1970-72年,沖縄県島尻郡具志頭(ぐしかみ)村(現,八重瀬町)の港川採石場の岩の裂け目から,大山盛保(せいほ)によって発見され,沖縄県教育委員会と東京大学の協力で発掘された数体分の人骨化石。年代は,人骨のフッ素の含量が絶滅したリュウキュウジカなどの骨と同じように高いこと,また,付近で採取された炭化物の放射性炭素年代が約1万8250~1万6600年前と報告されていることから,後期更新世末期と見なされている。石器などの人工遺物は見つかっていない。
82年には,鈴木尚,馬場悠男,遠藤萬里,埴原和郎,松浦秀治たちによって報告書が出版されている。頭と顔は低く広く頑丈である。頭の形態はかなり特異である。たとえば,脳頭蓋は骨が厚く,最も広い部分が低い。また,前頭骨は小さく,後ろに傾く。2010年に久保大輔によってマイクロCTデータから推定された頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は,男性で約1335ml,女性で約1170mlと現代人平均に比べて小さい。顔は,眉間が突出し,鼻根が凹み,鼻梁は(残っている部分から復元すると)隆起していた。咀嚼筋の一つである側頭筋が発達し,歯の咬耗が進んでいるので,堅い粗末な食物を食べていたことがわかる。身長は,男性が153cm,女性が145cmと推定され,縄文時代から現代までの日本人の身長平均値に比べて最小である。鎖骨は短く,上腕骨は細いので,上半身が細かった。それに対して骨盤は広く,大腿骨や脛骨は身体のわりに普通の大きさである。ただし,縄文人に見られるような付柱状の大腿骨や扁平な脛骨はみられない。手と足の骨は比較的大きい。頑丈な頭と顔,小柄な体格,華奢な上半身,比較的頑丈な下半身の組み合わせは,狭い沖縄での放浪性の採集狩猟生活に対する適応といえる。
港川人の系統関係は,まだよくわかっていない。当初,鈴木は中国の柳江人との頭骨の類縁性に基づき,柳江人から港川人をへて縄文人へ進化するという〈日本人河南起源説〉の立場をとった。しかし,馬場と遠藤は港川人の四肢骨が縄文人とはまったく異なることを指摘した。その後,馬場と楢崎修一郎は,港川人の頭骨や顔面が中国の山頂洞人や柳江人よりもジャワ島のワジャク人と似ていると主張した。また松村博文は,港川人の歯は東南アジア人やオーストラリア先住民と似ていると発表した。2010年海部陽介と藤田祐樹は,港川人の下顎骨がオーストラリア先住民と似ていると報告した。したがって,港川人が縄文人の祖先であるとの認識は否定的である。人骨は,1号と2号が東京大学総合研究博物館に,3号と4号が沖縄県立博物館に保管されている。
→山頂洞 →日本更新世人 →柳江
執筆者:馬場 悠男
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沖縄本島の八重瀬町にある港川石灰岩採石場で,1968年(昭和43)に大山盛保が発見した約1万8000年前の新人の化石。4個体分以上の骨格が出土し,鈴木尚(ひさし)らによる詳細な研究結果が82年に出版された。Ⅰ号・Ⅱ号・Ⅳ号に頭骨があり,とくにⅠ号男性の頭骨は顔面までよく保存されている。鈴木らの研究によれば,身長は比較的低く(男性153cm,女性143cm),眉間(みけん)が大きくふくらみ,顔は低くて幅広い形をしており,日本列島の縄文時代人に類似するとともに,中国南部の化石新人である柳江(りゅうこう)人にも比較的近い形態を示すという。日本列島の代表的な化石人類である。
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(馬場悠男 国立科学博物館人類研究部長 / 2007年)
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[縄文人の系統]
山口敏は,縄文人は同時代の華北新石器時代人よりも,後期旧石器時代の華南の柳江人と類似していることを証明し,農耕民である華北新石器時代人は,早くから現代人的な形態特徴をもっていたが,縄文人は狩猟,漁労,採集を基盤とする生活を続け,旧石器時代人的な形態特徴を長く保持していた集団であろうと述べている。鈴木尚は,洪積(更新)世人類である沖縄の港川人が華北の上洞人よりも華南の柳江人や縄文人に近いことを明らかにし,〈港川人は柳江人とはいとこの関係にあると同時に,縄文人の遠い祖先と見なすことができそうである〉と述べている。2~3万年前に,アジア大陸から現在の日本列島に陸橋を通ってモンゴロイド系集団が渡来し,その後海水面の上昇によって,長期にわたる孤立化の結果特殊化し,縄文人が出現したと考えられている。…
※「港川人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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