粉体と粒体のこと。粉体とは微細な固体粒子の集合体であり,粒体とは比較的粗い固体粒子の集合体である。粉体と粒体の明確な区別は存在しないが,1mm近辺を境としてそれより細かいものを粉体,粗いものを粒体と呼ぶ場合が多い。また両者を合わせて広い意味で粉体と呼ぶこともある。
われわれの日常生活は粉粒体と深いかかわりをもっている。穀物や,小麦粉のようにこれを粉砕したもの,土,砂,砂利,セメント,石炭,鉱石,煤塵,火山灰,薬品など,数えれば際限がない。鉛筆の芯,白墨,電池の陽極に使われる炭素棒,煉瓦,タイル,陶磁器なども粉体を高い圧力や熱で固めたものである。また,合成樹脂をはじめ一部の金属やセラミックスの製品,あるいは機械部品なども粉粒体を原料として作られている。さらにまた,紙,ゴム,食品,薬品,建材,合成樹脂製品などの中にも,目には見えないがいろいろの形で粘土その他の粉体が添加されている。
このような粉粒体の物性を調べ,またその応用技術を研究する学問領域は粉体工学powder technologyと呼ばれている。粉体工学においては,粉粒体を構成する粒子の粒径分布(粒度分布)や粒子の形状などの一次特性をはじめ,粒子集合体としての粉粒体の性質,すなわち安息角,内部摩擦角,付着力,かさ(嵩)密度,流動性などの二次特性が研究されている。このような粉粒体の二次的特性は,一般に粉体物性と呼ばれている。
安息角angle of reposeは息角,休止角とも呼ばれ,粉粒体を漏斗などで落下させ,水平面上に堆積させた場合に形成される円錐の表面が水平面となす角度である。また,粉粒体の内部に任意の単位面積の平面を想定した場合,その面に対して作用する法線方向の応力σとその面が滑りを起こす寸前のせん断応力τ0とによってきまる角度φi=tan⁻1(τ0/σ)を内部摩擦角という。貯槽(ホッパー,バンカーなど)に蓄えられたり,土場(どば)に堆積されている粉粒体の内部には任意の面について法線方向の応力σとせん断応力τとが作用していると考えることができる。直交する座標軸の一つに垂直応力σ,他の一つにせん断応力τをとり,σ1とσ2でσ軸に交わる円を描くと,その円は次の式で表される。粉粒体の内部における主応力をσ1,σ2とすれば,この円の上の任意の点Pのσ,τ座標値は,粉粒体内部の任意の面に対して作用する垂直応力とせん断応力の関係を満足している。このような円は粉粒体(あるいは一般に固体)の内部の応力状態を表しており,モールの応力円,またはモール円と呼ばれる。粉粒体が滑りを起こす限界応力状態に対応するモール円をいくつも描くと,その包絡線が得られる。これをその粉粒体の破壊包絡線と呼んでいる。破壊包絡線が,τ=μiσ+cのような直線で表される性質をもつ粉粒体をクーロン粉粒体(あるいはクーロン粉体)と呼ぶ。ここにμiは粉体の内部摩擦係数であり,μi=tanφiの関係にある。また破壊包絡線のτ軸切片cは付着力を表している(図)。かさ密度というのは粉体の質量をそのかさ体積で割った値である。粉粒体の流動性は,安息角,圧縮度,凝集度などによって総合的に評価される粉体物性であって,その指数表示法としてカーR.L.Carrの流動性指数がよく知られている。
粉体は容器の中に入れられたり,あるいは平らな面の上に堆積しているというような状態のほかに,空気や水のような流体の中に均一あるいは不均一に懸濁しているような状態で存在する場合がある。空気中に浮遊する微細な粉体はエーロゾルと呼ばれている。また粉体が液中に懸濁した状態のものはスラリー,スライムなどと呼ばれている。このようにいろいろな形態をもつ粉粒体を取り扱い,あるいは処理する操作としては,次のようなものがある。
(1)粉砕 粉粒体を砕いて,より細かい粒子群とする。(2)ふるい分け ふるいによって粉粒体を粒子の細かいものと粗いものに分ける。(3)分級 空気,水などの流体の力を借りて,粉粒体を粒子の細かいものと粗いものに分ける。(4)選別 鉱石や石炭のように質の異なる粒子から成る粉粒体を質によって分離する。(5)固気分離 気体と混在する固体粒子を気体から分離する(集塵ともいう)。(6)固液分離 液体と混在する固体粒子を液体から分離する。沈降分離,ろ過,乾燥などの方法がある。また目的や方法により,脱水,濃縮,清澄(化)などと呼ぶこともある。(7)混合 異種の粉粒体を混ぜ合わせる。(8)混練 粉粒体に若干の液体を加えて練り合わせる。(9)均一化 異種の粉粒体あるいは品質的にばらつきのある粉粒体を合一して,均質にする。(10)輸送 粉粒体の輸送。方法により管路輸送,水力輸送,空気輸送,コンベヤ輸送などと呼ぶこともある。(11)貯槽 粉粒体を容器に蓄える。(12)充てん 粉粒体を容器や型につめる。
執筆者:井上 外志雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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