小説家。栃木県宇都宮市生まれ。本名横松和夫。1966年(昭和41)に早稲田大学政経学部入学後、東南アジアなどへの旅行を繰り返す一方で小説の執筆を開始する。また、有馬頼義(よりちか)のもとで第七次『早稲田文学』の編集にもかかわる。1970年、在学中同誌に「とほうにくれて」を発表。同年、「自転車」により第1回『早稲田文学』新人賞を受賞。選考委員は江藤淳、小沼丹、吉行淳之介。選評はそれぞれ「将来性と若さを買って」(江藤)、「歯車が噛み合っていない感じがする」(小沼)、「作者のこれまでの実績を含めて」(吉行)というものであった。1971年、「今も時だ」で『新潮』新人賞の最終候補になり、学園闘争時代の体験を初めて小説化した作品として注目される。同年に大学卒業後、土木作業員、運転手、魚市場の荷役などの職業を経験したのち、1973年に故郷に戻り宇都宮市役所に勤務する。1978年、第一創作集『途方にくれて』を発表。続く『今も時だ』『ブリキの北回帰線』(1978)などの作品集で、沖縄やインドを放浪する青年の姿を描く。「赤く照り輝く山」(『新潮』1978年12月号)が芥川(あくたがわ)賞候補になったあと市役所を退職し、執筆に専念する。1980年に刊行された『遠雷』で野間文芸新人賞を受賞。以後、本格的な作家活動に入る。
主要な著作には『火の車』(1979)、『歓喜の市』上下(1981)、『太陽の王』『蜜月』(1982)といった長編小説のほかに、『回りつづける独楽(こま)のように――第一エッセイ集』(1981)のようなエッセイ集や、『世紀末通りの人びと』(1986)などのルポルタージュがある。また、都市近郊の農家を描いた『春雷』(1983)、琉球(りゅうきゅう)列島の伝承をとり入れた『うんたまぎるー』(1989)などで高い評価を得る。その他の著作としては『光匂い満ちてよ』(1979)、『性的黙示録』(1985)、『天地の夢』(1987)、『卵洗い』(1992。坪田譲治文学賞)、『鳥の道』(1995)、『毒――風聞・田中正造』(1997。毎日出版文化賞)、『地霊』(1999)などがある。1986年、アジア・アフリカ作家会議の「1985年度若い作家のためのロータス賞」を受賞する。また、連合赤軍リンチ殺人事件を題材にした「光の雨」は、死刑囚の手記を無断引用したと批判され、全面改稿し、2001年(平成13)に高橋伴明(1949― )監督により映画化される。そのほかルポルタージュ、エッセイなど多数。テレビの報道番組などでレポーターとしても長期にわたって活動した。平成22年2月8日死去。
[池田雄一]
『『途方にくれて』(1978・集英社)』▽『『火の車』(1979・集英社)』▽『『閉じる家』(1979・文芸春秋)』▽『『回りつづける独楽のように――第一エッセイ集』(1981・集英社)』▽『『世紀末通りの人びと』(1986・毎日新聞社)』▽『『天地の夢』(1987・集英社)』▽『『うんたまぎるー』(1989・岩波書店)』▽『『鳥の道』(1995・新潮社)』▽『『地霊』(1999・河出書房新社)』▽『『今も時だ』『ブリキの北回帰線』『太陽の王』(福武文庫)』▽『『遠雷』『春雷』『性的黙示録』『毒――風聞・田中正造』(河出文庫)』▽『『歓喜の市』上下『蜜月』(集英社文庫)』▽『『光匂い満ちてよ』『光の雨』(新潮文庫)』▽『『卵洗い』(講談社文芸文庫)』▽『黒古一夫著『立松和平――疾走する文学精神』(1997・随想社)』
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