独占的競争(読み)どくせんてききょうそう(その他表記)monopolistic competition

日本大百科全書(ニッポニカ) 「独占的競争」の意味・わかりやすい解説

独占的競争
どくせんてききょうそう
monopolistic competition

生産物の差別化によりある程度の独占力をもっている多数の小規模な企業競争している場合をいう。各企業は、完全競争の場合のようにまったく同一の製品を生産するのではなく、実質的に質が多少異なっている製品、あるいは買い手が質が多少異なっていると考えるような製品を生産する。このような生産物の差別化は、特許、商標、デザイン、品質、販売方法の差異や広告により生ずる。売り手が小規模・多数である点では競争的であり、生産物の差別化によりある程度の独占力をもち、右下がりの需要曲線に直面している点では独占に類似している。典型的な例としては、各種の小売業、レストラン、ホテル・旅館理髪美容院などの業種があげられる。

 代表的な独占的競争企業について考えてみよう。その企業は、の(1)に示すように、右下がりの需要曲線DDに直面していて、限界収入曲線はMRとする。また、曲線AC平均費用、曲線MC限界費用であるとする。利潤最大を目的とする企業は、限界収入イコール限界費用が成立する産出量Qを選び、価格Pに設定する。点Eは短期均衡位置を示しており、企業はPEFGの利潤を得ている。

 次に、この独占的競争産業において、他の企業もまた利潤を得ているとしよう。既存の企業がすべて利潤を得ていると、この利潤を目ざして新企業がこの産業に参入してくる。すると既存の企業の客の一部はこの新企業に奪われるので、代表的企業の需要曲線は左側移行する(の(2))。この需要曲線の移行は、それが平均費用曲線に接するまで続く。需要曲線がDD′であると、価格は平均費用に等しくなり、利潤はゼロである。したがって新企業の参入もなくなる。点E′は長期均衡の位置を示している。長期均衡では、限界収入は限界費用に等しく、さらに価格は平均費用に等しく、利潤はゼロとなる。

[内島敏之]

『E・H・チェンバリン著、青山秀夫訳『独占的競争の理論』(1966・至誠堂)』『J・ロビンソン著、加藤泰男訳『不完全競争の経済学』(1956・文雅堂書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「独占的競争」の意味・わかりやすい解説

独占的競争
どくせんてききょうそう
monopolistic competition

個々売手の商品が差別化されているために,売手は右下がりの個別需要曲線に直面するという意味で,いくばくかの独占力が行使される一方同種の商品が互いに代替品であるために供給する企業間に競争的要因が作用している状態が独占的競争の状態である。独占的競争のもとでの均衡は,独占均衡と同じく限界収入が限界費用に一致する一方,超過利潤が存在する場合は他の企業の参入により,個別需要曲線が左方にシフトし,その結果価格が平均費用に一致するところで超過利潤が消滅する。独占的競争の均衡は,完全競争のもとでの長期均衡と比較すると,価格が高く産出量も小さい。

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世界大百科事典(旧版)内の独占的競争の言及

【競争】より

…まだ制度的,人為的な要因にもとづく競争の制限がなく,長期的には企業の参入,退出の自由も満たされているとされる。 完全競争と典型的な寡占との一つの中間的形態に,E.H.チェンバレンによって考察された独占的競争の市場というのがある。そこでは同一産業内に多くの製品分化をともなった企業が存在し,各企業はその供給する特定のタイプの生産物に愛着をもつ一群の買手にたいしてはある程度の独占力をもつが,産業内の他の企業や新規参入企業との競争を考慮しなければならない立場にある。…

※「独占的競争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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