精巣腫瘍

  • (男性生殖器の病気)
  • Testicular tumor
  • せいそうしゅよう
  • 精巣腫瘍(腎・尿路腫瘍)

内科学 第10版の解説

(8)精巣腫瘍(testicular tumor)
 精巣腫瘍の90~95%は胚細胞腫瘍であるが,小児の白血病や成人の悪性リンパ腫が精巣に浸潤し精巣腫瘍を呈することもある.日本人では10万人に1~2人に発症するが,白人,特に北欧では数倍高い.転移があっても化学療法を中心とした集学的治療で根治が期待できる数少ない癌の1つである.
分類
 胚細胞腫瘍は精上皮腫(セミノーマ)と非セミノーマに大別される.非セミノーマには胎児性癌,奇形腫,絨毛癌,卵黄囊腫瘍がある.
病因・頻度
 原因不明であるが,危険因子として停留精巣,家族歴,対側精巣の癌既往があげられる.20歳代から40歳代に発症のピークがある.
臨床症状
 無痛性の陰囊内容の腫脹を主訴とする.腫瘍の増大速度は速い.早期にリンパ節転移をきたしやすく,その他,肺,肝,脳などに血行性転移する.ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin:hCG)が高い場合,女性化乳房を呈する.転移巣の症状から発見されることもまれではない.転移巣は明らかであるのに原発巣が消退している場合(burned out tumor)もある.
検査成績
 重要な腫瘍マーカーはAFP,hCG,LDHである.精巣摘除後に半減期どおりに腫瘍マーカーが減少すれば,転移の可能性が低いし,治療効果判定,再発の検索にも有用である.
診断
 透光性のない無痛性の硬い腫大した精巣あるいは硬結を認める.超音波検査は有用である.精巣針生検は禁忌である.CT,PET-CTにて転移を検索する.
鑑別診断
 陰囊水腫,精液瘤,鼠径ヘルニア,精巣炎,精巣上体炎,精巣軸捻転などとの鑑別を要する.
治療・予後
 精巣腫瘍が疑われる場合,全例迅速に高位精巣摘除術を施行し,病理組織診断を行う.精巣腫瘍の約50%は転移を認めないステージⅠのセミノーマであり,その後経過観察もしくは予防的放射線療法が選択される.非セミノーマ,進行例,転移例に対しては,予後分類(IGCC分類)による追加治療方針決定が推奨されている.放射線治療もしくはシスプラチンを中心とした多剤併用化学療法を行う.セミノーマは放射線感受性が高い.化学療法後に残存腫瘍があれば外科的摘除を検討する.シスプラチン導入後の治療成績はよく,転移症例の80%以上を治癒に導けるようになった.[山口雷藏・堀江重郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな病気か

 精巣にできる腫瘍(おでき)です。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、早期発見・早期治療が大切です。頻度としては10万人に1~2人のめずらしい病気ですが、15~35歳くらいの若い人に多く、この年代の男性にできる悪性腫瘍のなかでは最も多いがんです。

 進行が速く容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命に関わることのある怖い病気です。しかし最近では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました(図4)。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7~8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあるので、おかしいなと思ったら恥ずかしがらずに早めに泌尿器科を受診することが大切です。

原因は何か

 なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣(ていりゅうせいそう)や、精巣発育不全などの病気をもっている人は、精巣のがんになりやすいといわれています。

症状の現れ方

 痛みもなく、熱もなく、ある日気がつくと陰嚢(いんのう)のなかの精巣の一部がいつもより硬くごつごつしていたり、全体的にはれて大きくなってきて気づきます。痛くもないし病院で見せるのが恥ずかしいと、はれたのに気づいても医者に行かないで放っておく患者さんも多くいらっしゃいます。このため、病気がかなり進行しておなかがふくらんできたとか、(せき)が出て胸が苦しくなったなど、精巣腫瘍の転移による症状のために病院を受診し、しかも精巣がはれていることを申告してくれないため原因がわからずに泌尿器科以外の科にかかり、他の治療を受けたのちに精巣腫瘍が原因だったとあとでわかることも実際にある話です。また、精巣に痛みを伴う患者さんも1割くらいはいますので、痛いからがんではない、というわけではなく注意が必要です。

検査と診断

 泌尿器科の医師が診察すれば、触っただけで、ほとんどの場合診断がつきます。ただし、判断に迷う場合もあり(コラム)、懐中電灯をあてて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。

 診断が確定すればすぐに血液検査で腫瘍マーカーを調べ、細かい検査は後回しにしてできるだけ早く精巣を腫瘍とともに摘出する手術をします。かつては受診した当日に緊急手術をしていた時代もありましたが、治療法が進み治りやすくなってきたため、そこまでの緊急性はありません。しかし急激に進行する場合もあるので、できるだけ早期に治療を開始する必要があります。

 精巣摘出と前後して、がんが他の臓器に転移していないかどうかを詳しく調べます。転移する部位として多いのは肺やリンパ節で、肝臓や骨、脳などに転移することもあります。このため全身のCTやアイソトープを使った検査が行われます。

治療の方法

 まず精巣を腫瘍ごと摘出します。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができるやり方で、高位除精巣術(こういじょせいそうじゅつ)高位除睾術(こういじょこうじゅつ))と呼ばれます。精巣は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば精子は十分作られますので、不妊症にはなりません(精巣腫瘍の患者さんは、残すほうの精巣でも精子を作る能力が元来低下している場合がありますが)。また、精巣の機能として男性ホルモンを作る能力も重要ですが、こちらもひとつで十分ですから勃起能(ぼっきのう)などが衰えることはありません。

 検査によって転移が見つかった場合、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん薬による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3~4週間おきに繰り返すやり方で、病状にもよりますが3~4回行うことが標準的です。セミノーマという種類のがんの場合は放射線治療も有効です。

 これらの治療で転移があるような進んだがんの患者さんでも7~8割の人が完治するようになりました。逆にいうと残りの2~3割の人は通常の治療法では完治しにくいので、薬を変えたり、量を増やしたり、手術を追加したりといろいろな手段をつくして完治をめざします。また、転移が見つからないような初期のがんの人でも、将来2~3割に転移が現れるので、予防的な抗がん薬投与や放射線治療を行う場合があります。転移のある患者さんの、私たちの施設での治療方針を図5に示します。

病気に気づいたらどうする

 恥ずかしがって病気が進行してしまっては、大変なことになります。泌尿器科の医師や看護師は、毎日陰茎や精巣を見慣れているので、あなたのはれ上がった精巣を見ても何ともありません。おかしいなと思ったら、大病院でなくてもけっこうですから泌尿器科を受診してください。

関連項目

 陰嚢水腫急性精巣上体炎急性精巣炎外鼠径(がいそけい)ヘルニア

岸田 健


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

今日のキーワード

児童相談所

子供の福祉に関する相談に応じ,援助などを行なう行政機関。児相と略称される。児童福祉法に基づき,都道府県と政令指定都市に設置が義務づけられている。運営は厚生労働省の局長通知,児童相談所運営指針にそって行...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

精巣腫瘍の関連情報