老中支配下にある江戸幕府の職制で甲府勤番支配を長とする。1724年(享保9)甲府藩主柳沢吉里の大和郡山転封のあと,甲斐国(山梨県)一円が幕府直轄領となったことによって甲府城警衛のため設置された。甲府城の南に大手,北に山手(やまのて)の2組から構成されるが,《徳川実紀》によると同年7月小普請組支配から有馬内膳純珍と興津能登守忠閭(たださと)が任命され,職制上は遠国奉行の上に定められた。ついでその下に500石以下200石までの江戸在住の小普請の士で,年齢17歳より60歳までの者を100人ずつ勤番士として所属せしめ,また勤番士の組頭2人ずつを設け,さらに与力10人,同心50人ずつが命ぜられたことによって甲府勤番の体制が整備された。勤番支配は芙蓉間詰,高は3000石で,以下の場合は足高(たしだか)の制によるとされ,役知(やくち)1000石は山梨・八代両郡のうちの幕領5ヵ村に入り組んであたえられた。1866年(慶応2)までの142年の間に大手は39人,山手は36人が任命されている。また勤番士のなかで仮目付,武具奉行,破損奉行などに任ぜられた者には別に手当が給せられた。勤番の任務は幕府直属の兵力として甲府城の守護にあたるとともに,城米の管理および弓・鉄砲など武器の整備にあった。甲府の市政は従来の町奉行にかわって大手・山手両役宅に付設された町方役所が月番で聴訴・断獄・駅伝その他の民政をおこない,両勤番支配の下に付属する用人が庶務を,与力・同心が主として警察にあたった。町方支配を補佐するのが町年寄である。
勤番支配の業績として特記すべきものに徽典館(きてんかん)の設立がある。これは1796年(寛政8)大手勤番支配近藤政明が山手勤番支配永見為貞とはかって,勤番士とその子弟の教育のため幕府の許可を得て創立した甲府学問所がはじめで,1805年(文化2)大学頭林衡(たいら)によって徽典館と命名され,43年(天保14)に山手勤番支配酒井忠誨(ただみち)・大手勤番支配浅野長祚(ながとし)により学舎を大手門前に新築したものである。また大手勤番支配松平定能(さだまさ)が幕府の内命をうけて着手した《甲斐国志》123巻の編纂事業は,8年の歳月を費やして14年(文化11)に完成したが,甲斐国の地誌として著名である。そのほか勤番士野田成方(しげかた)の《裏見寒話》(1752序)や宮本定正(さだあき)の《甲斐の手振》(1850)が知られる。勤番支配や勤番士による江戸文化の移入および甲斐の文運の進展に果たした役割は大きかったが,後期には甲府への赴任は体のよい配流,〈山流し〉として受けとめられていたという。64年(元治1)幕府は新たに甲府町奉行を置き,これまでの勤番支配による町方兼務を解いたが,翌年にはその職制を廃し,さらに66年(慶応2)甲府勤番支配の制を廃して甲府城代を置き,再び町奉行を設けて町政をつかさどらせた。
執筆者:飯田 文弥
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江戸幕府が、甲府城の守護・管理と甲府町方支配のため、老中の下に設置した職名。1724年(享保9)甲府城主柳沢吉里(やなぎさわよしさと)は大和郡山(やまとこおりやま)に転封、甲斐(かい)国(山梨県)全域が幕府直轄領となり設置。構成は、支配2名の下に番士200名、与力(よりき)20騎、同心100名を配置、大手、山手2組に分け、各組は支配1名、組頭(くみがしら)2名の下に仮目付(かりめつけ)10名を置き、両組を14組に分ける。勤務は両組隔日交代、昼夜交代で城内楽屋殿に勤番。また甲府民政は両支配が月番で処理。支配、番士とも多く小普請(こぶしん)組より任命。支配は遠国奉行(おんごくぶぎょう)筆頭、高3000石、役料1000石、番士は高500石から200俵取まで。勤番士への任命は「山流し」などといわれ嫌われた。
[増田廣實]
『笹間良彦編『江戸幕府役職集成』改訂増補(1972・雄山閣出版)』
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…幕府創設以来,郡内には譜代大名が配置され,国中には家門が封ぜられるか直轄領としての支配が行われ,また旗本領が分散する分封・配置がみられたのは,江戸に隣接する要枢の地として甲斐の政治的軍事的配慮にもとづくものであろう。24年甲斐は一円天領化され,甲府勤番支配と三分代官の支配下に置かれた。勤番支配は大手・山手に分かれて,配下にそれぞれ組頭以下勤番士・与力・同心が属し,幕府直属の兵力として甲府城の警衛にあたるとともに,町方役所が市中の民政をつかさどった。…
※「甲府勤番」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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