もともと牧の畑という意味で,牧の一部を開墾して農耕地とし,耕作に利用しない期間は放牧地として村民の共同放牧にゆだねる畑地をいう。同じ土地がときには作物の作付けに,ときには牛や馬の放牧に利用され,農耕と放牧とが交替で転換する粗放的な土地利用法は,かつては対馬,種子島,屋久島などでも粗放畑作である焼畑段階の一異型として不完全ながら行われていた。しかし,これが規則正しい順序で整然と行われたのは,隠岐島だけであって,そこではヨーロッパ中世の三圃制に類似の耕牧輪転農法が行われた。そして一般には,隠岐におけるような耕牧輪転農法を牧畑式または牧畑と呼んでいる。
ここでも隠岐の場合についていえば,そこでは人家の近くに多い普通畑(年々畑)や水田を除いた村内の全領域が山とか谷とかを問わず,柵をもって四つの牧に区分され,四つの牧にはそれぞれ次のような作物の作付けと放牧とが行われた。すなわち第1区牧には夏季の放牧と麦の作付け,第2区牧には前年からの麦とアズキ(またはダイズ)ならびに夏季の放牧,第3区牧にはアワ,ヒエ,ソバ類と冬季の放牧,第4区牧にはダイズ(またはアズキ)と冬季の放牧を行い,この土地利用の方法は年々上記の4区牧間に第1,第2,第3,第4の順序で輪転し,各区牧は4年を周期として第5年目にまた元の利用形態に復するのである。しかもその間の肥培管理はほとんど行わず,作物の栽培によって消耗した地力は牛や馬の糞尿と休閑とによって補うとともに,作物の輪作関係によってこれを維持しようとするのである。これは農耕と放牧との巧みな有機的結合による地力維持の方法であるといえよう。しかし作物の種類やその種まきや収穫の時期などは制約され,放牧も全村一致共同のもとに行わねばならないから,牧畑は封建農業の属性である耕作強制的性格が強く,近代経済の発達にともなってしだいに衰退消滅し,放牧のみ行う牧へと変質している。
執筆者:三橋 時雄
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牧畑ということばは、もともと牧の畑という意味で、牧の一部を開墾して農耕地として利用し、耕作に利用しない期間は放牧地として村民の共同放牧にゆだねる畑地のことをいったが、今日では牧畑といえば、かつて隠岐(おき)で行われていた耕牧輪転農法のことをさすのが普通である。隠岐では、平坦(へいたん)地や人家の近くに多い普通畑や水田を除き、一村内の全領域が山、谷を問わず通常木柵(もくさく)をもって四区牧に区分され、四つの牧にはそれぞれ次のような作物の作付けと牛馬の放牧とが行われた。すなわち、第一区牧には夏季の放牧と麦の作付け、第二区牧には前年からの麦とアズキ(または大豆)ならびに冬季の放牧、第三区牧にはアワ、ヒエ、ソバ類と冬季の放牧、第四区牧には大豆(またはアズキ)と冬季の放牧を行い、この土地利用法が年々四区牧間に第1、第2、第3、第4の順序で輪転し、各区牧は4年を周期として第5年目に第1年目の利用形態に復するのである。この農法が牧畑式または牧畑とよばれるものであり、農耕と放牧との有機的結合による地力維持の方法であるといえよう。しかし、作物の種類、種播(ま)きや収穫の時期などはこの経営方式によって制約され、ことに放牧は全村の共同で行われるので、封建農業の属性である耕作強制的性格が強く、第二次世界大戦後しだいに衰退した。
[三橋時雄]
『三橋時雄著『隠岐牧畑の歴史的研究』(1969・ミネルヴァ書房)』
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…対馬暖流の影響で本土よりは温暖で,県の海岸からのびる6000平方カイリの陸棚が隠岐堆などのすぐれた漁礁をつくっている。 産業は半農半漁で,耕地は17世紀末には畑地が主でしかも牧畑が大部分であった。18世紀末には全島各村に牧畑があり,とくに島前では98%が牧畑であった。…
…(1)遅れた農業の残存 近世に入って急増する史料の示すところでは,農家の形態も多様であり,使用労働力にも下人労働から日雇労働まで性質の違う多様のものがあり,技術面にも多くの遅れたものを残している。畑作では焼畑,牧畑があり,稲作では湿田における直播農業も各地に残っている。それらのなかには,連年作付けの普通畑作や田植をする普通稲作の補充物にすぎないものもあるが,焼畑のうちには対馬の木庭作(こばさく),隠岐の牧畑のように地域の農業の中心となるものもある。…
※「牧畑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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