熱および物体の熱的性質を研究する学問。熱伝導、熱膨張、反応熱、熱機関など熱に関連した現象や装置は、物理学、化学、生物学、工学において多種多様な形で現れる。その研究を目的とするのが熱学であるが、内容を大別すると、熱力学、気体分子運動論、統計力学の三つに分類される。
熱力学は19世紀なかばから後半にかけて完成されたが、その基本的な思想は、物質の微視的詳細に立ち入らず、むしろ巨視的性質に注目し熱力学関数の間の関係を導こうとするものである。すなわち、熱力学は現象論という立場に立脚している。熱力学は実験結果と矛盾することはないが、熱力学関数を原子、分子といった微視的観点から求める手段を提供しない。この点に不満をもった物理学者は、19世紀なかばころから、分子の立場で熱学を構築していった。とくにマクスウェルは1859年、気体分子の運動が乱雑である点に着目し、分子の速度分布を与える一つの法則を導いた。さらに、この気体分子運動論はボルツマン、ギブスなどにより一般化され、今日、統計力学とよばれる一分野が完成した。統計力学は熱力学の基礎づけと同時に、微視的な立場から熱力学関数を求めるための具体的な原理を与える。統計力学は、量子力学と並んで、現代の物性物理学(物性論)を支える大きな支柱となっている。
[阿部龍蔵]
熱が関与するいろいろな現象を扱う物理学,化学などの領域を総称して熱学という。物質の熱的性質,状態変化,熱機関,熱放射,熱伝導などはすべて熱学の対象である。19世紀には熱学というまとめ方に意義があったが,現在では,この名称はあまり使われず,熱力学,統計力学,あるいは化学熱力学などといった理論体系の明らかな呼び方をする。
執筆者:恒藤 敏彦
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