改訂新版 世界大百科事典 「第三身分とは何か」の意味・わかりやすい解説
第三身分とは何か (だいさんみぶんとはなにか)
Qu'est-ce que le Tiers État?
フランス革命勃発直前の1789年初めに,シエイエスが匿名で発表したパンフレット。当時のフランスの身分制社会を大胆に批判して大きな反響を呼び,革命に向けての世論の形成に重要な役割を果たした。革命前のフランスでは,第一身分(聖職者)と第二身分(貴族)とが免税などの特権を与えられ,国民の大多数を占める第三身分(平民)は,租税負担のすべてを負わされていながら政治的発言権がほとんどなかった。18世紀後半になると,こうした身分制に基づく旧体制の矛盾が深刻化し,とくに,窮迫した国家財政を救うためにはなんらかの改革が必要になり,1788年には,翌年に全国三部会を開くことが決定された。しかし,その全国三部会が17世紀のままに身分別によって構成されると決定されたため,特権身分と第三身分との間の対立が激しくなった。シエイエスは,本書の冒頭で,〈第三身分とは何か,それはすべてである〉と述べ,国民に寄生している特権身分は国民にとってはむしろ異邦人にすぎず,第三身分だけが真に国民の名に値すると主張した。したがって彼は,今日まで政治的に無権利状態にあった第三身分こそが真の国民として国政に参与すべきであると主張し,そのための具体的方策として,きたるべき全国三部会では,身分別の構成をとることなく,全議員の頭数制による票決がなされるべきことを要求した。本書で彼が主張したことは,89年のうちに,全国三部会の3身分議員全体の合同による国民議会の成立と,そこでの身分的特権の廃止の決定とによって,ほぼ実現されるところとなった。本書の最初の邦訳は,近内金光により京都大学《法学論叢》第15,16巻に発表された。
執筆者:遅塚 忠躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報