismic refraction methodであり,反射波を利用するのが地震反射法seismic reflection methodである。屈折法は,第1次大戦中ドイツ軍が敵の重砲位置をその発射反動からの波を観測することにより知ろうとしたのに始まるとされている。その後1924年にアメリカで岩塩ドームの油田の発見に使用され成功を収めた。日本においても昭和初期の試験研究時代を経て実用化され,今日,土木工事等の基盤岩調査,学術調査などに広く用いられるようになった。一方,反射法は石油の探鉱を舞台に成長した。1927年には同じくアメリカにおいて油田探査に使用された記録があり,その後,技術が改良されしだいに普及した。とくに50年代からは情報工学的技術体系を整えて著しい進歩をとげ,物理探査技術の中心的存在となり石油探査に貢献した。

 地震探査は震源と受振点の線状配列で記録をとり,これを逐次測線上で移動しながら作業が行われる。屈折法は各受振点に最初に到達する波,すなわち初動を観測するもので,この初動の到達時間,走時を受振点の距離に対してグラフにした走時曲線から地下構造を解析する。図2がそれで,第1層中を直接進行した波はv1の速度をもつが,より速度の大きな第2層をv2で進んだ屈折波にそのうち追い越される。したがって前半の走時曲線の傾斜は第1層のv1を与え後半は第2層のv2を与える。走時曲線の折れ点の位置は境界面の深さに関係しているので,これから第2層の深度が計算される。層の数が増すと走時曲線の折れ点も多くなり,解析法も複雑となるが,根本原理は同じである。しかし境界面が傾斜しているとその傾斜角未知数として加わるので,片方からだけの走時曲線では,地下構造は決まらず,両方向からの走時曲線が必要である。これに対して反射法は地表と地層境界面を往復する反射時間を観測すればよいので,原理的には屈折法より簡単にみえる。しかし実際は反射波を確実にとらえることが容易でなく,信号と雑音の比,すなわちSN比を十分大きくしなければ反射記録は役に立たないので,その技術は複雑である。反射法技術が情報工学的性格を強くもつようになったのはこのSN比改善のためである。反射波は屈折波と異なり初動を観測するものでなく,地表を伝わる表面波をはじめとする各種の,震源により起こされた雑振動,すなわちノイズも同時に観測する。強い反射波はともかく,多くの微弱な反射波はノイズに埋まっている。このためSN比の改善は反射法の中心的課題であり,エレクトロニクス,情報処理技術などの先端技術が大量に活用され技術が構成されてきた。波を観測するシステムにも多チャンネルのディジタル記録方式が普及し,各受振器からのアナログ電気波形は増幅,ディジタル化されコンピューターテープに磁気録音される。これにより記録波形の信頼度は飛躍的に向上した。一方,録音された大量の磁気テープは高速コンピューターで処理される。SN比を大きくし,反射波形をシャープにして地下の構造分解能をあげるため,非常に高度なデータ処理が施される。結果は記録断面に表示される。記録断面により,地下構造を,連続する反射波列として直感的にとらえることができ,深部の地下構造が詳しくわかる。地下深部の地質構造の解明がたいせつな石油の探査に反射法が使われるのはこのためである。

