日本大百科全書(ニッポニカ) 「指揮監督権」の意味・わかりやすい解説
指揮監督権
しきかんとくけん
上級機関が下級機関に対してその職務の統一を確保するために有する権限。国や地方公共団体などの行政機関は多種多様であるが、それは同一の主体に属し、共通の目的の達成を目ざして、全体として統一的に行動しなければならない。そのため、上級の機関は下級の機関に対して、報告を徴したり、書類帳簿を閲覧したり、実地視察したりする監視権、権限の行使を指示する訓令権、一定の権限の行使について上級庁の許認可を要するという許認可権、下級機関の行為を取消し・停止する権限、かわりに権限を行使する代執行権、下級庁の長を免職にする罷免権などを有する。ただし、代執行権は、法律にとくに明文の規定がある場合にのみ認められる。独立行政委員会は職権行使の独立を認められ、指揮監督に服しない。
2000年(平成12)の地方分権改革までは、地方公共団体の現場で行っている事務のうち、中央官庁から地方公共団体の首長などの機関に権限を委任する機関委任事務として位置づけられたものが多数存在した。これはもともと国の事務との位置づけがなされているから、中央官庁に指揮監督権があった。この事務を地方公共団体が違法に執行したり、怠ったりする場合には、代執行する必要があった。しかし、首長等は部下ではないので、ただちに代執行することはできず、裁判所の公権的判断を得ることが必要とされていた。それが職務執行命令訴訟制度である。改革後は、機関委任事務は廃止されて、自治体の事務となったが、そのなかで、法定受託事務とされるものについては、地方公共団体の事務が違法であったり命令に従わない場合には、裁判所の判決を得て、履行を命じ、さらには代執行する制度が残されている(地方自治法245条の8)。
司法権の内部では、裁判については、各裁判官が独立であるが、司法行政事務については、最高裁判所の指揮監督に服する。このほか、行政が民間なり市民に対して指揮監督する権限をいうこともある。
[阿部泰隆]