特性論(読み)とくせいろん(英語表記)trait theory

最新 心理学事典 「特性論」の解説

とくせいろん
特性論
trait theory

特性traitとは,種々の状況を通じてある程度一貫して現われる一定行動傾向を指す。特性論とは,この特性を用いて人格を理解・記述しようとする方法である。オルポートAllport,G.W.によると,一般に人は「同じ」行動をよく取ると思われている。しかし,本人がその行動を取る理由がわからなかったり,どうとでも解釈できるものだったりもする。それに,動物はいざ知らず,人間にはどんどん「変わる」人もいる。だから,同じ行動に見えても,それを取るのは違う理由に変わっているかもしれない。個人特性individual traitはその変化をも考慮しようとする。つまり,他者と同じ行動だが,取る理由・目的が違う場合である。同じ理由・目的で,違う行動が取られることもあるだろう。いずれも,個人特性が遠因というわけである。しかし,個人に焦点を当てるのでない限り,つまり普通の科学的心理学であれば,個人特性を研究することはない。個人特性は他の人と比べてもしかたない特徴であり,それに対比すると,共通特性はたくさんの人間をまとめて見る方法である。

 共通特性common traitは,一人の人が,一つのことに,一つの量をもてる,いわば「身長」のようなものといえる。ここで問題とされるのは「心理的特徴」であって,身長と同じように正規分布するものと仮定されるが,物理的特徴のように「目に見える」ものではない。また,心理的特徴は無数にあって,その分布は部分的に重なり合う。あるもの同士相関が高く,深い関連が考えられ,他のもの同士は相関が低く,関係がほとんどない。因子分析すると数値的関連の深いもの同士,つまり相関が高いものが結びつき因子になる。初めの因子は比較的しっかりしているが,因子数が増えるに従い,結びつきが弱くなる。これは数学的にあるいは心理学的に,しかたがないのかもしれない。

 因子数はデータによって決めることはできないし,各因子の特徴や意味も決められない。したがって,これらは理論によって決められる。各因子が何なのかは理論によるのである。現在,アメリカで最も支持を受けているのは,ゴールドバーグGoldberg,L.R.によるビッグ・ファイブBig Five(性格の5大因子)で,外向性extraversion,神経症傾向neuroticism,誠実性conscientiousness,調和性agreeableness,そして経験への開放性openness to experienceから成る5因子説である。5大因子それぞれが双極だから相当に複雑である。また因子分析は分析される最初の分布に影響を受けるので,たとえば経験への開放性を見いだすため,それに関する項目数がある程度,必要である。結局のところ,経験への開放性が日本で,または日本語で,重要か議論が分かれるところである。

 因子分析が現在のように用いられる以前に,アイゼンクEysenck,H.J.はパーソナリティの2因子モデルを提案している。それを測定するのはモーズレイ人格目録Maudsley personality inventory(MPI)で,アイゼンクのパーソナリティ理論に基づき,外向性と神経症傾向の2次元で構成されている。たしかに,これらは5因子説でも確認され,重要なものと考えられる。ただし,もともとの5因子説と違い,彼の考えは単なる分類の理論ではない。この外向性と神経症傾向は「実体」をもった特徴と考えられる。実際,学習における強化(賞罰)の受けやすさなど,これらの次元によるものと思われる違いが研究によって見いだされている。

 また,行動評定から12の根源的特性(打ち解けない-開放的なreserved/outgoing,知能の低い-高いless intelligent/more intelligent,情緒的-安定したemotional/stable,謙遜な-主張的humble/assertive,生まじめな-気楽なsober/happy-go-lucky,便宜的な-良心的なexpedient/conscientious,内気な-大胆なshy/venturesome,タフ・マインド-テンダー・マインドtough-minded/tender-minded,信頼する-疑い深いtrusting/suspicious,実際的な-想像的なpractical/imaginative,素直な-如才のないforthright/shrewd,穏やかな-気遣いの多いplacid/apprehensive)を因子分析によって選び,さらに本人に対する質問紙法(保守的な-何でも試みるconservative/experimenting,集団に結びついた-自己充足的group-tied/self-sufficient,行き当たりばったりの-統制されたcasual/controlled,リラックスした-緊張したrelaxed/tense)を加えたキャッテルCattell,R.B.の16PF(The sixteen personality factor questionnaire)がある。これは,外向性,不安傾向,意志の強さ,独立性,自己統制の二次因子に基づいた高次の尺度得点にも集計される。

 このように,パーソナリティは階層になっているという考え方もある。16PFが二次因子に変わるというのも,特性に階層があるという考えであるが,5因子説にもこれを頂点に,下に階層特性が続くという(コスタCosta,P.T.,Jr.とマックレーMcCrae,R.R.によるNEO-PI-R)。これに対し,もうこれ以上,因子分析しても二次因子にならない基本的なものとされれば,源泉特性とよばれる。しかし,これらは研究者の理論によって異なり,同じにならないのである。 →因子分析 →性格検査
〔黒沢 香〕

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