空観(読み)クウガン

デジタル大辞泉 「空観」の意味・読み・例文・類語

くう‐がん〔‐グワン〕【空観】

仏語。一切の存在には本性がなく、実体をもたないという真理を観想する方法

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精選版 日本国語大辞典 「空観」の意味・読み・例文・類語

くう‐がん‥グヮン【空観】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。一切のものは、ことごとく因縁によって生じたものであって、永遠不変の自我や実体といったものはなく、すべて空であると観じること。くうかん
    1. [初出の実例]「皎潔空観月、開敷妙法蓮」(出典:菅家後集(903頃)叙意一百韻)
    2. [その他の文献]〔摩訶止観‐五・上〕

くう‐かん‥クヮン【空観】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 劇場などで、金銭を払わずに見ること。ただみ。
    1. [初出の実例]「戸外木券を売り、空観せしめざるの証とす」(出典:西京繁昌記(1877)〈増山守正〉初)
  3. くうがん(空観)

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改訂新版 世界大百科事典 「空観」の意味・わかりやすい解説

空観 (くうがん)

すべての事物は〈空(くう)〉であると観ずる仏教の観法。〈空〉とはサンスクリットシューニヤśūnya(形容詞)といい,一般にはあるものに他のものがないとき,前者後者について空であると表現する。空観という用語自体は中国仏教において成立したものであるが,これをインド仏教にあてはめるならば,およそ3種の空観が存在したと言える。

 第1は,原始仏教から部派仏教にかけて行われたもので,すべての存在を五蘊(ごうん),十二処,十八界などの諸要素(法)に分析し,そこに自我はない(人空)と見るものである。これは,自我への執着を絶つことを目的としたが,諸要素の実在を肯定する多元論的実在論に陥った。第2は,諸要素さえも実在せず(法空),すべては空である(一切皆空)と観ずるもので,大乗仏教の成立とともに初期の般若経典において強調され,中観派によって体系化された。この派によれば,すべての事物はその本質(自性)をもたないという意味で空であり,実在ではないとされる。第3は,空でないもの(不空)の存在を認めようとするもので,中期以降の大乗経典に説かれ,唯識派によって体系化された。唯識派は3種の存在形態(三性(さんしよう),トゥリ・スババーバtri-svabhāva)を認め,事物(依他起性(えたきしよう),パラタントラ・スババーバparatantra-svabhāva)に本質(遍計所執性(へんげしよしゆうしよう),分別性,パリカルピタ・スババーバparikalpita-svabhāva)がない(円成実性(えんじようじつしよう),パリニショパンナ・スババーバpariniṣpanna-svabhāva)というとき,本質は存在しないが事物は実在すると主張する。空観は,中国においてさまざまな解釈を生んだが,日本においては,親鸞や道元,さらには西田幾多郎等の哲学的基盤となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「空観」の意味・わかりやすい解説

空観
くうがん

この世のすべてのものが,固定的な実体をもつものでなく,本質的には空であるとする立場。天台宗の教理においては一心三観のなかの一つとされた。

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世界大百科事典(旧版)内の空観の言及

【般若経】より

…ただし単一の経典ではなく,諸種の般若経典を総称したもの。何ものにもとらわれない〈空観(くうがん)〉の立場に立ち,またその境地に至るための菩薩の〈六波羅蜜(ろくはらみつ)〉の実践,とくに〈般若波羅蜜〉の体得が強調される。そこから従来の部派仏教に対しては厳しい批判的な態度をとる。…

※「空観」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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