デジタル大辞泉
「行政委員会」の意味・読み・例文・類語
ぎょうせい‐いいんかい〔ギヤウセイヰヰンクワイ〕【行政委員会】
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ぎょうせい‐いいんかいギャウセイヰヰンクヮイ【行政委員会】
- 〘 名詞 〙 国家や地方公共団体のために、おもに公正を期する事柄の意思を決定する権限をもつ合議制の行政機関。国家では、国家公安委員会、公正取引委員会、中央労働委員会など、地方公共団体では、教育委員会、選挙管理委員会、地方労働委員会など。
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行政委員会 (ぎょうせいいいんかい)
administrative commission
複数の委員によって構成される,特定の行政権を有する合議制の行政機関で,一般の行政組織からある程度独立した地位にあるのが特徴である。大臣など単独の人を長とする独任制の組織とは異なる組織型の行政機関である。また同じく合議制の機関でも,審議会などと呼ばれる諮問機関と異なり,それ自身が行政権を行使する。イギリス,アメリカでとくに発達した制度であるが,日本には第2次大戦後の占領期に導入され,広範に設置された。その際には,行政の民主化が目的とされ,アメリカで発達した独立規制委員会independent regulatory commissionがとくに模範とされた。アメリカの独立規制委員会は,19世紀末に経済的地位の乱用のめだった鉄道産業に対する規制を目的として設置された州際商業委員会に始まる。同委員会の実績についての高い評価を背景として,その後他の産業領域の規制にも同じ性格の委員会が設けられた。それらは規則を制定する準立法的機能,争訟を裁定する準司法的機能を併せもち,行政機関でありながら,大統領からかなり独立した地位を占めることとなった。その後,大統領からの過度の独立性や,規制対象の産業に取り込まれる傾向などについて批判がみられるようになった。
日本では講和後,非能率的であるなどの批判により,国レベルにおける行政委員会の半数近くが廃止された。地方レベルにおける行政委員会については,独立性を弱められたものもあるが,当初の諸委員会がおおむね存続して今日に至っている。現在,国の行政委員会としては,内閣の所轄の下にある人事院のほか,総理府または諸省の外局として,公正取引委員会,国家公安委員会,公害等調整委員会,司法試験管理委員会,公安審査委員会,船員労働委員会,中央労働委員会の7委員会がある。地方公共団体の行政委員会としては,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,公安委員会,地方労働委員会,農業委員会などがある。
行政委員会の特徴はその独立性にある。それらは行政組織の中に位置づけられているが,大臣や知事などからある程度独立した地位を占める。これは〈長の所轄の下に〉(地方自治法138条の3)などのように,法令上〈所轄〉の用語を使って独立性のあることを示すとか,明示的に〈公正取引委員会の委員長及び委員は,独立してその職権を行う〉(独占禁止法28条)と規定するといった形がとられている。しかし,行政委員会の独立性にとって最も重要なことは,委員の任期が定められ,罷免事由が限定されていることである。たとえば,公正取引委員会を構成する委員長と4人の委員は,内閣総理大臣が両議院の同意を得て任命するが,任期は5年と定められている。そして,禁治産の宣告を受けるとか心身の故障のため職務を執ることができないとか,法律で列挙された限られた場合でなければ罷免されない。つまり,任命権者である内閣総理大臣と政策上の意見が異なるとの理由で罷免されることがなく,独立して職務を行うための身分保障が与えられているのである。
独立性のある行政委員会をとくに設置する理由は単純でなく,委員会ごとに異なるが,おもな理由としては,次のようなものがある。第1は,争訟の裁定などの準司法的機能がある場合には,司法権の独立に準じて独立性が必要であるとされることである。第2は,党派的に中立な行政が必要とされる場合のあることである。このため,国家公安委員会など,同一政党に所属する委員の割合を制限している場合がある。第3は,専門的知識に基づく行政が必要な場合である。第4は,対立する利害を調整するため,利益代表の参加が必要な場合である。たとえば,各種労働委員会は,使用者委員,労働者委員と両者の同意を経るなどして任命される公益委員とから構成されている。
→行政審判
執筆者:橋本 信之
