日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会名目論」の意味・わかりやすい解説
社会名目論
しゃかいめいもくろん
social nominalism
社会の本質を考えるにあたって、社会を個人とは別個の一つの実在とは考えず、社会は単なる個人の集合あるいは諸個人の相互作用にほかならず、社会とはそうしたものに付された名称にすぎないとする考え。社会実在論の反対概念。社会学上では、社会を個人間の模倣という心理現象と解したタルド、同類意識、類似心などの概念を用いて、アメリカにおける心理学的社会学の基礎を築いたギディングス、社会を個人間の心的相互作用ととらえて形式社会学を樹立したジンメル、関係学を提唱したウィーゼなどがこの考えにたっている。また社会現象を、それを担っている個人の行為に還元し、その行為の主観的に思念された意味を理解することが社会学の課題だとするマックス・ウェーバーの主張も、方法上の名目論にたっているといえる。
このウェーバーの主張についていえば、社会現象のなかには、それを個人の行為に還元し、その行為の主観的な意味を理解することのできない現象があることを認めなければならない。それはたとえば、フランスの経済社会学者シミアンがその存在を明らかにした価格の長期波動である。16世紀の長期の価格上昇局面と17世紀の長期の価格下降局面という現象を、個人の行為に還元して、その主観的に思念された意味を理解するなどということは意味をなさない。それは無数の人間の意図せざる結果である。個人と社会とは相互に浸透する。
[古賀英三郎]
『G・タルド著、稲葉三千男訳『世論と群集』(1964・未来社)』▽『M・ウェーバー著、林道義訳『理解社会学のカテゴリー』(岩波文庫)』