日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィブロイン」の意味・わかりやすい解説
フィブロイン
ふぃぶろいん
fibroin
絹糸を構成するおもな繊維タンパク質。フィブロインは5齢期のカイコの後部絹糸腺(せん)で合成・分泌される。繭の繊維はフィブロインの繊維2本がもう一つのタンパク質セリシン(絹膠(けんこう))に固められたものである。組成はフィブロイン70%、セリシン30%とされている。セリシンの分子量は約6万5000~40万でセリンを約35%含んでいる。生糸をつくるときは繭を希アルカリ(せっけん液)で加温処理してこのセリシンを溶かし、除いている。セリンの名称はこのセリシンからつけられた。クモの糸もフィブロインが主成分である。分子量は約37万で、二つのタンパク質約35万のH鎖と約2万5000のL鎖とからなる。アミノ酸組成に特徴があり、グリシン48%、アラニン31%、セリン12%、チロシン5%で、他のアミノ酸は非常に少ない。H鎖のアミノ酸配列に特色があり、(GAGAGX)n, X=Ser, Valで表わせる(G=グリシン、Ser=セリン、Val=バリン)。つまり、ほとんどの個所でグリシンが一つ置きにある。X線回折像では典型的な平行β(ベータ)構造(タンパク質やポリペプチド鎖がとる二次構造の一種)を示し、立体構造はまだ決定的なものはないが特徴があり、ポーリングによるβ-ひだ状構造(pleated sheet)のモデルとなった。このような構造のため、プロテアーゼによって分解されにくい。
セリシンには抗酸化作用があり、さらに人工的な腫瘍(しゅよう)に対して抑制作用があることが、2003年(平成15)に広島大学から報告された。また、フィブロインをキモトリプシンで切った断片ペプチドのうちN末端領域には、フィブロブラスト(繊維芽細胞)成長促進作用があることが明らかになった。
[野村晃司]
『本宮達也著『ニュー繊維の世界』(1988・日刊工業新聞社)』▽『赤井弘・栗林茂治編著『天蚕 Science & technology』(1990・サイエンスハウス)』▽『日本蚕糸学会出版委員会監修、小松計一著『シルクへの招待』(1997・サイエンスハウス)』▽『宮本武明他編『21世紀の天然・生体高分子材料』(1998・シーエムシー)』