 そのほか技術的には,データ収集のため多くの種類のダイナマイト以外の非爆薬震源が開発されてきた。たとえば陸上用の持続型振動を用い,後でパルス圧縮するタイプ,水中で圧縮空気を放出するもの,あるいは水中の電気放電など,種類は多い。また観測記録システムの受振チャンネルの数もしだいに増え,初期の12~24チャンネルから500~1000チャンネルのものも使われるようになった。また各受振点,震源もSN比向上のため多数の複合パターンがそれぞれの単位として用いられており,また同一反射点をくりかえし観測し補正後重合するCDP重合common depth point stackingも一般化した。このような技術的努力の後,SN比が十分大きくなれば反射波は到達時間のみならず反射波の振幅,波形そのものも意味をもってくる。たとえば反射波の振幅は反射係数に関係しているので,これから密度と速度の積,すなわち地下の音響インピーダンス分布も知ることができるようになり,反射法は地下の物性探査の技術としても注目されるようになった。さらに反射法は従来の測線という概念を超え,受振点の面的配置による地下の詳細な三次元探査法としても使われるようになった。現在,反射法は地下深く数千m,あるいはそれ以上の深度までの地殻を最も詳細に調べる技術として,堆積盆地での石油探査に不可欠なものとなっている。現在の石油の供給は,これによるところがきわめて大きい。反面,技術は大がかりとなりコストも高くなった。これに対して屈折法は初動走時の解析ですむので高度の情報処理を必要とせず簡便であり,一般に探査コストは反射法に比して格段に安い。このため屈折法は土木関係等,比較的浅部の地盤調査などに広く利用されており,石油を主舞台とする反射法と利用面で大きく異なった展開をしている。このほかに海洋での浅部探査用として音波探査がある。この探査法は,海では陸上と違い弾性表面波等の雑音妨害が少なく比較的容易に反射波を捕捉できるので,この利点を生かし簡便な地震探査法として成長してきた。また海洋での屈折法には,受振点を固定し,震源をもつ船が移動する方式もある。海洋での地震反射法は反射法,屈折法いずれにおいても基本原理は陸上と同じであるが,実際の作業は大きく違い,技術的にはかなり違うものである。3kmに及ぶ大量のハイドロフォンを内蔵した浮遊性の受振ケーブルを曳航し,人工衛星により自分の位置を計算しつつ,止まらずに波を送りながら反射波を記録する専用船が石油探査で活躍している。地震探査は高度の地下情報収集技術であり,データ収集,処理,解析いずれの面でも最先端の技術が駆使されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地震探査」の意味・わかりやすい解説

地震探査
じしんたんさ
seismic survey

人工地震による地震波を利用した物理探査。地震探鉱,弾性波探査などともいう。火薬・ダイナマイト・圧縮空気・放電などによって地中または海面で人工地震を発生させて地下へ地震波を送り,地層の境目で屈折したり反射したりする弾性波の伝播状況を観測して,地質構造や地下の状態を調査する(→屈折法反射法)。磁力探査重力探査に比べてより詳細な解析が可能であり,石油探鉱などに威力を発揮するほか,建設工事に際しての地質調査にも使われる。また近年,バイブロサイスという震源車で地震波を発生させる反射法が断層や火山体の構造調査などに広く利用されるようになった。

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百科事典マイペディア 「地震探査」の意味・わかりやすい解説

地震探査【じしんたんさ】

地震探鉱,弾性波探査とも。人工的に弾性波を発生させ,この震動(疎密波)を多数の地震計で測定し地質構造を推定する方法。疎密波の反射を利用する反射法と,屈折波をとらえる屈折法がある。弾性波の発生方法には,火薬類や圧縮空気を爆発させる。おもりを落としたり振動板を動かす,水中放電をする等,目的や状況に応じた手法がとられる。土木建築,資源探査のための地下地質構造調査,大陸や海洋地殻の構造調査などに利用される。最近では活断層調査などの一環として沖積平野の地下構造を明らかにするためにも利用されている。
→関連項目人工地震石油探査物理探査

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世界大百科事典(旧版)内の地震探査の言及

【地質調査】より

…しかしながら,この推定を確かめたり,さらに深いところの状態を推定するためには,他の方法を用いなければならない。(1)物理探査 いろいろな地球物理学的手法を用いて行う調査方法であり,主として利用する物理量の違いによって方法が異なり,それぞれ,地震探査,重力探査,磁気探査,電気探査,放射能探査,地温探査,物理検層などと呼ばれている。(a)地震探査 地下の岩石や地層の中を波動として伝搬する弾性波の速度を測定することによって,地下構造を明らかにする調査で,古くから,自然発生地震によって地球の内部構造,とりわけ地殻やマントル上部の構造を明らかにするために用いられてきた方法である。…

※「地震探査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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