妊娠中,胎児は卵膜(生物学では胚膜と呼ぶ)とよばれる薄い膜に囲まれた腔の中に満たされた羊水に浮遊した状態で発育している。この卵膜が破れて羊水が流出することを破水という。卵膜は妊娠中は子宮内壁に密着しているが,陣痛(子宮収縮)がおこって子宮頸管がしだいに開大してくると,子宮の下方に付着していた卵膜は剝離(はくり)して,中に羊水を含んだまま子宮口から外方へ膨隆してくる。これを胎胞bag of waterという。ふつうは胎胞がしだいに増大して,子宮口(頸管)が全開大に達した時点で破水する。これを正期破水とよび,全分娩の約80%を占める。一方,分娩(陣痛)開始前の破水を前期破水といい,分娩中に子宮口全開大以前の破水を早期破水という。また,ときに卵膜が2枚に分かれていて,その1枚が破れてその中間に貯留した液が流出することを偽破水という。さらに破水がおこれば,胎児が直接触れられるようになるのがふつうであるが,破水が卵膜の最下端でおこらず,子宮腔内で破れたために,羊水は漏出していても胎児先進部はまだ卵膜をかぶっていることがある。これを高位破水という。また破水がまったくおこらず,胎児が卵膜をかぶったまま娩出された場合を幸帽児(被膜児)とよぶが,これはふつう早産の場合にみられる。子宮口が全開大になっても破水しないものは遅滞破水とよばれるが,これは人工被膜を行えばまったく問題はない。
前期破水は,胎児の細菌感染や臍帯(さいたい)脱出などの危険が大きいので厳重な注意が必要で,ふつう抗生物質の予防的投与が行われる。しかし前期破水でも,ほとんど同時に陣痛が発来するものはあまり心配はない。従来,早期破水も前期破水と同様に危険視されていたが,今日では,よほど分娩が長びかないかぎり,ほとんど心配はなく,かえって分娩が早まることもある。羊水の起源は完全にはわかっていないが,少なくとも胎児の尿が大きな部分を占めていることは確実であり,破水後羊水漏出が続いている間は胎児がまだ元気な証拠とみることができる。一方,羊水漏出量が減少したり,また黄緑色ないし茶褐色に濁ってくると,胎児が弱ってきた徴候とみられている。
執筆者:岩崎 寛和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胎胞(たいほう)破裂ともいい、出産時に産道を開大するのに役だつ胎胞が極度に緊張し、ついには内圧に耐えられずに破裂し、胎胞内にあった20~30ミリリットルの前羊水を流出することをさす。外子宮口の全開大後におこるのが正常であり、陣痛のくる前の前期破水や外子宮口全開大前におこる早期破水などは異常とされる。また、胎胞の破れる部位は胎児先進部付近だけに認められるとは限らず、ときには子宮口よりも上部でおこることもあり、高位破水とよばれる。このような場合、分娩(ぶんべん)進行によって児頭が骨盤腔(くう)内に進入すると、破れた部分が圧迫閉塞(へいそく)されて新たに胎胞が形成され、再度破水がみられる。これを重複破水という。
破水の異常は高年初産婦に多く、子宮頸管(けいかん)破裂、狭骨盤、胎児位置異常、過強陣痛のほか、頸管の炎症、急激な腹圧、子宮壁の過度拡張などの場合におこる。
[新井正夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
※「破水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が相対的に高まった場合に気象庁が発表する。2019年に運用が始まった。想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震が...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新