フィブロイン(読み)ふぃぶろいん(その他表記)fibroin

翻訳|fibroin

デジタル大辞泉 「フィブロイン」の意味・読み・例文・類語

フィブロイン(fibroin)

絹やクモの糸などの主成分で、繊維状の硬たんぱく質。水・希酸・希アルカリに溶けない。繭糸ではセリシンに包まれている。

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精選版 日本国語大辞典 「フィブロイン」の意味・読み・例文・類語

フィブロイン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] fibroin ) 昆虫や蜘蛛の絹糸腺から分泌される繊維性の硬蛋白質。セリシンとともに絹糸の主成分で蚕の繭の約七〇~八〇パーセントを占める。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィブロイン」の意味・わかりやすい解説

フィブロイン
ふぃぶろいん
fibroin

絹糸を構成するおもな繊維タンパク質。フィブロインは5齢期のカイコの後部絹糸腺(せん)で合成・分泌される。繭の繊維はフィブロインの繊維2本がもう一つのタンパク質セリシン(絹膠(けんこう))に固められたものである。組成はフィブロイン70%、セリシン30%とされている。セリシンの分子量は約6万5000~40万でセリンを約35%含んでいる。生糸をつくるときは繭を希アルカリ(せっけん液)で加温処理してこのセリシンを溶かし、除いている。セリンの名称はこのセリシンからつけられた。クモの糸もフィブロインが主成分である。分子量は約37万で、二つのタンパク質約35万のH鎖と約2万5000のL鎖とからなる。アミノ酸組成に特徴があり、グリシン48%、アラニン31%、セリン12%、チロシン5%で、他のアミノ酸は非常に少ない。H鎖のアミノ酸配列に特色があり、(GAGAGX)n, X=Ser, Valで表わせる(G=グリシン、Ser=セリン、Val=バリン)。つまり、ほとんどの個所でグリシンが一つ置きにある。X線回折像では典型的な平行β(ベータ)構造(タンパク質やポリペプチド鎖がとる二次構造の一種)を示し、立体構造はまだ決定的なものはないが特徴があり、ポーリングによるβ-ひだ状構造(pleated sheet)のモデルとなった。このような構造のため、プロテアーゼによって分解されにくい。

 セリシンには抗酸化作用があり、さらに人工的な腫瘍(しゅよう)に対して抑制作用があることが、2003年(平成15)に広島大学から報告された。また、フィブロインをキモトリプシンで切った断片ペプチドのうちN末端領域には、フィブロブラスト(繊維芽細胞)成長促進作用があることが明らかになった。

[野村晃司]

『本宮達也著『ニュー繊維の世界』(1988・日刊工業新聞社)』『赤井弘・栗林茂治編著『天蚕 Science & technology』(1990・サイエンスハウス)』『日本蚕糸学会出版委員会監修、小松計一著『シルクへの招待』(1997・サイエンスハウス)』『宮本武明他編『21世紀の天然・生体高分子材料』(1998・シーエムシー)』

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改訂新版 世界大百科事典 「フィブロイン」の意味・わかりやすい解説

フィブロイン
fibroin

昆虫とクモ類の繭糸の主成分をなす硬タンパク質で,生糸の主成分。各種溶媒や希酸に溶けず,タンパク質分解酵素の作用にも抵抗性を示す。生体タンパク質としては最も単純なものの一つ。グリシン,アラニン,セリンおよびチロシンが主要構成アミノ酸で,この4種だけで全アミノ酸の90%近くを占めるものが多い。またグリシン-アラニンの配列の繰返しの多い部分は結晶部と呼ばれ,みごとなX線回折像を与え,L.C.ポーリングが1955年にポリペプチドのβ-構造のモデルを提出した際の基礎的なデータとなった。分子量約37万の巨大分子で,大小二つのサブユニット(35万と2万5000)から成ると考えられている。カイコ絹糸腺でのフィブロイン合成系は真核細胞での遺伝情報の調節機構を調べる上でひじょうに都合のよい実験系で,アミノ酸組成と配列の単純さを利点としてフィブロイン構造遺伝子のクローニングが早くから行われている。
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化学辞典 第2版 「フィブロイン」の解説

フィブロイン
フィブロイン
fibroin

カイコ(Bombyx mori)の繭から取れる絹の主成分のタンパク質.繭ではL-セリンを40% 近く含む水溶性のタンパク質セリシンに覆われた形で存在する.分子量は3×105 といわれるが,水溶液中で会合する傾向があるので正確な値は不明である.アミノ酸組成では,グリシンアラニン,セリン含量が多い.X線回折の解析からフィブロインには逆平行β構造が多く見いだされている.[CAS 9007-76-5]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フィブロイン」の意味・わかりやすい解説

フィブロイン
fibroin

繊維状の硬蛋白質の一種。蚕の絹糸腺中に可溶性の液状で存在し,吐糸して繭をつくるとき,2本の繊維状に固化し,別の硬蛋白質セリシンで固められる。絹糸を精練すると,ほとんど純粋なフィブロイン繊維から成る,いわゆる練り絹となる。水,希酸,希アルカリなどに不溶,臭化リチウム,塩化カルシウム,硝酸カルシウム,チオシアン酸,ジクロロ酢酸などの水溶液に可溶。フィブロイン繊維の耐衝撃性は非常によいが,耐酸,耐アルカリ性はあまりよくなく,耐屈曲疲労性は木綿,羊毛,ナイロンより弱く,耐摩擦性もナイロン,ビニロンに劣り,耐日光性も弱く,脆化して黄褐色に変色する。

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百科事典マイペディア 「フィブロイン」の意味・わかりやすい解説

フィブロイン

硬タンパク質の一種で,昆虫とクモ類の繭糸を構成し,その70%を占める。分子量約37万で大小2つのサブユニットからなる。希酸,タンパク質分解酵素等に安定。グリシン,アラニン,セリン,チロシンを多く含み,この4つで全アミノ酸の90%近くを占める。→絹糸腺
→関連項目ポリアミド

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栄養・生化学辞典 「フィブロイン」の解説

フィブロイン

 絹糸の約70%を占める繊維状タンパク質.構成アミノ酸としてはグリシン,アラニン,チロシンが多い.

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世界大百科事典(旧版)内のフィブロインの言及

【生糸】より

…また生産国により,日本糸,中国糸,韓国糸などに分類される。
[構造および性質]
 繭糸は近似三角形の断面をもつ2本のフィブロイン繊維をセリシンが被覆する形状をなす。繭糸の主成分はセリシン(20~30%),フィブロイン(70~80%)でほぼ95%以上を占め,ほかに蠟,炭水化物などの二次成分を含む。…

【硬タンパク質】より

…植物界では硬タンパク質の代りにセルロース類が同じ役割をしているものと考えられている。 例としては骨,皮,腱などに含まれているコラーゲン,靱帯や動脈などの成分であるエラスチン,毛髪,羽毛などのケラチン,絹のフィブロイン,カイメンのスポンジ(海綿質)などが知られている。不溶性の原因はコラーゲンの場合には年齢とともに生ずる分子間の橋かけ結合であり,エラスチンの場合には分子内の橋かけ結合によるものと考えられている。…

※「フィブロイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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