銅と硫黄との化合物であるが,この系は著しく複雑であり,単なる1価銅または2価銅の硫化物とは表しえないものが多い。
(1)CuS 銅原子の1/3に3個のS原子が三角形に配位し,そのCu-S原子間距離は2.19Åである。残りのCu原子にはS原子が四面体に配位し,原子間距離は2.32Åである。さらにS原子の2/3はS2原子団として存在している。したがってこの化合物は,一般には硫化銅(Ⅱ)と呼ばれているが,CuⅠ4CuⅡ2(S2)2S2と表すのがよいかもしれない。つまりCuとSとの原子比は1:1であるが,Cuの酸化数はⅠとⅡとの混合であり,またSの酸化数も-Ⅱと-Ⅰとの混合と考えられる。天然にはコベリン(銅ラン)として産する。細粉に砕くと青色を示す。六方晶系。比重4.6。いくらか導電性をもつ。500℃以下で安定。水,希酸にほとんど不溶。熱硝酸,シアン化カリウム溶液に溶ける。銅(Ⅱ)塩水溶液に硫化水素を通すと無定形黒褐色の沈殿として生ずる。
(2)Cu175S 立方最密パッキングのS原子配列のすき間にCu原子が規則正しく配列している。
(3)Cu196S 準安定正方晶が存在するが,これはS原子が立方最密パッキングでその中でCu原子が三角形のすき間に位置する。Cu-S原子間距離2.31Å。Sは6個のCuにより三角柱状にとり囲まれている。
(4)Cu2S 硫化銅(Ⅰ)。104℃以下では斜方晶系と考えられていたが,現在では単斜晶系またはそれ以下の対称性であることがわかっている。単位格子は48単位のCu2Sを含み,Cuはすべて3配位で,六方最密パッキングのSの層内またはその近傍に位置している。天然には輝銅鉱として産する。黒色結晶性固体。比重5.6。いくらか導電性をもつがCuSほどではない。水にほとんど溶けないが,アンモニア水にわずかに溶け,シアン化カリウム溶液には容易に溶ける。銅を硫黄蒸気中で燃焼させるか,硫化銅(Ⅱ)に少量の硫黄を加えて水素気流中で400~500℃に熱すると得られる。夜光塗料,触媒などに用いられる。
なおこのほか立方晶のCu18Sも知られている。これは73℃,上記のCu196Sは100℃,Cu2Sは470℃に加熱すると,いずれも立方最密パッキングのS層中にCu原子が統計的に分布する構造に変化する。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
銅の硫化物で、一価および二価銅の化合物が知られている。
(1)硫化銅(Ⅰ) 天然には輝銅鉱として産する。銅を水素と硫化水素との混合気流中で加熱するか、硫化銅(Ⅱ)を少量の硫黄(いおう)とともに水素中600℃以下で熱して得られる。α(アルファ)、β(ベータ)の2形があり、天然の輝銅鉱はβ形で91℃以下で安定。α形は高温型で、融解物を冷却するとき析出するものがそうである。結晶格子中銅の一部が欠損していて、Cu1.8Sに相当する。α、βいずれも導電性があるが、βのほうが導電性がよい。いずれも金属光沢ある暗灰黒色の結晶。熱に対して安定。水にほとんど不溶。硝酸、アンモニア水には可溶である。
(2)硫化銅(Ⅱ) 天然に藍銅鉱(らんどうこう)として産する。硫酸銅(Ⅱ)水溶液に硫化水素を通じて沈殿させるか、銅と硫黄とを直接加熱反応させる。化学式CuS、式量95.6、比重4.6(測定温度20℃)、黒色の粉末または青黒色の結晶(六方晶系)。導電性は硫化銅(Ⅰ)よりも大きい。加熱すると220℃で分解が始まり、硫化銅(Ⅰ)を生ずる。湿った空気中で徐々に酸化され、硫酸銅(Ⅱ)を生ずる。水にほとんど不溶(溶解度18℃,3.4×10-5g/100mL)。酸を加えない水にはコロイド状に分散しやすい。希無機酸にほとんど不溶。熱硝酸、シアン化カリウム水溶液によく溶ける。
[中原勝儼]
硫化銅(Ⅰ)
Cu2S
式量 159.1
融点 α;1130℃
β;1100℃
沸点 ―
比重 α;5.785
β;5.6
結晶系 α;立方
β;斜方
溶解度 5×10-5g/100mL(水18℃)
【Ⅰ】硫化銅(Ⅰ):Cu2S(159.16).天然には,輝銅鉱として産出する.銅と過剰の硫黄とを加熱するか,硫化銅(Ⅱ)と硫黄とを水素気流中で加熱すると得られる.α,βの2形が知られる.α形は91 ℃ 以上で安定である.立方晶系.黒色.密度5.79 g cm-3.融点1130 ℃.β形は斜方晶系.黒色.密度5.6 g cm-3.融点1100 ℃.Cu2Sはイオン導電体である.希硝酸に溶けて硝酸銅(Ⅱ)と硫化銅(Ⅱ)になる.熱硝酸では硝酸銅(Ⅱ)と硫黄および酸化二窒素を生じる.濃硫酸と反応して硫化銅(Ⅱ),硫酸銅(Ⅱ)および二酸化硫黄を生じる.水,塩酸に不溶,アンモニア水に可溶.空気中で加熱すると,二酸化硫黄を放出して酸化銅(Ⅱ)に変化する.蛍光塗料,触媒,硫黄や銅の製造,帯電防止繊維の製造などに用いられる.[CAS 22205-45-4]【Ⅱ】硫化銅(Ⅱ):CuS(95.61).天然には,銅藍として産出する.銅(Ⅱ)塩水溶液に硫化水素を通じて得られる.黒色または青黒色.六方晶系.転移点103 ℃ で単斜晶系にかわる.密度4.64 g cm-3.220 ℃ で分解して硫化銅(Ⅰ)となる.水,希酸,エタノール,アルカリに不溶.熱硝酸に溶けて硝酸銅(Ⅱ),硫黄,酸化二窒素を生じる.シアン化アルカリ水溶液,多硫化アルカリ水溶液に可溶.乾燥した空気中では安定であるが,湿った空気中では酸素により徐々に酸化されて硫酸銅(Ⅱ)を生じる.繊維の染色(アニリンブラックの顕色剤),混合触媒,船底塗料などに用いられる.硫化銅鉱物はいずれも金属銅の原料として用いられる.[CAS 1317-40-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…さらにS原子の2/3はS2原子団として存在している。したがってこの化合物は,一般には硫化銅(II)と呼ばれているが,CuI4CuII2(S2)2S2と表すのがよいかもしれない。つまりCuとSとの原子比は1:1であるが,Cuの酸化数はIとIIとの混合であり,またSの酸化数も-IIと-Iとの混合と考えられる。…
…さらにS原子の2/3はS2原子団として存在している。したがってこの化合物は,一般には硫化銅(II)と呼ばれているが,CuI4CuII2(S2)2S2と表すのがよいかもしれない。つまりCuとSとの原子比は1:1であるが,Cuの酸化数はIとIIとの混合であり,またSの酸化数も-IIと-Iとの混合と考えられる。…
※「硫化銅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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