渡瀬線(読み)わたせせん

精選版 日本国語大辞典 「渡瀬線」の意味・読み・例文・類語

わたせ‐せん【渡瀬線】

〘名〙 陸上の動物地理学上の境界線の一つ。日本列島における旧北亜区東洋亜区境界線は屋久島種子島奄美諸島との間にある七島灘東西にひかれた線とし、大正元年(一九一二渡瀬庄三郎により提唱された。哺乳類両生類爬虫類などがこの境界線によって分布が異なるとされるが、異論もある。

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デジタル大辞泉 「渡瀬線」の意味・読み・例文・類語

わたせ‐せん【渡瀬線】

動物地理区の境界線の一。屋久島種子島奄美あまみ大島との間の七島灘に東西に引かれる、日本列島における旧北区東洋区の境界線。大正元年(1912)動物学者の渡瀬庄三郎が哺乳類などの分布の違いから提唱。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「渡瀬線」の意味・わかりやすい解説

渡瀬線
わたせせん

日本列島周辺における動物地理区の境界線の一つ。屋久島(やくしま)、種子島(たねがしま)と奄美(あまみ)諸島との間の七島灘(しちとうなだ)に東西に引かれた線で、1912年(大正1)に渡瀬庄三郎(しょうざぶろう)が確認し、1924年に岡田彌一郎(やいちろう)が命名した。これ以北は旧北区、以南は東洋区とされる。哺乳(ほにゅう)類、爬虫(はちゅう)類、両生類、昆虫類、クモ類、陸生の貝類などでこれを支持する多くの資料があり、鳥類、有尾両生類、チョウ類で当てはまらない例があるものの、日本南部におけるもっとも重要な動物分布の境界線として一般に認められている。この境界は陸上植物にも当てはまり、温帯の植物の多くがここを分布南限とする。

[片倉晴雄]

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百科事典マイペディア 「渡瀬線」の意味・わかりやすい解説

渡瀬線【わたせせん】

薩南諸島の奄美大島と屋久島の間に東西に引いた生物分布上の境界線。植物分布上は旧熱帯植物区系界のインド−マレー植物区系区と,全北植物区系界の中国−日本植物区系区との境界と考えられ,スギ属,リンドウ属,ヒメシャラ属などの温帯性のものはこれより南に分布せず,また熱帯性のあるものはこれより北に分布しない。動物分布では哺乳(ほにゅう)類,爬虫(はちゅう)類,両生類,チョウを除く昆虫,陸生貝などの分布から,旧熱帯区の東洋亜区と全北区の旧北亜区の境界線とされる。
→関連項目渡瀬庄三郎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「渡瀬線」の意味・わかりやすい解説

渡瀬線
わたせせん
Watase's line

屋久島,種子島と奄美群島の間に東西に引かれる動物および植物の区境界線。 1912年に渡瀬庄三郎が,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,昆虫類,クモ類,陸産貝類などの分布上,この線が東洋区と旧北区 (または旧熱帯区と全北区) の境界であることを確認し,のち岡田弥一郎が命名した。しかし両区の境界はチョウ類では九州と屋久島,種子島の間を通る三宅線が,鳥類も沖縄諸島と先島諸島の間に引かれる蜂須賀線がより適当とする意見がある。植物にもこの線で区分される種類が多く,全北植物区系界と旧熱帯植物区系界の境界とされている。

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世界大百科事典(旧版)内の渡瀬線の言及

【九州地方】より

… 南西諸島は九州本土南端から台湾に至る海上約1200kmにわたって,屋久島,奄美大島,沖縄島などの島々が飛石のように連なる。生物地理学上重要な境界線である渡瀬(わたせ)線が屋久島と奄美大島の間を通り,これを境に北は温帯,南は亜熱帯気候に属する。屋久島には温帯の南限をなす植物が200種以上分布し,奄美大島より南ではソテツなどの植物や河川の河口にはマングローブの林が茂り,海岸にはサンゴ礁が発達している。…

【植物】より

…多雪地帯の日本海側と太平洋側の分化,ソハヤキ要素,マキネシアなどは日本の植物区系を理解するために考えられた区分である。また,南千島とオホーツク地区との境界に宮部線,フォッサマグナ地区に牧野線,吐噶喇列島のところに渡瀬線,小笠原の南に細川線などが提唱されており,それぞれ分布域の境界とされている。 植物は地球上のあらゆるところに生活場所を占めているが,それぞれの環境条件に合わせて,形態も機能もひじょうに多様化させている。…

【動物地理区】より

…例えば,東洋区とオーストラリア区の境にはウェーバー線とウォーレス線があり,その中間の移行部はワレーシアと呼ぶ(図2)。日本は南北に長く宗谷海峡は八田線,津軽海峡はブラキストン線,屋久島,奄美大島の間は渡瀬線として知られ,沖縄の宮古島と石垣島との間は蜂須賀(はちすが)線と呼ばれる(図3)。北海道はシベリア‐サハリン系と中国東北部‐本州系の鳥獣の混在地帯である。…

【日本列島】より

…【堀田 満】
[動物]
 日本は大部分が旧北区に属し,奄美大島以南の南西諸島だけが東洋区に入れられている。これらの境界線が渡瀬線で,南西諸島にはオオコウモリ,ワタセジネズミ,カンムリワシ,オオクイナ,シロガシラ,セマルハコガメ,サキシマスジオ,キノボリトカゲ,ハラブチガエル,ハナサキガエル,オオゴマダラなど渡瀬線以北には見られない東洋区系の種類が多い。しかしここにはオリイジネズミ,カグラコウモリ,イリオモテキクガシラコウモリ,ケナガネズミ,ヤンバルクイナ,ハブ,ヒメヘビ,トカゲモドキ,キシノウエトカゲ,イボイモリなど多数の特産種を産するだけでなく,アマミノクロウサギ,トゲネズミ,イリオモテヤマネコ,ノグチゲラ,オットンガエルなどの,東洋区に類似のものを見ない特産属があり,この点でここは,東洋区の中で隣接するインドシナ亜区(台湾,中国南部を含む)とも,インド・マレー亜区(フィリピン,ボルネオなどを含む)とも顕著に異なっている。…

※「渡瀬線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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