翻訳|symmetry
一般にある図形または物体が一つの直線(相称軸)または平面(相称面)によって,鏡像をなす二つの部分に分けられることをいう。数学でいう対称とほぼ同じ概念であるが,対称が厳密な概念であるのに対し,相称は原則的に鏡像をなすことをさし,数学的厳密性を必要としない。生物学では,生物体の全体または一部の外形を整理分類するのにこの概念が用いられる。E.ヘッケルは1866年,系統類縁関係による分類とは別に,生物体の軸・極・相称性によって生物界を形態学的に分類することを提唱し,この体系を〈基本形態学Promorphologie〉と名づけた。現在の相称の概念は彼の創始によるところが大きい。
ヘッケルの分類では,生物は体軸をまったくもたない無軸型と,なんらかの体軸をもつ有軸型にまず大別される。無軸型は相称面をもたないので,このようなものを無相称(不相称)という(アメーバ,カイメン,巻貝など)。有軸型には同軸型と異軸型が含まれ,前者は体内の1点を通ってあらゆる方向にのびる同種の軸をもつもの,つまり球形の生物で,この形態を全面相称(普遍相称)という。原生動物の放散虫類やタイヨウチュウ,緑藻のボルボックスなど原始的な生物や,動物の卵細胞などがこれにあたる。異軸型は一つの主軸をもつもので,それには単軸型と交軸型が区別される。前者は回転体に相当し,この体形を多相称という。ゾウリムシ,鳥の卵,キノコなどがそれである。後者は主軸とそれに交わる一つ以上の副軸をもつもので,これに3種の相称が含まれる。第1は三つ以上の相称面をもつもので,放射相称と呼ばれ,ウニやヒトデなどの棘皮(きよくひ)動物(相称面は五つ),ヒドラやクラゲなどの腔腸動物(相称面は四つないし六つ,またはその倍数)がそれである。この体形は固着生活や浮遊生活に適応した生物に多い。第2は互いに直交する二つの相称面をもつもので,腔腸動物のサンゴ虫類やクシクラゲ類がこれにあたる。第3は,ただ一つの相称面つまり正中面をもち,この平面を挟んで体の左右の半分が鏡像の関係にあるもので,これを左右相称(両側相称)という。大半の脊椎動物や無脊椎動物がこれである。これらの生物体の正中面は,前端の1点と後端の1点を結ぶ前後方向の軸とそれに直交する背腹方向の軸によって決まるものなので,左右相称は二軸相称とも呼ばれる。動物体の左右相称は活発な前進運動に適応した体形で,感覚器,筋肉,骨格が同じく左右相称の構造をもつことと不可分のものである。このような動物でも,運動と直接関係のない内臓は,原則的にまた個体発生的には左右相称であるが,実際には二次的に無相称になることが多い。
なお,生物体の一部に関しては,相称性をもつ動物の各部分のほか,植物の各部分にも種々の相称性が認められる。一般に植物では,植物体全体の相称性が不明りょうであることが多いが,そのような場合にも原則的には相称の形態になっている例が少なくない。
→体制
執筆者:田隅 本生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物学用語では、動物をある面によって互いに鏡像的な等しい部分に分けられることをいう。大きくみて、放射相称と左右相称に分けられる。放射相称とは、体軸を通る相称面が三つ以上ある場合で、タイヨウチュウなどの原生動物、イソギンチャク、クラゲなどの腔腸(こうちょう)動物、ヒトデ、ウニなどの棘皮(きょくひ)動物がその例である。いずれも運動性の低い動物、あるいは着生動物である。左右相称とは、相称面が一つで、これにより体が左右均等に分けられるものをいい、脊椎(せきつい)動物をはじめ、多くの動物にみられる。左右相称動物には頭尾軸が明確で、中枢神経系が頭部に集中する傾向があり、対(つい)になった左右の感覚器から外界の情報を得られる。そのため運動に方向性が生じる。これらの点と運動性が高いこととは深い関係がある。ヒトデやナマコも、幼生のときはプランクトンとして運動性があり、左右相称的な体制である。このように個体発生の過程で二次的に相称性が変わる場合もある。一方、アメーバのように相称性をもたない動物もいる。しかしながら、ヒトの体を考えてもわかるように、左右相称というのは主として体の外面のことで、内臓の配置など厳密には左右相称でない場合が多い。
[和田 勝]
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