経済開発economic developmentということばに対置されて、1955年に国連で初めて使われたことば。それによると、社会開発とは「経済開発の進行に伴う、国民生活に及ぼす有害な衝撃を取り除き、または緩和するための、全国的規模における、保健、衛生、住宅、労働または雇用問題、教育、社会的サービスの発展」と定義されている。ところが1961年の国連総会において、開発とは自立的成長プラス社会的、文化的、経済的変化であるとされ、とくに戦略的な経済発展と社会改良との相互関係が強調され、「均衡のとれた経済開発、社会開発の問題に特別の注意を払うこと」が決議され、経済開発と社会開発とは盾の両面であるとされた。
日本においては、人口問題審議会の地域開発に関する「意見書」(1962)において公式的に初めて使用されている。この意見では地域開発が人口問題の見地からも重大な課題であり、地域格差を是正するには、人口移動の規模と速度を調整し、人口の適正な地域配分を促進すべきだと指摘している。これによれば、「経済開発とは工業を中心とする経済面での開発をいい、社会開発とは、都市、農村、住宅、交通、保健、医療、公衆衛生、環境衛生、社会福祉、教育などの社会的面での開発」をいい、「経済開発の直接の目的が生産および所得の増大であるのに対し、社会開発は直接人間の能力と福祉の向上を図ろうとするものである」とされた。なお「社会開発はそれ自体独自の価値と必要性を有するものであるが、同時に経済開発を実施する条件を整備し、また経済開発の結果発生する摩擦を除去することなどによって、経済開発を有効、円滑に進める手段ともなる」と付け加えている。
社会開発が社会政策とニュアンスを異にするのは、それが単に経済発展に随伴して生じた種々の社会問題を事後的に処理するのではなく、それを事前的に予防し、国民の能力や健康を増進するという積極面をもっているからである。いずれにしても、日本の場合は、過去になされた地域開発がソーシャル・アンバランスを発生させたため、それに対する反省として登場したことに留意する必要がある。私的に生産される財貨とサービスの供給と、国家によるそれとの関連をソーシャル・バランスsocial balanceと名づけたのはガルブレイスだが、この問題は民間消費と公共消費との間にみられるだけでなく、民間投資と公共投資との間にも、また物的資本と人的資本との間にもみられる。さらに産業基盤整備と生活環境整備との間にも存在する。現代の都市問題は、これらの間に存在するソーシャル・バランスが破れたために深刻化しているのである。
経済の成長を促進させながら、しかもソーシャル・バランスを確保するには、短期の政策と並んで長期の政策が必要である。社会開発のプログラムのなかで戦略的に重要な意義をもつのは、教育・研究開発投資である。とくに公害防止ないし環境創造のための研究開発投資は、きわめて重要である。教育・研究開発投資は、単に人間の能力を高めるだけでなく、新しい知識の開発と普及が、新しい機械や設備を発明し、生産性の向上に貢献すると同時に、新しい環境の創造にも大きな役割を演ずるのである。しかも知識やノウハウは、国境を越えて伝播(でんぱ)されるから、その外部経済効果は桁(けた)違いに大きいといわなければならない。ソーシャル・バランスが確保されないと、社会正義を守るための法律がうまく機能せず、国民経済全体にとって必要不可欠なサービスを維持できなくなる。それは不経済の一形態なのである。
[伊藤善市]
『松原治郎著『日本の社会開発』(1968・福村書店)』▽『伊藤善市著『都市化時代の開発政策』(1969・春秋社)』▽『伊藤善市著『地域開発論』(1979・旺文社)』
経済成長に対する生活領域の遅れに着目し,両者の均衡を求めること。1950年代に国際連合で社会開発委員会を中心に提唱された。発展途上国における社会開発の特徴と問題をとらえるには,経済発展との関連を考えてみることが有益であろう。経済発展にもかかわらず社会開発が遅れているといわれることがあるが,これは急速な産業化を果たした社会でよく問題とされる。社会開発は経済発展の波及効果として理解され,その効果があらわれないことを問題にしているのである。こうした理解は西欧社会の経験に基づいている。ところが発展途上国においては社会開発は経済発展に先立って,少なくとも同時並行して行われなければならないのである。先進産業社会における中産階級の考え方は良くも悪くも強力な国際世論を構成している。保健・衛生,住居,教育などを劣悪な状態においたまま経済発展することは政治的に困難になってきている。しかも,基本的な生活条件の改善は決して経済的な浪費ではなく,労働能力と労働意欲を高め経済発展に貢献するのである。こうした社会開発は新たな問題も引き起こしている。たとえば経済発展に先行する教育の普及は,マンパワーの育成ということで経済発展に役立つが,通常その普及は雇用機会の増大をはるかにしのいで進展する。その結果,教育をうけた失業者が増大するなど新たな社会問題を産業化の初期段階から抱えることになったりするのである。
執筆者:小倉 充夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新