男色大鑑(読み)なんしょくおおかがみ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「男色大鑑」の意味・わかりやすい解説

男色大鑑
なんしょくおおかがみ

井原西鶴(さいかく)の浮世草子。1687年(貞享4)1月、大坂・深江屋太郎兵衛、京都・山崎屋市兵衛より刊行。八巻10冊。巻一から巻四までの前半部分は、武家社会の衆道(しゅどう)の世界に取材したものが多く、衆道の義理に殉ずる人間たちの数奇な運命が語られている。巻五以降は、当時流行の歌舞伎(かぶき)社会に取材し、いかにも演劇通であった西鶴らしく、興味ある歌舞伎話を提供している。浮世草子の題材を幅広く展開させ、壮烈な男たちの物語と艶冶(えんや)な歌舞伎社会の裏面とを組み合わせて、得意の情報網を駆使しながら縦横に描き上げようとした作品である。

浅野 晃]

『暉峻康隆他校注・訳『日本古典文学全集39 井原西鶴集 二』(1973・小学館)』『麻生磯次・冨士昭雄訳注『対訳西鶴全集6 男色大鑑』(1979・明治書院)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「男色大鑑」の意味・わかりやすい解説

男色大鑑
なんしょくおおかがみ

浮世草子井原西鶴作。8巻。貞享4 (1687) 年刊。各巻5章,計 40章から成る短編小説集。前4巻は武家,後4巻は歌舞伎役者に関する男色説話。男色を題材とした作品は室町時代児物語 (ちごものがたり) があり,江戸時代初期の仮名草子にも『藻屑物語』『心友記』などがあったが,本書は浮世草子中最初の作で,以後多くの男色物を生み出すをなした。

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精選版 日本国語大辞典 「男色大鑑」の意味・読み・例文・類語

なんしょくおおかがみ ナンショクおほかがみ【男色大鑑】

浮世草子。八巻一〇冊。井原西鶴作。貞享四年(一六八七)刊。傍題、本朝若風俗。前半四巻は武家社会を中心に、男色をめぐる意気地にからむ話が多く、説話風の面白さを基調としている。後半は、歌舞伎若衆にまつわる逸話、歌舞伎界の内実などを素材とした随想風の作品が多い。当時の男色をめぐる話題を総合的に幅広く取り上げた作品。

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デジタル大辞泉 「男色大鑑」の意味・読み・例文・類語

なんしょくおおかがみ〔ナンシヨクおほかがみ〕【男色大鑑】

浮世草子。8巻。井原西鶴作。貞享4年(1687)刊。各巻5章5話、計40話から成る。前半は武家社会の義理と意気地に殉ずる男たちを描き、後半は歌舞伎若衆の男色ばなしを収める。

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世界大百科事典 第2版 「男色大鑑」の意味・わかりやすい解説

なんしょくおおかがみ【男色大鑑】

井原西鶴作の浮世草子。8巻8冊。40話。1687年(貞享4)刊。改編改題本に《古今武士形気》がある。本書成立の背景には,かつては僧侶や一部の公家の間の習俗であったが,中世,わけて戦乱が日常化した戦国時代以来武家社会の生活にも瀰漫(びまん)した男色(男子間の同性愛,とくに年長者が年少者を愛する稚児愛,若衆愛をさす)の風潮,さらに江戸時代に入ると一般庶民の間にもその風は広まり続けた日本独自の男色史の経緯がある。

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世界大百科事典内の男色大鑑の言及

【男色物】より

…また文学そのものとはいえないが,田楽,能楽等の伝統を受けついで少年俳優を売物にすることによって男色を広める一翼を担った歌舞伎の世界では,遊女評判記に倣って《野郎虫》《剝野老(むきところ)》《赤烏帽子》などの野郎評判記が刊行され,のちには《三の朝》なる男色細見というべきものまで発行された。1687年(貞享4)に刊行された西鶴の《男色大鑑》は,前半4巻には武士僧侶間に盛行した念友関係,その緊張感から生まれる意気地,義理の葛藤,その涯(はて)は敵討や決闘に至るという血なまぐさい男色譚を収め,さらに,金銭を媒介とするという意味で職業的な少年俳優との同性愛譚を集めた後半4巻で成り立っている。浮世草子男色物の決定版といわれる。…

※「男色大鑑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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