日本大百科全書(ニッポニカ) 「絨毛上皮腫」の意味・わかりやすい解説
絨毛上皮腫
じゅうもうじょうひしゅ
胎盤絨毛の上皮細胞由来の悪性腫瘍(しゅよう)で、悪性絨毛上皮腫または絨毛癌(がん)ともよばれ、肺、脳、肝臓、腎(じん)臓など全身性転移を好発する特徴をもつ。妊娠経験者にみられるが、発病患者数は少ない。
[新井正夫]
分類
妊娠性と非妊娠性に大別される。妊娠性絨毛癌は、子宮および子宮外(卵巣や卵管など)の通常妊娠が成立しうる部位に病変のみられる正所性と、通常妊娠が成立しえない部位に病変があって正所性の病変のみられない異所性のものに細分される。なお、正所性で異所性を伴うものを転移性絨毛癌、伴わないものを非転移性絨毛癌という。また非妊娠性絨毛癌には、奇形腫性のものと、他の癌(胃癌や肺癌など)が絨毛癌様組織へ移行した分化異常によるものとがある。これらのほか、妊娠性とも非妊娠性とも区別しがたいものがある。
妊娠性絨毛癌は、胞状奇胎および侵入胞状奇胎(胞状奇胎が子宮壁や骨盤血管内に侵入したもの)を含むあらゆる妊娠に続発しうるわけであるが、他の絨毛癌はまれである。また、過半数は胞状奇胎を先駆とするが、流早産や正常分娩(ぶんべん)、あるいは久しく妊娠していない女性にも突発することがある。なお、胞状奇胎の5~10%に絨毛癌の続発がみられる。
[新井正夫]
症状
おもな自覚症状は、子宮出血をはじめ咳(せき)や血痰(けったん)、胸痛、貧血、衰弱感のほか、転移部位と関連して多彩な症状がみられ、診察のためにまず産婦人科を訪れるとは限らない点が問題である。肺転移はもっとも好発し、脳転移の場合は致命的となるケースが多い。
[新井正夫]
診断
妊娠経験の有無、とくに胞状奇胎を経験しているかどうか、子宮出血の有無、転移病巣による症状の有無などが重要で、これに妊娠反応が陽性であれば疑いが強くなる。なお、肺転移の診断には胸部X線検査を行う。また、類似の症状がみられる絨毛性疾患の侵入胞状奇胎との鑑別診断も重要である。
[新井正夫]
治療
まず化学療法が行われる。使用薬剤としてはメトトレキサートやアクチノマイシンDなどが優先されるが、抵抗性のこともある。病巣が限局している場合、あるいは化学療法で効果が認められないときには、手術療法も行われる。寛解率は50~60%とされるが、寛解および治癒の判定については、まだ統一見解がない。なお、おもな死因は重要臓器への転移による出血および脳転移である。
[新井正夫]