消費者の権利の尊重と自立支援を目的とした法律。2004年(平成16)6月、消費者保護基本法の改正に伴い、現在の法律名に変更された。昭和43年法律第78号。
[佐藤順子]
消費者基本法に先だって制定された消費者保護基本法は、消費者の利益の擁護および増進について総合的推進を図り、国民の消費生活の安定と向上を確立することを目的として、1968年(昭和43)に制定された。同法はこの目的のために国、地方公共団体、事業者の責務とともに、消費者の役割をも明らかにした。このころ工業技術の発達から多くの新製品が開発、販売されたが、それらに含まれている有害物質や取扱い上の注意、規格、表示などの面での法制上の遅れが目だってきた。加えて、欧米的な消費者の権利、保護、自衛意識が社会全般に浸透してきたことも、法制定のベースにあった。
消費者保護基本法が制定された1960年代以降は、いっそう経済・社会の進展が進み、生活と経済のサービス化、高度情報化、IT(情報技術)化、経済と生活の国際化が進展し、一方で少子・高齢化が進行するなど、生活を取り巻く環境は大きく変化した。また、大量生産、大量消費、大量流通は、消費者被害の拡大と広域化をもたらし、子供から高齢者に至るまで消費者問題に直面するようになった。消費者問題そのものも多様化、複雑化の一途をたどった。
消費者保護基本法制定後も、製造物責任法(PL法)、消費者契約法、個人情報保護法、その他の消費者関連法が制定されたが、消費者の「選択の自由」「多様性の確保」は十分とはいえない状態であった。なによりも、必要な情報の入手やその扱いにおいて、消費者と事業者の間に存在する非対称性が解消されないためである。
[佐藤順子]
2004年(平成16)、36年ぶりに消費者保護基本法が改正され、名称も「消費者基本法」と改称された。基本法は4章29条からなり、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ」「消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め」、国、地方公共団体および事業者の責任などを明らかにし、「国民の消費生活の安定及び向上」の確保を目的としている。基本法は国の施策を消費者保護から消費者の権利の尊重と自立支援に転換したのである。
基本法には、消費者の権利として、下記のことが明記された。すなわち、国民の消費生活における基本的な需要が満たされ、その健全な生活環境が確保されるなかで、
(1)安全が確保されること
(2)自主的かつ合理的な選択の機会が確保されること
(3)必要な情報、教育の機会が提供されること
(4)消費者の意見が消費者政策に反映されること
(5)被害が生じたときは適切かつ迅速に救済されること
国、地方公共団体は社会経済の発展・状況に応じ、苦情相談処理の斡旋(あっせん)などを含む消費者政策を推進する責務を有する。政府は消費者基本計画を策定し、政策の実施の監視および推進をする。事業者はこの法律の基本理念を踏まえて、消費者の安全とその取引の公平を確保すること、必要な情報を明確・平易に提供しなければならないこと、消費者との取引に際しては消費者の知識、経験、財産の状況などに配慮すること(これを「適合性原則」とよぶ。たとえば高齢という特性を無視して販売をもちかけるなどしてはならない)、などを責務とする旨の規定が設けられた。また、事業者団体は消費者との間に生じた苦情処理の処理体制の整備など、消費者の信頼を確保する自主的活動に努めなければならない。
一方、消費者は進んで消費生活に関する知識を習得し、自主的、かつ合理的に行動するよう努めること、また環境保全、知的財産の保護に努めなければならない旨の規定も設けられた。さらに消費者団体は情報収集・提供、消費者被害の防止・救済など消費生活の安定・向上を図るための活動に努めることが求められている。こうした公益活動を行う団体は「公益財団法人」となった。また独立行政法人「国民生活センター」は、消費者への啓発・教育を行う中枢的機関として位置づけられた。
2006年5月、消費者契約法が改正され、消費者団体訴訟制度(団体訴権制度)が導入されることとなった(2007年6月施行)。消費者は自立した存在としてその権利を認められるとともに、その責任も明確になった。なお、消費者基本法施行後、政策のあり方は5年を目途として検討を加える。また、内閣府に「消費者政策会議」が置かれ、消費者基本計画案の作成その他を行うが、計画案の作成、その検証、評価、監視などの取りまとめを行うときは、消費者委員会の意見を聞かなくてはならない。
[佐藤順子]
『大村敦志著『法律学大系 消費者法』(1998・有斐閣)』▽『「特集 消費者法制の軌跡と展望」(『ジュリスト』1139号・1998・有斐閣)』▽『落合誠一・及川昭伍監修、国民生活センター編『新しい時代の消費者法』(2001・中央法規出版)』
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(篠崎悦子 ホームエコノミスト / 2007年)
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