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行政委員会
ぎょうせいいいんかい
administrative committee
合議制の行政機関。一般の行政組織の体系からある程度独立して特定の行政権を行使するが,その分野の規則を制定する準立法権,裁決を行う準司法権をももっている。特にアメリカで発達してきたが,第2次世界大戦後日本でも採用された。公正取引委員会,労働委員会,公安委員会,選挙管理委員会,教育委員会,人事院などがその代表的な例である。委員の任期は2~5年,委員数は3~39と一定していない。
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知恵蔵
「行政委員会」の解説
行政委員会
政治的中立性や利害調整を強く求められる行政領域には、最高意思決定権限者が単一の行政機関(独任制の機関)ではなく、複数の委員からなる合議制の最高意思決定機関を設け、その下に事務局を置いた行政機関が存在している。一般にこれを行政委員会という。中央政府レベルでは、公正取引委員会、国家公安委員会、公害等調整委員会、人事院、中央労働委員会などがこれに当たる。これらの機関は準司法機能と準立法機能を持つ。
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世界大百科事典(旧版)内の行政委員会の言及
【外局】より
…しかし,外局とされる委員会と庁はその性格,存在理由を異にする。前者は,通例,行政の民主化,社会的諸利害の公正な調整,第三者的不服審査,行政の政治的中立性の確保などを存在理由とし,原則的にその職権行使の独立性を保障された合議制の行政官庁としていわゆる〈[行政委員会]〉の性質をもつものであるが,後者は,このような特殊性をもたず,その所掌事務が量的に膨大でかつ機能的なまとまりと独立性をある程度もち,内局で処理するのが不適当な場合などに設置される。したがって,外局の統一的な実質的概念規定は困難であるが,その権限を府省(本府,本省)の内局などと形式的に区別することは可能とされている。…
【行政審判】より
…このような行政審判は,第2次大戦前から存在した[海難審判]および特許審判を除いては,戦後,アメリカ法の影響のもとで,日本に導入されたものである。すなわち,戦後,行政の民主化の一環として,アメリカの独立規制委員会にならって,各種の行政委員会が設置されたのであるが,同時に,それらの行政委員会がその準立法的権限や準司法的権限を行使する際の手続として,行政審判が導入された。このような手続は,アメリカにおいては,国民の権利自由を保障するために,規制的権限の行使にあたっては〈適正な手続due process〉がとられなければならないという観念のもとで,行政過程における〈適正な手続〉の理念を最もよく具体化するものとして形成されてきた。…
【行政法】より
…もっとも,英米における行政法の成立・展開は,大陸型行政法とは異なり,行政制度とは必ずしもかかわりがない。すなわち英米における行政法の成立・展開は,行政の現代的機能を果たすための各種[行政委員会]や行政審判所等が行使する行政的・準立法的または準司法的権限をめぐる諸問題(行政手続,委任立法,司法審査,救済方法等)についての特殊な制定法・判例等の集積の中に主としてみられる。イギリスとアメリカの行政法は,それぞれ歴史的制度的基礎を異にするところから,両者間の差異もみのがせないが,上述したかぎりでの大陸型行政法とは異質なものである点で共通しており,これを英米型行政法またはコモン・ロー型行政法とよんでいる。…
【法の支配】より
…アメリカのように,独立にいたる本国との抗争および独立後のいくつかの邦(州)での経験から,立法権の濫用も行政権の濫用と同様に警戒すべきだという考えが広くもたれるようになると,違憲立法審査制度が生み出されることになる。 イギリス,アメリカでは,今日でも,ヨーロッパ大陸諸国に広く見られるような通常裁判所と並立する単一の行政裁判所制度が採用されず,伝統的な法分野と異なる専門的・技術的知識を必要とする領域の事件については,イギリスでは数多くの行政的裁判所,アメリカでは各種の行政委員会にまず裁判をさせるが,少なくとも法律問題についてはその判断を最終的なものとせず,通常裁判所に最終的判断権を与えるという原則を最大限維持しようとしている。これは,法の支配の精神により,通常裁判所からまったく独立した機関が専門家的独善に陥ることを防止しようとしてのことであるといえる。…
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