石牟礼道子(読み)イシムレミチコ

デジタル大辞泉 「石牟礼道子」の意味・読み・例文・類語

いしむれ‐みちこ【石牟礼道子】

[1927~2018]小説家。熊本の生まれ。水俣みなまた市民会議を結成、「苦海浄土くがいじょうど」で患者の代弁者として水俣病を描く。続く「天の魚」「神々の村」で水俣病三部作を完成。他に「西南役せいなんのえき伝説」「おえん遊行」「十六夜いざよい」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「石牟礼道子」の意味・わかりやすい解説

石牟礼道子
いしむれみちこ
(1927―2018)

小説家。熊本県天草に生まれ、まもなく水俣(みなまた)に移住した。父は石工。神経を病んだ祖母に守りされて不知火(しらぬい)海を見て育つ。商業実務学校卒業後、1947年(昭和22)結婚、平凡な主婦であったが、しだいに姿をあらわにしてくる水俣病への関心を深め、詩人、谷川雁(がん)のサークル村にも加わりつつ『苦海浄土(くがいじょうど)――わが水俣病』(1969)をまとめあげる。方言を駆使した語り体で、表現をもたない患者の代弁者として水俣病を描ききり、視線は日本近代の総体に対する批判にまで及んでいる。続く『天の魚』(1974)、『椿(つばき)の海の記』(1976)で、水俣病患者を描いた三部作を完成させる。その後も『草のことづて』(1977)、『石牟礼道子歳時記』(1978)、『西南役(せいなんのえき)伝説』(1980)、『おえん遊行』(1984)、エッセイ集『陽(ひ)のかなしみ』(1986)、『乳の潮』(1988)、自伝的エッセイ『不知火ひかり凪(なぎ)』(1989)、時代小説『十六夜(いざよい)橋』(1992。紫式部文学賞)、エッセイ『葛(くず)のしとね』(1994)、自伝エッセイ集『蝉和郎(せみわろう)』(1996)、『形見の声――母層としての風土』(1996)、神話的な世界を描いた小説『水はみどろの宮』、『天湖(てんこ)』(ともに1997)、天草・島原の乱に材をとった大河小説アニマの鳥』(1999)、水俣病を語り続けた著者の評論集『潮の呼ぶ声』(2000)、『煤(すす)の中のマリア――島原・椎葉(しいば)・不知火紀行』(2001)など、エッセイ、文明批評、小説を発表してきた。テーマは一貫して、高速化する近代に失われた風土の魂を救出する道の模索である。2001年(平成13)朝日賞受賞

[橋詰静子 2018年2月16日]

『『椿の海の記』(1976・朝日新聞社)』『『草のことづて』(1977・筑摩書房)』『『石牟礼道子歳時記』(1978・日本エディタースクール出版部)』『『おえん遊行』(1984・筑摩書房)』『『乳の潮』(1988・筑摩書房)』『『不知火ひかり凪』(1989・筑摩書房)』『『葛のしとね』(1994・朝日新聞社)』『『蝉和郎』(1996・葦書房)』『『形見の声――母層としての風土』(1996・筑摩書房)』『『水はみどろの宮』(1997・平凡社)』『『天湖』(1997・毎日新聞社)』『『アニマの鳥』(1999・筑摩書房)』『『人間の記録 石牟礼道子』(1999・日本図書センター)』『『潮の呼ぶ声』(2000・毎日新聞社)』『『石牟礼道子対談集――魂の言葉を紡ぐ』(2000・河出書房新社)』『『煤の中のマリア――島原・椎葉・不知火紀行』(2001・平凡社)』『『西南役伝説』(朝日選書)』『『陽のかなしみ』(朝日文庫)』『『十六夜橋』(ちくま文庫)』『『苦海浄土』『天の魚』(講談社文庫)』『羽生康二著『近代への呪術師・石牟礼道子』(1982・雄山閣)』『河野信子・田部光子著『夢劫の人 石牟礼道子の世界』(1992・藤原書店)』『下村英視著『もうひとつの知――石牟礼道子に導かれて』(1994・創言社)』『鶴見和子著『鶴見和子・対談まんだら 石牟礼道子の巻』(2002・藤原書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石牟礼道子」の意味・わかりやすい解説

石牟礼道子
いしむれみちこ

[生]1927.3.11. 熊本,天草
[没]2018.2.10. 熊本,熊本
小説家,詩人。熊本県天草に生まれ,生後まもなく水俣に移住。水俣実務学校卒業後,小学校の代用教員として勤務。戦後退職して結婚し,家事のかたわら短歌をつくり,歌才が認められる。1958年詩人の谷川雁主宰の同人誌『サークル村』に参加。1968年友人たちと水俣病患者を支援する水俣病対策市民会議を結成する。1969年水俣病患者の怒りや悲しみ,声出せぬ人々の魂を綴った『苦海浄土 わが水俣病』を刊行し,「鎮魂文学」として大きな反響を呼んだ。同書は熊日文学賞や第1回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれたが,患者の苦しみを綴った本で受賞することはできないと,いずれも受賞を辞退した。1969年に患者や家族がチッソを相手に損害賠償の裁判を起こすと,水俣病を告発する会を結成して 1973年に患者たちが勝訴するまで全面的に支援した。こうした活動が評価され,1973年にアジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞を受賞。1993年には不知火海八代海)の海辺に生きた女たちを描いた『十六夜橋』で紫式部文学賞を受賞。2002年には環境破壊や生命系の危機を訴えた創作に対して朝日賞を受賞。2003年には詩集『はにかみの国』で芸術選奨文部科学大臣賞を受けた。晩年はパーキンソン病と闘いながら執筆活動を続け,2014年『石牟礼道子全集』(全 17巻,別巻 1)が完結した。『苦海浄土』三部作は,民衆を主人公とした世界的にも珍しい叙事詩

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「石牟礼道子」の意味・わかりやすい解説

石牟礼道子【いしむれみちこ】

作家。熊本県生れ。水俣実務学校卒業。1958年上野英信,谷川雁,森崎和江らと同人雑誌《サークル村》創刊に参加,1968年水俣病市民会議を結成した。水俣病患者を描いたルポルタージュ《苦海浄土(くがいじょうど)》(1969年。大宅壮一ノンフィクション賞受賞辞退)は舞台などにも取り上げられた。《天の魚》(1974年),《椿の海の記》(1976年),《西南役伝説》(1980年),《あやとりの記》(1983年),《おえん遊行》(1984年),《水はみどろの宮》(1997年)などの著書があり,作品はアメリカの美術家J.コスースの作品にも取り上げられた。《不知火》(2002年初演)などの創作能も手掛ける。詩集《はにかみの国》で2002年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「石牟礼道子」の解説

石牟礼道子 いしむれ-みちこ

1927- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和2年3月11日生まれ。谷川雁(がん)の「サークル村」に参加。昭和43年水俣病(みなまたびょう)市民会議を結成し,翌年患者からの聞き書き「苦海浄土」を発表。「流民の都」「天の魚」と水俣病の告発をつづけ,一連の著作によって49年マグサイサイ賞をうけた。平成14年朝日賞。15年「はにかみの国 石牟礼道子全詩集」で芸術選奨文部科学大臣賞。熊本県出身。水俣実務学校卒。作品はほかに「椿の海の記」「おえん遊行」など。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android