図のような形状の導体でx方向の電流密度を Jx とし,これと直角に Bz の磁場を加えると,ローレンツ力によって,Jx と Bz の両方に直角な電場 Ey が生じる.これは,アメリカの物理学者E.H. Hallによって発見されたため,ホール効果という.Jx,Ey,Bz の間には,
Ey = RJx × Bz
の関係があり,Rをその物質のホール定数という.ホール定数と,単位体積中の伝導電子数n,電子の電荷eの間には,
(γは散乱係数で,高純度のSiやGeでは3π/8をとり,金属や金属間化合物では1である)の関係がある.伝導にあずかる粒子が電子であるn型半導体などではR < 0であるが,ほとんど満たされたエネルギー帯中で,正孔による伝導であるp型半導体などの場合はR > 0となる.そのときはnを正孔の濃度Pで置き換え,eを-eとすれば,上式はそのまま成り立つ.以上は,伝導粒子が電子か正孔かの一方である場合を考えたが,両方によって伝導が起こっている場合は,より複雑となる.ホール効果は,とくに半導体において,伝導の性質を研究するうえで重要である.この効果の応用として,Ge,Siや,In-Sb,In-Asを用いた磁束計や,電力計,無接点ボリューム抵抗などがつくられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
導体に電流を流しながらこれと垂直に磁場をかけると,電流と磁場の両方に垂直な方向に電場が生ずる現象。1879年にアメリカのホールEdwin Herbert Hall(1855-1938)によって発見されたのでこの名がある。電流密度,生じた電場,磁場の方向をそれぞれx,y,z方向にとり(図),符号も含めたそれらの大きさをJ,EH,Bとするとき,EH/JBをホール係数という。ホール効果の原因は磁場の中を運動する荷電粒子に働くローレンツ力である。電荷qの粒子がx方向に速度vで動くとし,単位体積当りの粒子数をNとすれば,電流密度JはNqvである。z方向の磁場Bの中で粒子にはy方向にローレンツ力-qvBが働く。これにより粒子はy方向に動こうとするが,この方向は行止りであるため,この方向に垂直な両側表面に電荷がたまり,この電荷のためy方向の電場が生ずるのである。定常的には,ちょうどローレンツ力を打ち消すだけの電場EHが発生し,y方向への粒子の動きをおさえている。すなわち,
-qvB+qEH=0
であるから,EH=vBとなり,ホール係数RHは,
RH=EH/JB=1/Nq
となる。ホール係数はとくに半導体での実験に際しての基礎データとして重要で,この符号から荷電粒子の符号,担体が電子か正孔かがわかる(図は担体が電子の場合)。さらにRHの大きさから担体の密度Nを求めることができる。ただし伝導電子と正孔の双方が同程度に電流に寄与しているときには,ホール係数の打消し合いが起こり,解析は複雑になる。
執筆者:黒沢 達美
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1879年にアメリカの物理学者E・H・ホールが発見した電流磁気効果の一種。電流の流れている半導体や金属の板に垂直に磁束密度Bの磁場をかけると、電流と磁場に垂直な方向に電場(ホール電場EHという)が生じ起電力が発生することをいう。
n形半導体に電場Eと同時にそれと直角の方向に磁場を加えた場合、電子は電場と反対方向に平均速度v(=μE)で移動する(μは電子の動きやすさの程度を示す移動度)。すると、電子は速度vと磁束密度との積に比例した力を、運動の方向と磁束の方向との両者に直角の方向に受けて、その運動方向がしだいに曲げられてくる。その結果、電子は弧を描きながら平均として電場と反対方向に対しある角度θをなす方向に進む。これは、半導体中では、電子はある程度加速されて移動すると、結晶格子あるいは不純物などに衝突して静止し、ふたたび振り出しに戻って同様の運動を繰り返しながら一定の平均速度で移動しているからである。このため、電子は で左側に掃き寄せられるので左側が負に帯電し、電場に対して直角方向右向きの電場を生ずることになる。これをホール電場とよんでいる。また、半導体片の両側面に電荷が偏った結果として電圧が発生する。このとき発生する電圧をホール起電力とよぶ。
[右高正俊]
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(荒川泰彦 東京大学教授 / 桜井貴康 東京大学教授 / 2007年)
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