地域福祉の推進や、福祉サービス利用者の利益保護のため、社会福祉事業について定めた法律。社会福祉法人は同法の規定に基づき運営される。社会福祉法人での相次ぐ内部不正を受け2016年に改正され、法人理事の選任や解任の権限を持つ評議員会の設置を義務化し、事業運営の透明性の向上が図られた。この改正で贈収賄罪や特別背任罪の罰則規定も新設された。
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1951年(昭和26)の社会福祉事業法を改正、名称変更して2000年(平成12)5月に公布、施行された法律。福祉サービスの利用者の利益の保護、地域における社会福祉の推進を図るとともに、社会福祉事業の公明適正な実施の確保、社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り、もって社会福祉の増進に資することを目的とする。社会福祉事業の範囲を定め、福祉サービスの基本的理念を「個人の尊厳の保持を目的とし能力に応じた自立的日常生活を支援するもの」としてとらえ、地域福祉推進を図り社会福祉事業者は利用者の意向を十分に尊重すること、国および地方公共団体が福祉サービスを提供する体制確保を図ることなどを定めている。利用者本位の社会福祉制度の実現に向けた改正であるとされており、「措置から利用へ」「利用者の利益を保護する仕組み」「社会福祉事業の追加、拡充による福祉サービスの活性化」「地域福祉の推進」などがうたわれている。旧社会福祉事業法は、第二次世界大戦前の社会事業法(1938)にかわって1951年に成立したが(昭和26年法律第45号)、2000年「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する法律」(社会福祉事業法等改正法、平成12年法律第111号)が成立、旧社会福祉事業法は社会福祉法と改称された。
[吉川武彦]
1951年までの社会事業という用語にかえて社会福祉事業ということばを用い、かつ、何が社会福祉事業であるかの概括的、抽象的定義を避けて、第1種社会福祉事業と第2種社会福祉事業をもって本法にいう社会福祉事業とする(2条1項)とし、何が第1種社会福祉事業であり、何が第2種のそれであるかについても、これまた概括主義をとらず、それぞれのグループに属するものを列挙するという列挙主義をとっている。第1種に属するものとして、本法第2条2項で列挙しているのは、以下のような事業である。
(1)生活保護法に規定する、救護施設、更生施設などを経営する事業。
(2)児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、知的障害児施設、知的障害児通園施設などの施設を経営する事業。
(3-1)老人福祉法に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホームまたは軽費老人ホームを経営する事業。
(3-2)障害者自立支援法に規定する障害者支援施設を経営する事業。
(4)障害者自立支援法附則の規定により、なお従前の例により運営することができるとされた身体障害者更生援護施設を経営する事業。
(5)障害者自立支援法附則の規定により、なお従前の例により運営することができるとされた知的障害者援護施設を経営する事業。
(6)売春防止法に規定する婦人保護施設を経営する事業。
(7)授産施設を経営する事業および生計困難者に対して無利子または低利で資金を融通する事業。
なお、1951年成立の旧法では、公益質屋も第1種に属していたが、2000年成立の新法では削除された(公益質屋法は廃止)。また、2005年の法改正により(4)(5)(7)は削除されることになった(施行は2012年3月31日までの政令で定める日)。
第2種に属するものは、本法第2条3項で列挙している児童福祉法に規定する保育所などである。新法では、2000年に新たに(1)福祉サービス利用援助事業、(2)身体障害者相談支援事業、(3)知的障害者相談支援事業、(4)障害児相談支援事業、(5)身体障害者生活訓練等事業、(6)手話通訳事業、(7)盲導犬訓練施設、(8)知的障害者デイサービス事業、(9)知的障害者デイサービスセンターを経営する事業の、9種の事業が追加された。しかしその後、2005年の介護保険法改正および障害者自立支援法制定に伴う法改正により、上記(2)(3)(4)(8)(9)が第2種社会福祉事業から削除された一方、新たに、老人福祉法に規定する小規模多機能型居宅介護事業、障害者自立支援法に規定する障害福祉サービス事業、相談支援事業および移動支援事業、地域活動支援センターまたは福祉ホームを経営する事業等が加わった。なお、通所施設利用人員20人未満は従来、社会福祉事業法では適用除外とされていたが、新法では10人未満と要件が緩和され障害者通所作業施設の社会福祉法人化を容易にするなど、改善とみられるところもある。
