糞線虫症(読み)フンセンチュウショウ

デジタル大辞泉 「糞線虫症」の意味・読み・例文・類語

ふんせんちゅう‐しょう〔‐シヤウ〕【×糞線虫症】

熱帯・亜熱帯地域に広く分布する糞線虫という寄生虫による感染症。土壌から経皮感染し、十二指腸空腸の粘膜に寄生する。放置すると自家感染を繰り返し、敗血症などの重篤な症状を起こすことがある。

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六訂版 家庭医学大全科 「糞線虫症」の解説

糞線虫症
ふんせんちゅうしょう
Strongyloidiasis
(感染症)

どんな感染症か

 糞線虫は、長さが2㎜ほどの糸くずのような虫で、小腸上部の粘膜に寄生します。世界的には熱帯から温帯にかけて広く分布していますが、国内では奄美・沖縄などの南西諸島が主な流行地です。

 感染は土壌中にいる幼虫が皮膚から入ってきて起こり、現在は奄美・沖縄でもほとんどの患者さんは高齢の方ですが、わずかながら小児への感染も報告されています。

 日本の糞線虫症の患者さんは、ほとんどが何十年か前の子ども時代に感染したと考えられています。なぜ、そのような古い感染が今の病気の原因になるかというと、この虫には人体中で世代を重ねる能力があるからです。

 成虫が産んだ卵は腸のなかで孵化(ふか)し、幼虫の一部が皮膚や粘膜からもぐり込んで血液やリンパ液の流れに乗って肺に行き、腸管におりてきて親になります。そしてそれがまた卵を産んで、ということを繰り返して、何十年も感染が持続するのです。

 この性質のせいで、この虫をもっている人が、ステロイド薬や抗がん薬などの免疫機能を抑えるはたらきのある薬の投与を受けると、寄生している虫の数が増え続け、播種性(はしゅせい)糞線虫症という重い病気になります。

症状の現れ方

 寄生数が少ないと症状はありませんが、増えてくるとおなかの張った感じ、下痢腹痛が現れてきます。さらに重症になると、下痢は水様性になり、吸収障害や腸の粘膜から蛋白質が失われることで体重が減り、むくみが出たりします。

 また、粘膜からの出血による貧血、腸管の麻痺、幼虫による肺炎など、多様な症状が出てきます。幼虫が粘膜からもぐり込む時に腸内細菌を血管のなかに引き入れて、敗血症(はいけつしょう)髄膜炎(ずいまくえん)を併発することもあります。

検査と診断

 症状のない時には、感度のよい方法で便を検査しなければ糞線虫を見つけることはできません。しかし、この虫が原因で下痢をしている時は、新鮮な便のなかに長さ0.3㎜弱の動く幼虫を見つけることができます。

 内視鏡で胃や十二指腸の粘膜を採取して、虫の断面が発見されることもあります。下痢や肺炎などの目立った症状がある時は抗体検査も有効です。

 糞線虫症の流行地は、成人T細胞白血病ATL)の流行地でもあります。ATLの発症の前に糞線虫症が現れてくることがあるので、糞線虫陽性の人はATLウイルスの感染についても調べる必要があります。

治療の方法

 糞線虫自体は、駆虫薬(くちゅうやく)(ストロメクトール)でほぼ完全に駆虫できますが、低蛋白や貧血、脱水には対症療法が必要で、細菌感染を併発していれば抗生剤を投与します。

 免疫抑制薬の投与を受けている人やATLウイルス陽性の人では完全に駆虫できないことがあり、その時は重症化を防ぐ目的で定期的に駆虫薬の投与を続けていくことになります。

病気に気づいたらどうする

 糞線虫症は、免疫のはたらきが悪くなると重症化します。重症の糞線虫症は命に関わる病気なので、下痢が続くようなら設備の整った病院に入院して治療してください。

丸山 治彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「糞線虫症」の解説

糞線虫症(線虫症)

