面方向に磁化されている磁性薄膜内にある、逆方向の極性をもった円筒状の磁区をいう。偏光顕微鏡で見ると泡状に見え、水中の泡のように外部磁界によって自由に発生、運動、消滅ができることから、この名がある。磁気バブルの有無を情報の「1」「0」に対応させて記憶素子が構成されていることから、磁気バブルメモリーを単に磁気バブルとよぶこともある。
磁性体の中に分子磁石、つまり磁区の発生を認めたのは、フランス生まれの物理学者ワイスPierre-Ernst Weiss(1865―1940)で1907年のことである。のち、量子力学の進歩で磁区の性質はだんだん明らかにされるが、この磁区が磁気バブルとして記憶素子に積極的に利用されるようになったのは1967年、アメリカのベル研究所のボベックAndrew H. Bobeckの発明からである。
磁気バブル素子では、希土類ガーネットの単結晶薄膜を非磁性ガーネット(GGG : Gd3 Ga5 O12)上にエピタキシャル成長によってつくる。磁気バブルは、膜に垂直な磁界を加えて磁区の磁化を一方向にそろえたのち、逆方向に微小磁界を加えて発生させる。これによりミクロン径のバブルが情報として書き込まれる。
磁気バブル記憶素子では、磁気バブルを外部の回転磁界によってメモリ内の転送路でつくったループに、次々と信号を送り記憶させる。転送路は膜上に透磁率の高い合金のパーマロイでつくったパターンで、バブルはパーマロイの磁界に引き寄せながらパターンに沿って動くようにつくられている。回転磁界の1回転に応じて、磁気バブルは一つのパターンから他のパターンに転送される。
磁気バブル素子は、半導体による記憶素子と違って、電源を切っても記憶内容は破壊されず(不揮発性)、小型、軽量で、耐環境性に優れているが、記憶容量はメガビット程度と少なく、読み書き時間は数ミリ秒と半導体素子よりはるかに長い。
磁気バブル素子は、とくに信頼性、耐環境性が要求される数値制御(NC)工作機械、ロボット、電子交換機、POS(ポス)ターミナルなどの記憶装置に用いられている。
[岩田倫典]
『桜井良文編『磁気バブル』(1982・オーム社)』
薄い磁性体で,膜垂直方向に磁化しやすく,かつ面方向にきわめて均質な,ガーネットやフェライトの薄膜単結晶内に発生する円形の磁区を泡磁区(バブル磁区),あるいは磁気バブルという。こうした材料では通常,膜垂直上方向に磁化した領域と下方向に磁化した領域がそれぞれほぼ等しい面積になるように,互いに迷路状に入り組んだ形の磁区構造を形成するが,これに例えば面垂直方向上向きの磁界をかけていくと,上向きに磁化した領域が安定になるため,上向きの磁区が広がり,下向きの磁区が細く縮小していく。さらに磁界を強くすると下向きの細い磁区は円形の磁区となり安定してしまう。これを上から見ると泡のように見えるため磁気バブルと呼ばれる。
磁気バブルは磁界を変化させてもかなり安定に存在するため,コンピューターの記憶素子として利用される。磁性薄膜にパーマロイなどの別の磁性体を周期的につけ,磁気バブルが安定に存在できる場所を多く用意する。記憶させたい1と0の情報に対応し,これらの場所に磁気バブルを置いたり置かなかったりすることで情報を記憶させることができる。磁気バブルは永久磁石で一定の磁界をかけておけば永久に消失したり発生したりしないので,こうした磁気バブルメモリーは不揮発性をもつ記憶素子として利用されている。また,磁気バブル素子への開発とともに,均質な磁性体の中での磁区の変化していくようすが明らかになり,磁性物理へ与えた効果も大きい。
執筆者:岡部 洋一
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…特にサファイア(コランダム)上のシリコン成長をSOS(silicon on saphireの略)と呼びLSI製作に使用されている。また,ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)結晶上に希土鉄酸化物ザクロ石型結晶を成長させて磁気バブルメモリーの製作に用いられている。これらの製作には,気相で成長させる方法(シリコン,ヒ化ガリウム)や溶液相で成長させる方法(リン化ガリウム,希土鉄酸化物ザクロ石)が使用されている。…
※「磁気バブル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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