環境行政(読み)かんきょうぎょうせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「環境行政」の意味・わかりやすい解説

環境行政
かんきょうぎょうせい

国民の生命・健康の保護に始まり、生活環境一般の保全を目的として、具体的には、公害や国土の乱開発などによって生ずる環境の破壊を防止し、被害者の救済を図るだけでなく、積極的に環境の保全を行う行政を一般にさしている。

 日本の環境行政は、公害対策行政あるいは公害防止行政として展開されてきたが、近年、公害の規制だけでなく、広く国民の生活環境を保全し、自然や文化という環境を保全することに加え、土壌汚染対策、化学物質管理や地球温暖化対策を含めた幅広い行政領域を環境行政とよぶようになってきている。このような内容をもつ環境行政は、そこで究極的に保全されようとしている環境が、国民の健康で文化的、および豊かで人間に値する生存・生活の権利(憲法25条・13条など)と密接不可分の関係にあること、特定個人の独占すべきものではなく、多かれ少なかれ国民や地域住民の共有に属する性格をもつこと、加えて、ひとたび侵害されるとそれに伴う被害(生命・健康)のみならず、環境自体の原状回復がなかば不可能であること、などの理由(事柄の性質)から、事後的な消極的行政ではなく、一義的には、事前的な予防措置を中心とした総合的行政でなければならない。したがって、環境行政の手段として、計画が重要な地位を占めることになり、この計画の下で、各種の規制、助成、救済などの手段が総合的に組み合わされて環境行政が実施されることになる。

 しかし、このような環境行政を実施するうえで、これを担当する行政組織や、必要な行政権限は、かならずしも十分なものとはいえなかった。たとえば、環境行政は、国土開発行政や産業基盤整備行政と抵触することが少なくないが、2001年(平成13)に省に昇格する以前の環境庁時代、これらの行政を担当していた建設省(現国土交通省)や通商産業省(現経済産業省)などの権限との調整を環境行政の観点からする権限が当時の環境庁に与えられていたわけではなく、1983年(昭和58)に廃案となった環境アセスメント法案をめぐる一連の確執はこの問題点を例証するものであった。環境省に昇格以降は環境行政を総合的に行うことが可能となったが、たとえば廃棄物・リサイクル行政に関しては、環境大臣が経済産業大臣や厚生労働大臣と共同決定することが求められることがある(「資源の有効な利用の促進に関する法律」平成3年法律第48号)。さらに、環境行政を現場で担う地方公共団体が、当該地域の自然的・社会的条件の特質をふまえて、国の法令と同一目的で同一事項につき、法令よりも厳しい基準を付加したり、より強い態様の規制をすることが許容されるのかという点については議論のあるところであり、効果的な環境行政を実施するうえで、なお解決すべき法的問題が残されている。なお環境アセスメントについては1997年(平成9)に環境影響評価法制定された。近年では環境行政を国や地方公共団体のみで行うのではなく、私人やNPOなどもこれに積極的にかかわることが要請されつつある。

[福家俊朗・山田健吾]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「環境行政」の意味・わかりやすい解説

環境行政
かんきょうぎょうせい

広く公害問題に対処し,自然環境の保全にあたる行政をいう。日本では 1967年に公害対策と救済を中心とする公害対策基本法が制定されたが,生活環境の保全を「経済の発展と調和がはかられるようにするものとする」と規定した,経済との調和条項が問題となった。この条項は 70年末のいわゆる公害国会で基本法が改正された際に削除された。同時に,従来かつての厚生省を中心に各省庁にまたがっていたために公害対策が後手後手にまわったとの反省から,公害行政の一元化を望む声が強まり,翌 71年6月,「環境の保全に関する行政を総合的に推進すること」を目的として,当時の総理府に環境庁 (現環境省) が設置された。初代長官であった大石武一の積極的な政策により自然保護の機運が高まり,72年には自然環境保全法が制定された。同年,環境行政に関する政府の公式な年次報告書として 1969年以来出されていた公害白書に代えて,環境白書が出されるようになった。 76年には川崎市が初の環境影響評価条例を制定,この動きを受けて各自治体でも条例や要綱が制定されたが,環境庁の数年来の努力にもかかわらず環境影響評価法案は 83年に廃案となってしまった。
1980年代後半になると,熱帯雨林の減少,生物種の減少,砂漠化,温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨,海洋汚染など地球規模の環境破壊が国際的に問題とされるようになった。 1992年にはブラジルで環境と開発に関する国連会議 (地球サミット) が開催され,環境と開発に関するリオ宣言アジェンダ 21などが合意された。日本でも従来の公害対策基本法と自然環境保全法を2本柱とした法体系では,地球環境問題に対処できないとの認識が高まり,93年には新たに環境基本法 (平成5年法律 91号) が制定された。環境基本法が各自治体に基本理念にのっとり国の施策に準じて実施を求めていることを受け,各自治体で環境基本条例や基本計画作りが進められている。また政府としても 94年 12月に環境基本計画を閣議決定し,地球環境保全に関する国際協力などの長期的目標をかかげるなど,前進はみられる。
しかし環境基本法は,法案作成過程で財界や開発推進派の省庁からの圧力がかかり妥協がはかられたために,数々の問題点をはらんでいるのも事実である。たとえば経済との調和条項的な色彩が持続的発展というかたちで復活し,リオ宣言でうたわれた環境権も明示されておらず,汚染者負担の原則や懸案となっていた環境影響評価法に関する規定も盛込まれていない。また,地球環境問題の解決とはいえ,地域を軽視した問題の解決などありえないので,あくまで足元の環境対策や公害対策を重視する視点を盛込む必要がある。環境基本法をより実効性のあるものとするためには,以上のような問題点の改正が必要といわれたことから,2001年1月の中央省庁改革に際して開発推進派の圧力に屈しないような制度的保証として,環境庁は省に格上げされた。

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