また、第1種社会福祉事業は、人権にかかわることが大きいことや搾取的になることを防ぐためといった必要から、経営主体は原則として「国、地方公共団体又は社会福祉法人」(社会福祉法60条)に限られ、その他の者は知事の許可なくしては経営できないとされている。社会福祉法は、社会福祉事業に関する共通的一般法であるため、施設の設置について他の法律で行政庁の許可・認可等を要すると定めているときは、その限りで社会福祉法の設置手続規定は適用されない(同法74条)。たとえば、生活保護法(昭和25年法律第144号)の保護施設や老人福祉法(昭和38年法律第133号)の養護・特別養護各老人ホーム、児童福祉法の児童福祉施設は、社会福祉法人が設置するときも知事の認可を要するし、保育所については設置主体の規制はないが、児童福祉法にいう保育所というためには、市町村設置以外は知事の認可がいる。なお、施設の新設について都道府県の補助を受けるためには、認可保育所であっても社会福祉法人が設置経営主体であることが必要とされている(児童福祉法56条の2)。
社会福祉法は、旧法同様に公的責任転嫁禁止原則から、社会福祉事業経営の準則として、以下の3点をあげている(61条1項)。
(1)国、地方公共団体は、法律によってその責任とされたことを他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、またはこれらの者の財政的援助を求めてはならない。
(2)国、地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対してその自主性を尊重し、不当な関与を行ってはいけない。
(3)社会福祉事業経営者は不当に国や地方公共団体の財政的、管理的援助を仰いではいけない。
ところが、具体的、日常的サービスの実行については、生活保護法等による事業でも、民間の社会福祉事業経営者に委託しても責任転嫁ではないとされる(61条2項)。
[小川政亮・矢嶋里絵]
すでに、高齢者福祉分野においては、1997(平成9)年の介護保険法により介護保険方式が導入され(2000年より実施)、契約による利用方式へ転換が図られていたが、新法に伴う身体障害者福祉法・知的障害者福祉法・児童福祉法改正により、障害者福祉分野においても、支援費支給方式という契約制度が導入されることになった(2003年より実施)。その後2005年、障害者自立支援法に基づき、自立支援給付方式に変更されたが(2006年より実施)、利用者・提供者間の契約という点では、支援費支給方式と同じである。
福祉における契約化については、福祉サービス利用者の特質を踏まえた条件整備が前提となる。すなわち、福祉サービス利用者には十分な情報や判断能力をもたない人が多いこと、福祉サービス利用者と提供者間で交渉力に格差があることなどから、福祉サービス利用者に対する十分な情報保障、契約締結の際の支援、契約内容の適正化等が必要とされる。新法では、情報の提供(75条)、利用契約の申込み時の説明(76条)、利用契約の成立時の書面の交付(77条)、誇大広告の禁止(79条)、福祉サービス利用援助事業の実施に当たっての配慮(80条)等が規定されている。しかし、たとえば情報提供に関する75条はあくまで努力義務を定めたにすぎず、利用者の情報提供を受ける権利を明記していないなど不十分である。さらに提供体制の確保も課題であろう。その点、新法は「国および地方公共団体の責務」として、社会福祉を目的とする事業を経営する者と協力して、福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策、福祉サービスの適切な利用の推進に関する施策などの措置を講じなければならない(6条)としているが、これらの措置を行わないことについて直接責任を問う根拠たるほど明確な規定とはなっていない。
[矢嶋里絵]
『小川政亮著『社会事業法制』第4版(1994・ミネルヴァ書房)』▽『佐藤進・金川琢雄編『新しい社会保障・社会福祉法概説』(1999・信山出版)』▽『真田是・小川政亮・浅井春夫著『「社会福死」への道――社会福祉基礎構造改革の問題点』(1999・かもがわ出版)』▽『社会福祉法等研究会編『社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律――新旧対照条文・関係資料』(2000・中央法規出版)』▽『佐藤進・河野正輝編『新現代社会福祉法入門』(2000・法律文化社)』▽『山県文治編『社会福祉法の成立と21世紀の社会福祉』(2001・ミネルヴァ書房)』▽『社会福祉法人全名簿編集委員会監修『社会福祉法人全名簿(2001年版)』(2001・中央法規出版)』▽『社会福祉法令研究会編『社会福祉法の解説』(2001・中央法規出版)』▽『障害者福祉研究会編『逐条解説 障害者自立支援法』(2007・中央法規出版)』
(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2008年)
(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2007年)
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