硫化スズ(読み)りゅうかすず(その他表記)tin sulfide

改訂新版 世界大百科事典 「硫化スズ」の意味・わかりやすい解説

硫化スズ(錫) (りゅうかすず)
tin sulfide

スズと硫黄の化合物で,スズが2価と4価の化合物がある。

化学式SnS。スズ(Ⅱ)塩の水溶液に硫化水素を通じると茶黒色の沈殿として得られる。金属スズと硫黄を加熱して得られる硫化スズ(Ⅱ)は灰色結晶斜方晶系に属し,密度は5.08g/cm3融点880℃,沸点1230℃。高温ではスズと硫化スズ(Ⅳ)とに不均化する傾向がある。岩塩型構造で,水にはほとんど溶けない(溶解度は18℃で1.36×10⁻6g/100g H2O程度)。濃塩酸に可溶。多硫化アンモニウム水溶液にはチオスズ酸(Ⅳ)イオンSnS32⁻となって溶ける。硫化アンモニウム水溶液には溶けない。空気中で加熱すると酸化スズ(Ⅳ)となる。

化学式SnS2。スズ(Ⅳ)塩の酸性水溶液に硫化水素を通じると,黄色コロイド状の沈殿として得られる。またスズ箔と硫黄を塩化アンモニウム共存下で直接加熱すると,ヨウ化カドミウム型構造をもつ黄金色六方晶系板状の結晶として得られる。彩色金とも呼ばれ,顔料に用いられる。密度は4.5g/cm3。加熱すると酸化スズ(Ⅳ)と二酸化硫黄となるため,融点,沸点は測定されていない。水にほとんど不溶(18℃で1.46×10⁻5g/100g H2O程度)。硝酸および塩酸には不溶だが,水酸化ナトリウム水溶液にはスズ酸イオンとチオスズ酸イオンとになって溶ける。硫化ナトリウム,硫化アンモニウム,ポリ硫化アンモニウムに溶けてチオスズ酸(Ⅳ)イオンとなる。王水と加熱すると酸化スズと硫酸になる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「硫化スズ」の意味・わかりやすい解説

硫化スズ
りゅうかすず
tin sulfide

スズと硫黄(いおう)の化合物。2価と4価のものが知られる。

(1)硫化スズ(Ⅱ) スズ(Ⅱ)塩の酸性溶液に硫化水素を通ずると水和物として得られる。褐黒色の結晶。水素により金属に還元され、空気中で熱すると酸化スズ(Ⅳ)になる。硫化アルカリには不溶だが、ポリ硫化アンモニウム(黄色)に溶けてチオスズ酸塩を生じる。酸性にすると硫化物が沈殿する。濃塩酸に溶ける。

(2)硫化スズ(Ⅳ) 化学式SnS2式量182.8。スズ(Ⅳ)塩溶液に硫化水素を通して得られる。工業的にはスズ箔(はく)、硫黄華、塩化アンモニウムを融解してつくられ、黄金黄色のうろこ状物質で、金箔、金粉の代用品として用いられることがあり、偽金あるいは彩色金mosaic goldともよばれる。黄金色、六方晶系の鱗片(りんぺん)状結晶。空気中で安定である。王水、熱アルカリ、硫化アルカリ溶液に溶ける。

(3)三流化二スズ 化学式Sn2S3。式量333.6。硫化スズ(Ⅱ)と計算量の硫黄の混合物を強熱して得られる黄色結晶。比重4.9。SnIISnIVS3である。濃塩酸でSnSとSnS2になる。

[守永健一・中原勝儼]


硫化スズ(データノート)
りゅうかすずでーたのーと

硫化スズ(Ⅱ)
  SnS
 式量  150.8
 融点  880℃
 沸点  1230℃
 比重  5.22(測定温度25℃)
 結晶系 斜方
 溶解度 1.36×10-6g/100g(水18℃)

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「硫化スズ」の解説

硫化スズ
リュウカスズ
tin sulfide

】硫化スズ(Ⅱ):SnS(150.78).可溶性のスズ(Ⅱ)塩水溶液に硫化水素を通じると,茶黒色の粉末として得られる.また,スズと硫黄を直接加熱すると,灰黒色の結晶として得られる.岩塩型構造の斜方晶系結晶.密度5.08 g cm-3(0 ℃).融点880 ℃,沸点1230 ℃.水にほとんど不溶.濃塩酸に溶け,アルカリを加えると水酸化スズ(Ⅱ)を沈殿するが,過剰には溶ける.多硫化アンモニウム水溶液にはトリチオスズ(Ⅳ)酸塩となって溶ける.空気中で強熱または硝酸で処理すると酸化されて酸化スズ(Ⅳ)になる.分析試薬,重合反応の触媒,軸受剤などに用いられる.[CAS 1314-95-0]【】硫化スズ(Ⅳ):SnS2(182.84).二硫化スズともいう.塩化スズ(Ⅳ)塩の酸性水溶液に硫化水素を通じると黄色コロイド状の沈殿として得られる.また,硫黄とスズはくを塩化アンモニウム共存下で直接加熱すると,黄金色の六方晶系板状晶として得られる.密度4.5 g cm-3.水にほとんど不溶,硝酸,塩酸に不溶.アルカリにはヘキサヒドロキソスズ(Ⅳ)酸塩とトリチオスズ(Ⅳ)酸塩になって溶ける.硫化アルカリ,硫化アンモニウムに溶けてトリチオスズ(Ⅳ)酸塩になる.空気中で加熱すると酸化スズ(Ⅳ)と二酸化硫黄になり,王水と加熱すると酸化スズ(Ⅳ)と硫酸になる.彩色金,モザイク金ともいい,黄金色で変化をうけにくいので,金色顔料(塗料)としてラッカーやニスなどに用いられる.[CAS 1315-01-1]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硫化スズ」の意味・わかりやすい解説

硫化スズ
りゅうかスズ
tin sulfide

(1) 硫化スズ (II) ,硫化第一スズ  SnS 。灰黒色の結晶,あるいは黒色無定形粉末。融点 880℃,沸点 1230℃。比重 5.08。水に不溶。水酸化アルカリおよび硫化アルカリ溶液と反応しない。濃塩酸,熱濃硫酸と反応して溶ける。重合触媒として使用される。
(2) 硫化スズ (IV) ,硫化第二スズ  SnS2 。金属光沢のある黄金色葉状物質。脂感がある。比重 4.51。水および希酸に不溶。

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