 糞線虫(Strongyloides stercoralis)は熱帯・亜熱帯地域に認められる.豪州に移住したカンボジア人の40%以上で糞線虫罹患が疑われたとの報告もある.わが国では沖縄・奄美を含む南西諸島から九州南西部で感染が認められる.
 成虫は長径2.5 mm前後であり,5年近く生存する.人糞で汚染された土壌などには幼虫(フィラリア型幼虫)が存在し,その幼虫が皮膚から侵入する.幼虫は皮膚より肺に至りその後消化管に至る.雌は寄生世代成虫として十二指腸や空腸の粘膜下で潜伏する.虫卵は粘膜内で孵化しラブジチス型幼虫になる.ラブジチス型幼虫は腸管内に移動し糞便とともに外界に出る.一部のラブジチス型幼虫はフィラリア型幼虫となり,再びヒトへ経皮的に侵入する.糞線虫には自家感染(autoinfection)といわれる特殊な病態が存在する.通常ラブジチス型幼虫は外界でフィラリア型幼虫となるが,消化管内でフィラリア型幼虫まで発育し,腸管や肛門付近の皮膚より侵入が可能となる.この過程で患者に寄生する虫体量が爆発的に増加することとなる. 糞線虫は免疫正常者での少数感染では無症状であり,好酸球増加のみが認められる場合もある.虫体数が増えると下痢や腹痛を合併し,幼児では不眠などの神経症・発育不良・会陰部のびらんや湿疹を起こす.またときに幼虫移行症,Loeffler症候群の症状を合併する.
 自家感染は患者内での虫体量を増加させ過剰感染症候群を発症する.多量のフィラリア型幼虫が肝・心・中枢神経系・内分泌系など全身に播種し,最終的には敗血症性ショックに至る.また全身播種した幼虫はGram陰性菌敗血症も合併する.死亡率は10~80%以上に至る.特にHTLV-I,AIDS,低ガンマグロブリン血症,抗TNF抗体療法,臓器移植に伴う免疫抑制は過剰感染症候群のリスク因子であり,わが国でも毎年死亡例が報告されている.
 診断は便などからラブジチス型幼虫(250~350 μm)を検出することである.通常の1回の便検査での感度は30%前後と高くない.寒天上に便を2日間静置し,培地上を移動した幼虫の這痕を確認する普通寒天平板法は90%前後の感度が期待される.過剰感染症候群や播種性感染症では,便以外に痰やその他の体液で虫体が検出される.
 治療としては以下の抗寄生虫薬が選択され,90%以上の有効性がある.しかし過剰感染症候群は致死的であり,長期イベルメクチン治療とともに抗菌薬や集学的治療が必要となる.①イベルメクチン200 μg/kg(単回服用).2週間後に再投与.保険適応有. 人糞で汚染された土壌との接触がリスクであるため,流行地域では靴をはくことが重要である.[立川夏夫]
■文献
Farid Z, Patwardhan VN, et al: Parasitism and anemia. Am J Clin Nutr, 22: 498-503, 1969.
Stolk WA, de Vlas SJ, et al: Anti-Wolbachia treatment for lymphatic filariasis. Lancet, 365: 2067, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「糞線虫症」の解説

ふんせんちゅうしょう【糞線虫症 Strongyloidiosis】

[どんな病気か]
 高温多湿地域に多くみられます。糞線虫の幼虫が皮膚から侵入して感染することが多いのですが、食物などと一緒に虫卵(ちゅうらん)を摂取して感染することもあります。
 下痢(げり)、粘血便(ねんけつべん)、腹痛などの消化器症状のほか、貧血(ひんけつ)やむくみ、全身の衰弱がひどくなることがあります。
[検査と診断]
 糞便(ふんべん)中の幼虫や虫卵を検出して診断しますが、重症の場合には、たんや尿から幼虫が見つかることがあります。
[治療]
 体内で増えますから、早めに治療する必要があります。アルベンダゾール、メベンダゾール、チアベンダゾールのいずれかを3日間内服し、2週間休み、さらに3日間内服します。
 最近はイベルメクチンを1回内服し、2週後にもう1回服用することが行なわれています。副作用の問題がありますので、専門医に相談しましょう。
 予防のためには、流行地では素足で田畑に入らないことです。

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