火浣布(読み)カカンプ(英語表記)Huǒ huàn bù

デジタル大辞泉 「火浣布」の意味・読み・例文・類語

かかん‐ぷ〔クワクワン‐〕【火×浣布】

古代中国で、南方火山にすんでいる火ねずみの毛で作ったといわれた耐火性の織物。ひねずみのかわごろも。
石綿をまぜて織った不燃性の布。日本では、平賀源内が初めて作ったといわれる。

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精選版 日本国語大辞典 「火浣布」の意味・読み・例文・類語

かかん‐ぷクヮクヮン‥【火浣布】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 昔、中国で石綿のことを南方の火山に棲(す)む火ねずみの毛で織った布として名づけたもの。火に焼けないという。ひねずみのかわごろも。火浣。火毳(かぜい)
    1. [初出の実例]「そのけがるる時は、火にやけばきよくなると云り。其布の名をば火浣布と云へり」(出典:百詠和歌(1204)一二)
    2. [その他の文献]〔水経‐註〕
  3. 石綿を麻苧にまぜて織った燃えない布。日本では、平賀源内が初めてつくったといわれる。
    1. [初出の実例]「火浣布(ククヮンプ)・ゑれきてるの奇物を工(たく)めば」(出典:滑稽本・風来六部集(1780頃)放屁論追加)

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改訂新版 世界大百科事典 「火浣布」の意味・わかりやすい解説

火浣布 (かかんふ)
Huǒ huàn bù

火で浣(あら)う布の意。汚れを洗いおとすため火の中に投げこむと,燃えつきることなく,みごとにもとの白色をとりもどすところから,この名がつけられた。周の穆王(ぼくおう)が西戎を征伐したとき,西戎がこの布を献上したという話が《列子》にみえる。後漢の梁冀(りようき)は火浣布の衣装を着けて宴席にのぞみ,わざと酒で汚したうえ火に投げこませ,みんなを驚かせた。しかし,魏の文帝はそのようなものが存在するはずはないと《典論》の一節に記し,《典論》は明帝によって石に刻まれたが,数年たって西域から火浣布の献上があったため,天下の笑いものとなったという。当時,火浣布の材料は,炎火の山に生える木の華あるいは皮,またはそこに住むネズミの毛などであろうと考えられていた。しかし,実際は石綿(アスベスト)で織られた布。《洞冥記》に,漢の武帝の宮廷の池に浮かぶ舟は〈石脈〉をロープに使用しているといい,つぎのような説明をほどこしている。〈石脈〉は脯東(ほとう)国に産し,絹糸のように細いものでも万斤の重さを支えることができる。それは石を割って得られる。よりあわすと麻のようになり,〈石麻〉と呼ばれて布に織ることができる。この記事は,石綿と火浣布の実際についてかなり正確な知識を伝えたものとすることができよう。《洞冥記》は漢の郭憲の作品とされているが,5,6世紀のもののようである。

 西方でも,ストラボンが〈耐火性のナプキン〉について語り,大プリニウスがそれはアルカディアインドからもたらされるといっているのは,中国の火浣布に関する記録とよく一致する。日本では,平賀源内が石綿を使って火浣布を製することに成功,江戸にのぼってきたオランダ人に見せ,またそれで作った香敷(こうじき)を長崎出入りの中国人に与えたことを,《火浣布略説》(1765)に述べている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「火浣布」の意味・わかりやすい解説

火浣布
かかんぷ

石綿糸(せきめんし)で織った不燃性の布のこと。煤(すす)や垢(あか)などの汚れも火の中に投入して焼けば、布は燃えず汚れだけが落ちるところから、火で浣(すす)ぐという意味でこの名がある。石綿布ともいいアスベストの一種耐熱、耐火性に優れており、高熱作業や汽缶などの保温用に使われた。中国では古くからこの製法が知られていることを青木昆陽(こんよう)が指摘している。日本では1764年(明和1)に平賀源内が中川淳庵(じゅんあん)らとともに秩父(ちちぶ)山の石綿(いしわた)を用いて製作したのが最初とされる。

[井原 聰]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「火浣布」の意味・わかりやすい解説

火浣布
かかんぷ

中国南部の火山に住むとされる想像上の動物,火ねずみの毛で織り,よごれたとき火に投入れるとよごれがとれると伝えられる織物。『竹取物語』にも「火ねずみのかわごろも」とある。平賀源内は石綿で同様な織物をつくり火浣布と名づけた (1764) 。

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世界大百科事典(旧版)内の火浣布の言及

【中川淳庵】より

…少年のころから植物に親しみ青年期にはすでに本草家として知られ,薬品会・物産会開催のたびに収集品を出品している。オランダの書物に載るアスベスト(石綿)の本体を同定して友人の本草・物産家平賀源内に教え,秩父山中でそれを採掘して1764年(明和1)火浣布(燃えない布)をつくった。同じ町内に住む江戸詰の山形藩医安富寄碩にオランダ語を学び,71年江戸参府のオランダ人を止宿先長崎屋に訪ね,解剖学の原書譲渡の情報を得て同僚の杉田玄白に伝え,藩費で購入したのが《解体新書》の原書で,その翻訳グループの一員として当初から参加している。…

※「火浣布」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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