カルテル・入札談合など、刑事罰が科される独占禁止法(独禁法)違反事件に対し、公正取引委員会(公取委)が積極的に刑事告発を行えるよう、証拠収集能力を強化することができる権限。2005年(平成17)の独禁法改正で新設された制度で、公取委は裁判所の令状に基づき、刑事告発を前提とした臨検、捜索、差押えなどの強制捜査が可能となった(独禁法101条、102条)。なお、犯則嫌疑者の身柄まで拘束することはできない。
公取委は独禁法の規定に違反する犯罪があると思料するとき、検事総長に告発しなければならないと規定されている(同法74条2項)。また、カルテル・入札談合、私的独占などの罪(同法89条~91条)については公取委に専属告発権限が認められており、検察は公取委からの告発依頼がなければ公訴を提起することはできない。しかし、独禁法制定以降、刑事告発に至った事例は2015年時点で20件程度であり、刑事告発による違反行為抑止効果はあまり期待できない状態である。
公取委は従来、行政調査権限により事件関係人への聴取・審尋、証拠物の提出命令、事業所への立入り、帳簿等の検査などの処分権限が認められている(同法47条)。公取委の行政調査権限行使に事業者が協力しない場合、罰則が適用されることから、間接的ではあるが強制力が認められている(同法94条)。公取委は間接強制ゆえに令状が不要である一方、事業者は罰則という圧力により捜査を拒絶することもできず、相当程度に強力な調査権限を有していたのである。しかし、これらの処分権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と規定され(同47条4項)、収集した証拠を刑事訴追に用いることが禁じられていた。令状なくして収集された証拠を用いて刑事告発が行われれば、憲法が規定する適正手続の保障(憲法31条)に抵触するおそれが生じてしまうからである。犯則調査権限の導入により、刑事訴追を前提とした強制捜査による証拠収集が可能となり、公取委の刑事告発が活発化することが期待され、かつ憲法上の問題も解決するのである。
犯則調査権限行使のため、公取委事務総局審査局犯則審査部の職員から犯則事件調査職員が選任される。犯則事件調査職員は、裁判官の発する令状に基づき強制捜査を行う一方、行政的調査権限を行使することはできず、行政調査を行う審査官に指定することは認められない。また、行政調査により収集した事実が犯則調査の端緒となると考えられる場合でも、その事実を犯則事件調査職員に直接報告することは禁じられている(審査官指定政令および、犯則調査規則)。行政部門と犯則事件調査部門を切り離し、公平性を確保するため規定された規則であるが、これらを遵守したうえで、行政調査で収集した証拠と、犯則調査で収集した証拠の流用は可能と考えられている。
[金津 謙 2016年1月19日]
『谷原修身著『新版 独占禁止法要論』第3版(2011・中央経済社)』▽『土田和博・栗田誠・東條吉純・武田邦宣著『条文から学ぶ独占禁止法』(2014・有斐閣)』▽『久保成史・田中裕明著『独占禁止法講義』第3版(2014・中央経済社)』
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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