盛久(読み)モリヒサ

デジタル大辞泉 「盛久」の意味・読み・例文・類語

もりひさ【盛久】

謡曲四番目物観世十郎元雅作。長門平家物語などに取材。捕らえられて鎌倉へ送られた平家の主馬判官盛久が、清水観音利益りやくで死を免れる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「盛久」の意味・読み・例文・類語

もりひさ【盛久】

  1. 謡曲。四番目物。各流。観世十郎元雅作。長門本「平家物語」による。源氏に捕えられて鎌倉に送られることになった主馬判官(しゅめのはんがん)盛久は、護送役の土屋三郎に頼んで清水観音を訪れ祈願する。由比ケ浜処刑されようとしたとき、盛久の手の経の巻物から発する光で太刀持ちは目がくらみ太刀を落とす。この話を耳にした頼朝は盛久を許す。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「盛久」の意味・わかりやすい解説

盛久 (もりひさ)

能の曲名四番目物。現在物。観世元雅(もとまさ)作。シテは主馬盛久(しゆめのもりひさ)。平家の侍盛久は,源平の戦いで生捕りにされ,土屋某(ワキ)の手で関東へ護送される。盛久は途中清水(きよみず)の観音へ別れの参拝を許され,輿(こし)に乗せられて東海道を下った。逢坂山を越え,瀬田の橋を渡り,老蘇(おいそ)の森,熱田の浦を経て,〈命なりけり〉と古歌に詠まれた小夜(さよ)の中山,〈変わる淵瀬(ふちせ)〉といわれる大井川を過ぎ,富士を仰ぎ箱根を越えて鎌倉に着いた(〈下歌(さげうた)・上歌(あげうた)・ロンギ等〉)。土屋から明日の命と知らされた盛久は,とくに願って観音経を読誦するが,そのあとの夢の中でふしぎな告げを受ける。由比ヶ浜に引き出された盛久は,経巻を手にして最期の座に着くが,太刀を振り上げた太刀取り(ワキヅレ)の目がくらみ,落とした太刀は二つに折れていた。盛久は頼朝の前に召し出され,夢の告げについて尋ねられる。その夢というのは,どこからともなく現れた老僧が,自分は都の清水から汝のためにやって来た者だが,安心しているがよいと告げたというのである(〈クセ〉)。この奇跡のために盛久は命を許され,杯を賜って舞を所望され(〈男舞〉),めでたく退出したのだった。前半は海道下りの叙景が中心,後半はクセと男舞が中心で,それを劇的な霊験が起こる場面でつないである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「盛久」の意味・わかりやすい解説

盛久
もりひさ

能の曲目。四番目物。五流現行曲。観世元雅(かんぜもとまさ)作。父の世阿弥(ぜあみ)自筆の台本が現存する。出典は『長門(ながと)本平家物語』。捕らえられた平家譜代(ふだい)の武将主馬判官(しゅめのはんがん)盛久(シテ)は、護送の土屋三郎(ワキ)に頼み、信仰する清水(きよみず)の観世音(かんぜおん)に参詣(さんけい)し、死の待つ鎌倉への旅を行く。処刑の前夜、観音(かんのん)経を読誦(どくじゅ)して霊夢を受ける。由比(ゆい)の浜で首を切られようとするとき、太刀(たち)持ち(ワキツレ)の刀が折れる奇跡が生まれ、同じ夢をみて感動した源頼朝(よりとも)によって命が許され、祝杯を授けられて喜びを舞う。信仰に支えられた人間の強さ、運命の前にたじろがぬ古武士の風貌(ふうぼう)を描いた佳作である。この能の前編ともいうべき『生捕(いけどり)盛久』があるが、今日では上演されない。

[増田正造]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android