すべての事物は〈空(くう)〉であると観ずる仏教の観法。〈空〉とはサンスクリットでシューニヤśūnya(形容詞)といい,一般にはあるものに他のものがないとき,前者は後者について空であると表現する。空観という用語自体は中国仏教において成立したものであるが,これをインド仏教にあてはめるならば,およそ3種の空観が存在したと言える。
第1は,原始仏教から部派仏教にかけて行われたもので,すべての存在を五蘊(ごうん),十二処,十八界などの諸要素(法)に分析し,そこに自我はない(人空)と見るものである。これは,自我への執着を絶つことを目的としたが,諸要素の実在を肯定する多元論的実在論に陥った。第2は,諸要素さえも実在せず(法空),すべては空である(一切皆空)と観ずるもので,大乗仏教の成立とともに初期の般若経典において強調され,中観派によって体系化された。この派によれば,すべての事物はその本質(自性)をもたないという意味で空であり,実在ではないとされる。第3は,空でないもの(不空)の存在を認めようとするもので,中期以降の大乗経典に説かれ,唯識派によって体系化された。唯識派は3種の存在形態(三性(さんしよう),トゥリ・スババーバtri-svabhāva)を認め,事物(依他起性(えたきしよう),パラタントラ・スババーバparatantra-svabhāva)に本質(遍計所執性(へんげしよしゆうしよう),分別性,パリカルピタ・スババーバparikalpita-svabhāva)がない(円成実性(えんじようじつしよう),パリニショパンナ・スババーバpariniṣpanna-svabhāva)というとき,本質は存在しないが事物は実在すると主張する。空観は,中国においてさまざまな解釈を生んだが,日本においては,親鸞や道元,さらには西田幾多郎等の哲学的基盤となった。
執筆者:松本 史朗
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ただし単一の経典ではなく,諸種の般若経典を総称したもの。何ものにもとらわれない〈空観(くうがん)〉の立場に立ち,またその境地に至るための菩薩の〈六波羅蜜(ろくはらみつ)〉の実践,とくに〈般若波羅蜜〉の体得が強調される。そこから従来の部派仏教に対しては厳しい批判的な態度をとる。…
※「空観」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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