菅原道真の漢詩集。1巻。903年(延喜3)成立。大宰府流謫(るたく)時代の作品46編を集める。《菅家後草(こうそう)》とも呼ぶ。中国の模倣を脱し,日本の詩人が日本人の絶望体験を,血を吐くような怨念で表現した牢獄からの遺言詩集で,そのすべてが珠玉,絶唱である。〈門を出でず〉〈開元の詔書を読む〉など悲憤慷慨する諸作は真率の詩心を吐露したもの。また〈北窓三友詩を詠む〉〈叙意一百韻〉は配所の生活を描写しながら,どん底で呻吟する人間の魂の告白。なかんずく,〈叙意一百韻〉は道真詩の中の最高傑作というだけでなく,日本抒情詩の歴史の上で一つのピークを示す。10世紀初頭北九州街頭の庶民群像,配所生活の写実的描写,そこに鮮明に浮かび上がる切なく美しい調べ,瀟洒な抒情,思いもかけない新鮮さ,近代的な感覚,象徴詩の香りがある。真の詩の美しさは《後集》に極まる。このような《後集》の世界を受け継ぐものは日本漢文学史上に再び現れてはいない。
→菅家文草
執筆者:川口 久雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
菅原道真(すがわらのみちざね)の漢詩集。1巻。道真の自撰(じせん)。死に臨んで長年の詩友であった紀長谷雄(きのはせお)のもとに送ったものという。したがって成立は903年(延喜3)2月の没時に近いころであろう。901年(延喜1)の大宰府(だざいふ)への左遷以後の2年間の流謫(るたく)時代の作を収める。『大鏡』時平(ときひら)伝にも「かの筑紫(つくし)にて作り集めさせたまへりけるを書きて一巻とせしめたまひて、後集と名づけられたり」とある。流布の刊本は『菅家文草』『菅家後集』に漏れた作が付加され、48首の詩文を収める。「去年の今夜清涼に侍す 秋思の詩篇(しへん)独り腸(はらわた)を断つ」(9月10日)、「都府楼は纔(わずか)に瓦(かわら)の色を看(み)る 観音寺は只(ただ)鐘の声を聴く」(不出門)などの有名な句が含まれる。
[後藤昭雄]
『川口久雄校注『日本古典文学大系72 菅家文草・菅家後集』(1966・岩波書店)』
「西府新詩」とも。菅原道真(みちざね)の漢詩集。901年(延喜元)以降に大宰府で詠んだ作品を,903年1月死期の近いのを知った道真が紀長谷雄(きのはせお)に贈ったと伝えられる。「通憲入道蔵書目録」に「菅家後集1巻」とある。全46首からなり,大宰府へ同行を許された幼児2人を励ます詩,時の権力や社会に対する批判の詩,望郷の念を詠んだ詩などを収録。尊経閣文庫に鎌倉時代の古写本がある。「日本古典文学大系」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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