日本大百科全書(ニッポニカ) 「漁業調整委員会」の意味・わかりやすい解説
漁業調整委員会
ぎょぎょうちょうせいいいんかい
水面の総合的利用と漁業生産力の発展ならびに漁業調整等のために、漁業法(ならびに地方自治法)に基づいて設けられている行政委員会の一つであり、水産行政の根幹をなす。漁業調整委員会の組織は各都道府県に基本的に一つ設置される海区漁業調整委員会のほか、連合海区漁業調整委員会、広域漁業調整委員会がある。また、湖沼、河川、池などの内水面については内水面漁場管理委員会が置かれている。そのなかで、もっとも基本となるのが海区漁業調整委員会であり、漁業者や漁業従事者が主体となった漁業秩序をつくる視点が重要であるという漁業制度の立場から設置され、行政から一定の独立性を保持するとともに準行政、準司法の権限を有する独自の機関と位置づけられている。
〔1〕海区漁業調整委員会
当該委員会は海面につき農林水産大臣が定める海区に設置されるが、2021年(令和3)末時点で、28都府県において各1海区、異なる漁業実態を有する道県においては数海区設置され(たとえば北海道では10海区、福岡県では3海区等)、全国で計64の海区に設置がみられる。なお、主務大臣が指定する海区には琵琶(びわ)湖、霞ヶ浦(かすみがうら)北浦等のように海面として指定された湖沼を含んでいる。
当該委員会は制度上次のような広範囲の強力な権限をもっている。
(1)知事の諮問機関として資源管理方針や海区漁場計画の樹立、漁業権の免許申請の許否、漁業権に対する制限条件の設定、漁業調整規則の制定・改廃、知事管理漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)設定、沿岸漁場管理団体の指定等につき調査審議し、意見を述べる。
(3)漁業に関係の深い土地または土地の定着物の使用について知事に意見を述べ、かつ当事者間の協議が不調のときは裁定する。
(4)漁業権および入漁権の適切な行使をはじめ、資源保護や漁業紛争防止等、漁業調整等の必要があれば関係者に対し漁業の制限・禁止、漁業者数の制限、漁場利用の制限などを指示することができる(いわゆる委員会指示とよばれる権限)。
当該委員会の構成および委員の選任(任期は4年)について、2018年(平成30)12月の漁業法改正により主として以下のように見直しがなされた。
(1)委員定数は15名(ただし、主務大臣が指定する海区に置かれる委員会では10名)を基本とするが、条例により10~20名の間での変更が可能である。
(2)委員のうち、漁業者委員が過半数を占めるようにしなければならない(ただし、15名定数の場合は最大13名までは可能である)。
(3)委員に資源管理・漁業経営に学識経験を有する委員ならびに利害関係をもたない中立委員を含めることが必須要件である。
(4)委員は都道府県議会の同意を得て知事が選任するものとする。知事は漁業者等委員については漁業者団体等に候補者の推薦を求めるとともに、選定委員会の設置等により広く募集を行うなどして透明性・公平性を確保しなければならない(従来は漁業者等委員については公選制であった)。
なお、知事への諮問審議や意見具申、漁業調整上の指示、裁定等海区委員会と同様の権限が与えられている内水面漁場管理委員会(定数は原則10名)については、都道府県単位で置かれるのを基本としているが、内水面採捕や養殖業規模が著しく小さい場合には知事が指定する海区漁業調整委員会により代行することができる。
〔2〕連合海区漁業調整委員会
操業範囲が二つ以上の海区や行政区にわたる輻輳(ふくそう)した漁業実態に対応したり、あるいは一つの都道府県に複数の海区がある場合は相互調整の必要から、二つ以上の海区をあわせた連合海区を設定して漁業調整等を行うのが当該委員会であり、知事は関係海区委員会との協議により、あるいは農林水産大臣の勧告により、いつでも必要に応じて設置されるものである。たとえば、福岡佐賀有明(ありあけ)海連合海区、和歌山・徳島連合海区、伊予灘(なだ)連合海区、一都二県連合海区、長崎県連合海区、北海道連合海区等がある。各海区における漁業調整や指示等は連合海区における取決めが優先される。委員は各海区委員会の委員のなかより選出され、各同数の委員をもってあてられるのが基本である。
〔3〕広域漁業調整委員会
日本の経済水域周辺における資源管理の的確な実施や大臣管理の漁業にかかわる漁業調整等、ならびに複数の知事管理の漁業調整等を目的として、(1)太平洋広域漁業調整委員会(2022年時点の委員数28名)、(2)日本海・九州西広域漁業調整委員会(同29名)、(3)瀬戸内海広域漁業調整委員会(同14名)の三つが国の常設機関とされ、農林水産大臣の監督下におかれる(2001年の漁業法改正以降)。各海域は政令で定められる。役割としては、国が作成する資源回復計画の審議や協議調整、複数の海域を回遊する魚種の管理検討、資源管理措置の実施を担保するための委員会指示等がある。委員は関係都道府県が互選する各海区の沿岸漁業の代表者、および大臣が選任する沖合漁業の代表者ならびに学識経験者等で構成される。その任期は4年である。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]