改訂新版 世界大百科事典 「素粒子模型」の意味・わかりやすい解説
素粒子模型 (そりゅうしもけい)
elementary particle model
いわゆる素粒子といわれているものが多数発見されてくると,従来のそれ以上分割できない最小の粒子という考えよりも,これらがいくつかのより基本的な粒子から構成されている(すなわち内部構造をもつ)と考えるほうが現実的である。このような立場に立って素粒子の構成や構造を理解するためのモデルを素粒子模型という。1950年代の終りから70年代半ばにかけて多数の素粒子が発見されたのに伴い,各種の模型が登場した。その内容はきわめて多種多様で,あるものは力学的な模型であり,またあるものは対称性に基づく分類のための模型であった。今日ではそれぞれの模型の歴史的意義がある程度見通せる状況にあるが,過去にさかのぼって代表的な模型について言及する。
初期の力学的な模型としては,例えば中性子を陽子とπ中間子の束縛状態と考えるウー=ヤン模型などがあげられる。ストレンジネスをもつ粒子,例えばK中間子やΛ粒子,Σ粒子,Ξ粒子などの発見以降は,これらの粒子の分類が重要な課題となった。この種の先駆的なものの中では,1955年日本の坂田昌一(1911-70)によって提出された坂田模型が有名で,これは陽子(p),中性子(n),Λ粒子を基本粒子として,すべてのハドロン(強い相互作用をする粒子)をそれらの束縛状態としてつくり出そうというものである。p,n,Λ粒子が他の粒子,例えばΣ粒子などに比べて,なぜ,より基本的かという点に関しては,多少不自然さが感じられたが,群SU(3)の導入によって粒子を分類する可能性が生じ,非常な成功をおさめた(SU(3)対称性)。
チャーム粒子発見以前の粒子はすべて1重項,8重項,またはその組合せとしての9重項と10重項で分類できることがわかっており,基本表現としての三次元表現はふつうの素粒子(きまった質量とスピンをもつ)としては観測されていない。しかし,この三次元表現に属する粒子の存在を仮定し,他のすべてのハドロンはこれらの束縛状態と考えると分類がうまくいくことがわかった。この粒子はM.ゲル・マンによってクォークと名付けられ,初めは三次元表現に対応してu,d,sの3種が考えられた。クォークに基づく素粒子の模型はクォーク模型と呼ばれている。クォークをq,反クォークをqと書くと,中間子はqq,バリオンはqqqで表される。群論的には ×3=1+8,3×3×3=1+8+8′+10という積表現の既約分解則で中間子は一または八次元,バリオンは一,八または十次元のどれかに属することがわかる。
基本粒子としてのクォーク自身が単独では存在しえない(クォークの閉込めという)という事情があるため,クォークに関する情報はある意味ですべて間接的なものである。しかし,今日ではこのクォーク模型の正しさを証拠だてるのに十分なデータがそろっていると考えられており,クォークは実在のものとして受けとられている。クォークを単独で存在させないようにしている力,つまり他のクォークや反クォークとの結びつきを断ち切ることができないようにしている力は,グルーオンと呼ばれる粒子の交換によって与えられると考えられており,それぞれのクォークは実際にはひも状にしぼられたグルオンの場で結びつけられているらしい。このように場がひも状にしぼられるのはクォーク間の距離が適当に離れた場合であり,近距離ではクーロン的な力を及ぼし合っていると考えられる。
現在,クォークの種類としては前述のu,d,sのほかにチャームクォーク(c),ボトムクォーク(b),トップクォーク(t)が存在することが明らかにされている。このようにクォークの種類が増えるに従って,これらのクォークやさらには電子やμ粒子などもより基本的な粒子から構成されているとみなす模型がいろいろと考えられている。
→クォーク →素粒子
執筆者:菅原 寛孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報