米を取り扱う商人のうち卸売業務を行うものをいい,江戸時代以降に発達した。とくに江戸時代には,幕府や藩などの諸領主の財政は貢租米の販売に大きく依存していたから,米取引の中心的存在である米問屋は,領主財政と結びつく形で成長をとげた。中期以降になると農民の手による米の商品化も進み,米問屋をはじめとする米穀商業活動はさらに盛んになった。また,江戸時代の米取引は早くから全国的な広がりをもっていたから,米問屋も当時の最大の米穀集散地である大坂・江戸のみならず,港町などの地方都市にも広く存在した。
大坂では,米取引の中心は各領主の蔵屋敷から売り出される蔵米であった。したがって,大坂では蔵屋敷がいわば米問屋の位置にあったわけだが,この蔵米を買い受ける堂島米仲買のなかにも米問屋を称するものがあった。すなわち,大坂では1731年(享保16)から35年にかけて1300株ほどの米仲買株が公許されているが,そのうちの古株を有するものが堂島米問屋とも別称されたのである。堂島米仲買のうちには大坂はじめ各地の米商人に蔵米の卸売を行うものも多く,彼らは実際の機能面では米問屋的存在であった(堂島米市場)。大坂の米問屋には,このほか上(かみ)問屋と納屋物雑穀問屋があった。上問屋は21人いたが,彼らは上積米屋とともに,1735年から90年(寛政2)にかけて京・伏見筋への米積出しを独占的に担当した。納屋物雑穀問屋は,蔵屋敷を経由しない貢租米や商人米からなる納屋米の買受けと販売を担当した。彼らは1835年(天保6)に仲間の結成を公式に認められたが,そのときの人数は130人であった。
一方,江戸においては大坂と異なって商人米の比重が大きく,それを取り扱う米問屋が発達した。1729年にはその商域などにより,下り米問屋・関東米穀三組問屋・地廻米穀問屋の3種に区分された。下り米問屋は東海地方以西の57ヵ国からの下り米を引き受ける問屋で,この下り米の多くは大坂や兵庫などの上方諸都市を経由して回送されたものであった。関東米穀三組問屋は関八州と陸奥の9ヵ国からの商人米を担当し,堀江町・小網町一丁目・小舟町の河岸の3町に居住する米問屋が所属した。地廻米穀問屋も同じく関八州と陸奥からの商人米を引き受けたが,彼らは江戸市中に散在しており,また脇店八ヵ所米屋という名目で市中の小売業をも兼ねていた。これら米問屋の総数は,幕末期には300~400人程度とみられるが,この時期には地廻米穀問屋が最も多かった。また江戸時代の中期以降には,中山道の板橋宿や奥州道の千住宿など江戸近郊の街道筋にも江戸への陸送米を取り扱う米問屋が発達し,彼らは陸付米穀問屋と呼ばれた。
東北地方では,最上川河口の酒田に米問屋と陸(おか)問屋があった。米問屋は30株あったが,主として周辺諸藩の貢租米を買い入れ,これを他国よりの買船に売り渡した。陸問屋は主として周辺農民からの売米を引き受け,これを小売商に卸売したり,米問屋へ売り渡したりした。酒田からの積出し米は,大坂や松前などに回送された。東海地方では,木曾川・長良川・揖斐川の河口に位置する桑名に大問屋10軒,小問屋15軒の米問屋があり,桑名藩の保護をうけ,美濃米・尾張米・伊勢米の取引を行った。桑名には近村の農民売米を買い受ける陸問屋もあった。近畿地方では,商人米の大集散地である兵庫に米および肥料を取り扱う諸問屋があり,1772年(安永1)に株仲間として認められたが,121軒に及んだ。諸問屋は西日本および東北・北陸地方の産米を買い受け,これを同地の穀物仲買に売り渡した。これら商人米は近畿各地などに販売されるとともに,江戸の下り米問屋に向けても回送されたわけである。中国地方では,赤間関(現,下関市)に東北・北陸地方の産米を取り扱う北米問屋が1798年(寛政10)ころに16軒あり,また,九州地方の産米および周辺産米を取り扱う万(よろず)問屋が多数あった。この両問屋は主に米を取引し,雑穀はじめ諸産物も取り扱っていた。以上は,地方都市の米問屋の代表的事例であるが,このほかにも水運に便利な港町を中心に,多くの地方都市に米問屋が存在した。明治以降も,米の卸売を行う業者は一般に米問屋と呼ばれたが,鉄道輸送の発展にともない米穀流通ルートに変化が生じ,その結果,旧来の地方都市の米問屋のなかには衰退していくものもあらわれた。
執筆者:本城 正徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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