睾丸炎(読み)こうがんえん

精選版 日本国語大辞典 「睾丸炎」の意味・読み・例文・類語

こうがん‐えんカウグヮン‥【睾丸炎】

  1. 〘 名詞 〙 睾丸の炎症。急性の場合は、高熱とともに陰嚢の中が腫(は)れあがって痛む。急性伝染病の罹患中に続発し、特に成人がおたふくかぜにかかったときに併発しやすい。慢性の場合は梅毒によるものが多い。〔医語類聚(1872)〕

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家庭医学館 「睾丸炎」の解説

こうがんえんせいそうえん【睾丸炎(精巣炎) Orchitis】

◎急性と慢性がある
[どんな病気か]
 睾丸炎には、急性と慢性があります。
 急性睾丸炎(きゅうせいこうがんえん)は、睾丸(精巣)が急に赤く腫れあがり、疼痛(とうつう)(激しい痛み)がおこる病気で、多くの場合、流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)(おたふくかぜ(「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」))にともなっておこります。
 慢性睾丸炎(まんせいこうがんえん)は、睾丸は徐々に腫れますが、発赤(ほっせき)や疼痛がほとんどおこらず、結核性睾丸炎(けっかくせいこうがんえん)によるものが代表です。
 睾丸炎は、副睾丸炎精巣上体炎(せいそうじょうたいえん))に比べてまれな病気で、最近は予防的に抗生物質が使用されるため、流行性耳下腺炎にともなう睾丸炎を除くと、睾丸炎はほとんどみられません。
[原因]
 細菌(大腸菌(だいちょうきん)、レンサ球菌(きゅうきん)、ブドウ球菌など)、ウイルス(流行性耳下腺炎ウイルス、インフルエンザウイルスなど)、真菌(しんきん)(アクチノミコーシスなど)、特殊な菌(結核菌(けっかくきん)、らい菌、梅毒菌(ばいどくきん)、淋菌(りんきん)など)、寄生虫(フィラリア、住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう)、マラリアアメーバなど)、外傷性など、いろいろな原因が知られています。
 睾丸炎は、外傷性睾丸炎を除き、血行性におこります。すなわち、からだの他の部位に感染巣(耳下腺炎、扁桃炎(へんとうえん)、上顎洞炎(じょうがくどうえん)、蜂巣織炎(ほうそうしきえん)、骨髄炎(こつずいえん)、心内膜炎(しんないまくえん)など)がある場合、その感染巣の菌が血流とともに睾丸に運ばれて睾丸炎をおこします。菌の種類によっては、化膿(かのう)して排膿(はいのう)することもあります。
[検査と診断]
 まず触診による検査が行なわれます。睾丸全体が腫れて化膿していれば、波動を感じます(プヨプヨした感じ)。急性であれば、発赤、疼痛をともないます。
 流行性耳下腺炎による睾丸炎では、4~5日前に耳下腺の腫れがみられることが多いようです。
 思春期前の男児では睾丸が腫れることはありませんが、思春期以後(11~12歳以後)の男性では、流行性耳下腺炎の約30%に睾丸炎が合併します。多くは片側の睾丸の炎症のみですが、睾丸炎にかかった人の10%前後に、両側の睾丸炎がおこります。この結果、両側の睾丸の萎縮(いしゅく)がおこり、無精子症(むせいししょう)(不妊症(「男子不妊症」))になります。
 しかしこの場合でも、男性ホルモンはある程度分泌(ぶんぴつ)されるので、インポテンスになることはほとんどありません。
 結核性やフィラリアなどの寄生虫によるものは慢性の痛みのない腫れがみられます。結核性では腎臓(じんぞう)、膀胱(ぼうこう)、前立腺(ぜんりつせん)、副睾丸精巣上体)などの結核に随伴しておこることが多いものです。
鑑別診断
 睾丸炎はまれな病気で、頻度の高い副睾丸炎とよくまちがえられます。しかし丹念に触診すれば、副睾丸炎と睾丸炎の見分けはつきます。
 もう1つ重要な鑑別診断は精巣腫瘍(せいそうしゅよう)(コラム「精巣(睾丸)腫瘍」)です。睾丸炎の場合には、多くは睾丸全体が均等に腫れますが、精巣腫瘍では一部分のみがかたく、他の部分は正常で、圧痛もありません。
 さらに睾丸捻転症(こうがんねんてんしょう)(「睾丸捻転症(精巣捻転症/睾丸回転症)」)との鑑別も必要です。睾丸捻転は睾丸の発赤、腫れ、疼痛があり、睾丸炎や副睾丸炎と区別できないことが多いので、このような症状が現われたときは、早急に専門医に診(み)てもらう必要があります。
[治療]
 流行性耳下腺炎にともなっておこる急性睾丸炎は、1週間くらいで自然によくなります。
 耳下腺炎の発生時点でγ(ガンマ)グロブリンを注射すれば、睾丸炎の発生が減少するとの報告もありますが、確実ではありません。ふつう、鎮痛薬の使用と冷湿布(れいしっぷ)で経過を観察します。
 流行性耳下腺炎にともなう急性睾丸炎は、精細管の炎症であり、化膿することはありません。しかし、数か月後に徐々に睾丸が萎縮し、精子形成がみられなくなります。片側の睾丸のみの萎縮では妊娠に支障はありません。
 結核性では、初期睾丸結核であればそのまま抗結核療法を行ないますが、ある程度進行していれば、睾丸を摘除した後、抗結核療法を行ないます。
 他の睾丸炎に関しても、原因を究明し、原病(元になっている病気)の治療を行なえば、睾丸炎もよくなります。
[日常生活の注意]
 睾丸炎は、全身性の病気の一症状として捉えるべきであり、日常生活でも、原病の治療方針に従うことが基本です。原病は、一般的に結核などの消耗性疾患が多いので、栄養をつけ、過度な運動は避けます。飲酒も厳禁です。
 流行性耳下腺炎にともなう急性睾丸炎では、流行性耳下腺炎にかかった子どもからなるべく遠ざけるようにします。流行性耳下腺炎の予防には、おたふくかぜワクチンの使用が有効です。結核などの消耗性疾患の予防には、過労を避け、栄養をつけ、体力の増進をはかることがたいせつです。

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百科事典マイペディア 「睾丸炎」の意味・わかりやすい解説

睾丸炎【こうがんえん】

精巣炎とも。外傷あるいは尿路からの細菌侵入,おたふく風邪などの急性伝染の際の血行性の細菌侵入により起こる睾丸の急性炎症。急激な痛みと高熱を発し,吐き気,嘔吐(おうと)を伴う。治療は冷湿布と化学療法。数日で軽快するが萎縮を残すことがあり,両側の睾丸がはなはだしく冒されると不妊となる。慢性の睾丸炎は自覚症状が少なく,梅毒の第2〜3期などにみられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「睾丸炎」の意味・わかりやすい解説

睾丸炎
こうがんえん
orchitis

精巣 (睾丸) の炎症で,急性と慢性がある。急性のうち最も多いのは耳下腺炎ウイルスによって起るもので,耳下腺炎性睾丸炎という。ほかに,種々の雑菌による副睾丸炎が波及して起るものもある。高熱と局所の痛みがあり,両側性に起ると造精機能に障害が残り,男性不妊の原因になることがある。慢性睾丸炎は結核と梅毒によるものがほとんどできわめてまれである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「睾丸炎」の意味・わかりやすい解説

睾丸炎
こうがんえん

精巣炎

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