金属で鋳造された貨幣,すなわち鋳貨coinのことで,紙を素材とする広義の紙幣(狭義の紙幣である政府紙幣と銀行券)に対立する用語。本位貨幣(金貨)と補助貨幣が含まれるが,金本位制を離脱した現在,硬貨(鋳貨)といえば補助貨だけである。近代の日本では,鋳貨としての本位貨幣と補助貨幣の発行は,1897年の貨幣法によって定められたが,1938年に貨幣法とは別個に臨時通貨法が制定され,現在の補助貨幣の発行は同法に基づいている。
なお,上述の鋳貨の意味とはまったく別に,hard currency(硬貨),soft currency(軟貨)という用語が,1950年代の国際通貨問題において特定の意味に用いられたことがあった。各国の通貨は実質的にどの程度金に裏づけられていたか,あるいは金交換性を背景に強力な基軸通貨であった米ドルに対してどの程度容易に交換が可能であったか,ということが当時話題になった。たとえばスイス・フランやカナダ・ドルは,当該国の金準備が比較的に豊富で,米ドルとの交換も容易であったので,硬貨の部類にはいっていた。日本は当時,金準備はきわめて僅少であり,厳重な為替管理が実施されて円と米ドルの交換は制限されていたので,円は軟貨に含められていた。米ドルの信認が著しく低下し主要国がいずれも変動相場制に移行した今日,この問題はもはや国際金融史上のひとこまとなってしまった。
→貨幣
執筆者:石田 定夫
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本来は、貴金属で鋳造された貨幣の意味であったが、今日では金属でつくられた貨幣(coin)を、紙幣と区別して、硬貨とよんでいる。
それ以上に、国際金融上の用語として使われることが多い。すなわち、国際通貨基金(IMF)体制下では、為替(かわせ)管理がなく、金または金に裏づけられた米ドルと交換可能な通貨をいい、これに対し交換不能の通貨を軟貨(soft currency)といった。米ドルが1971年8月に金との交換性を停止したことによりその意味での硬貨はなくなったが、外国為替市場、国際金融市場で他国通貨と自由に交換でき、取引の決済や資金の運用・調達が自由にできる通貨を意味するようになっている。米ドルだけでなく、為替管理の撤廃、国際資本取引の自由化された主要先進国の通貨は通貨の交換性を有し、ハード・カレンシーとよばれるとともに、国際取引に使用され、かつ非居住者に保有される国際通貨の役割を一定程度担っている。具体的には、米ドル、ユーロ、円、英ポンド、スイス・フラン、カナダ・ドルなどが硬貨とされている。
[中條誠一]
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…貨幣ないし現金通貨について,その素材が金属か紙かによって鋳貨(硬貨)と紙幣に分類する見方がある。この分類によると,紙幣は広義に解されて,政府の発行する政府紙幣(狭義の紙幣)と銀行券(現在は中央銀行の発行する中央銀行券)が含まれる。…
※「硬貨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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