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産業遺産 さんぎょういさん

大辞林 第三版の解説

さんぎょういさん【産業遺産】

過去の産業にかかわる施設や製品の総称。ダム・橋などの建造物から、製品類・製造用機械・工具・図面類なども含まれる。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

産業遺産
さんぎょういさん
industrial heritage

工業や農業など、広く産業にかかわる施設や機械・器具のうち、一定の期間を経て現在に残されたもの。狭義には近代以降、とりわけ産業革命以降の工業の発展に関する遺産をさすことが多いが、広義には、時代を問わず、農業、水産業、鉱工業、交通など産業全般にかかわる遺産をさすこともある。[佐滝剛弘]

ヨーロッパの産業遺産

ヨーロッパでは、産業革命発祥の地であるイギリスや、19世紀後半から20世紀前半にかけて工業化が進展して世界一の工業国になったドイツなどで、1950年代から近代産業の発展に寄与した遺構や機械を保存しようとする動きが始まり、インダストリアル・ヘリテイジindustrial heritageという概念が確立した。
 1973年には、産業遺産の保護や振興を目的とした世界的組織として、国際産業遺産保存委員会(TICCIH(ティッキ):The International Committee for the Conservation of the Industrial Heritage)が設立され、以後、各国の産業遺産の研究者が定期的に集まって諸問題を議論している。TICCIHでは、2003年7月、ロシアのニジニー・タギルで開催された総会で、産業遺産の保存に関する国際的な基準となる「産業遺産ニジニー・タギル憲章」を制定した。
 また、イギリスやドイツ、フランスなどでは、ヨーロッパ産業遺産の道(ERIH:European Route of Industrial Heritage)とよばれる、ヨーロッパでとくに重要な産業遺産をつなぐルートを整備するプロジェクトが進行しており、2015年7月時点で、44か国の1000以上の施設がこの道で結ばれている。[佐滝剛弘]

日本の産業遺産

日本でも、高度経済成長期からオイル・ショックなどを経て価値観が多様化してきた1980年代以降、近代化に大きな足跡を残した遺構の重要性が認識され始め、保存への関心が高まってきた。文化庁は、1990年(平成2)から「我が国の近代化に貢献した産業・交通・土木に係る建造物」、いわゆる近代化遺産の調査を開始し、これまでの社寺などの文化財の概念には含まれなかった施設も、保護すべき貴重な財産とみなされるようになった。1996年に制定された文化財登録制度により、現状の変更などの基準が従来の文化財に比べて緩和され、稼働中のものも含めて産業遺産を文化財ととらえる仕組みができあがった。建造物の登録有形文化財は2015年(平成27)10月時点で1万0197件であるが、そのうち第一次産業に関するものが111件、第二次産業に関するものが1010件、第三次産業に関するものが1315件、交通に関するものが409件あり、これらも産業遺産といえる。
 また、産業活動を管轄する経済産業省も、2007年に近代化産業遺産を認定する制度をつくり、認定した全国各地の近代化に寄与した個々の遺産を、相互に関連する複数の遺産で取りまとめた「近代化産業遺産群」(2007年と2009年ともに、それぞれ33のストーリー、あわせて1115件)として選定し公表している。[佐滝剛弘]

世界遺産との関係

ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産には、登録開始当初から、広義の産業遺産が登録されている。日本で知名度の高い世界遺産への登録の広まりが、日本の産業遺産の概念の浸透に寄与した面も大きい。たとえば、1978年に世界で最初に登録された12件の世界遺産のなかにも、産業遺産である岩塩の採掘地「ビエリチカとボフニアの王立岩塩坑」(ポーランド)が含まれている(登録時の名称は「ビエリチカ岩塩坑」。2013年範囲拡大により変更)。また、1994年、世界遺産委員会により、世界遺産の地域による偏りを是正するため、文化的景観、20世紀の建築、そして産業遺産の登録を積極的に目ざすグローバル・ストラテジーGlobal Strategy(正式名称はThe Global Strategy for a Balanced, Representative and Credible World Heritage List。日本語訳は「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性、信用性の確保のための世界戦略」)が採択され、ワイン生産地、コーヒー農園などの農業遺産や、イタリアやインドの山岳鉄道、運河など交通にかかわる物件も多く登録されるようになった。
 日本では、2007年に世界遺産に登録された、中世から近世にかけての鉱山遺構「石見(いわみ)銀山遺跡とその文化的景観」が最初の広義の産業遺産となった。また、2014年に登録された「富岡(とみおか)製糸場と絹産業遺産群」は、明治初期に西洋の技術を取り入れて建造・運営された狭義の産業遺産であり、日本で初めての近代の産業遺産となった。さらに、2015年にも、八幡(やはた)製鉄所や三池(みいけ)炭鉱、長崎造船所、三重津(みえつ)海軍所跡(佐賀市)など九州を中心とした多くの幕末・明治期の産業遺産群が、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として、世界遺産に登録された。[佐滝剛弘]

産業考古学

産業遺産を研究の対象とする学問は産業考古学とよばれる。日本でも1977年(昭和52)に産業考古学会が発足し、1985年からは学会推薦の産業遺産が発表されている。[佐滝剛弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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