日常の場面で幼小児が突然肘を痛がって曲げなくなり、時に上肢全体を麻痺があるかのようにまったく動かさなくなります。反復して起こしやすいので注意が必要ですが、いずれ成長とともに生じなくなります。
①発病の経緯
親などが子どもの手を不意に引っ張った時に生じます。
②年齢・性別・左右差
幼児・小児期にみられ、とくに2~6歳に多い病気です。性差・左右差はありません。
③症状
子どもは疼痛のために恐怖心をもっているので、痛がらない部分から触れ始め、肘が痛い場所なのかどうかを調べます。肘内症は単純X線写真上では変化を認めません。X線検査は本当の脱臼や骨折を区別するのに有用です。
肘を直角に曲げて手のひらを上に向けた状態から、橈骨頭を押し込むようにしながら、ゆっくりと前腕を内側にひねるように回すことで弾発音(コキッという小さな音)とともに整復されます。整復後の固定は不要です。整復が成功すると、患児は肘を曲げて上肢を使うようになります。
川端 秀彦
3~6歳ぐらいの幼児にしばしば生じる状態で、両親などが手を引っ張ったあとに、子どもが痛がって手をだらんと下げて動かさないのが特徴です。
とくに肘関節周辺の
骨折や脱臼の可能性がなく、症状や経過から肘内障が疑われた時は、徒手整復を行います。整復操作は簡単で、肘関節を回外しながら屈曲させていくと、クリック(カクンなどの音)を伴って整復され、その瞬間から手を自由に動かせるようになります。
同じような原因で再発を繰り返すケースも少なくありませんが、予後は良好で、学童期になるとほとんど発症しなくなります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
幼児にみられる肘関節の異常。2~4歳くらいの幼い子どもの手や手首を引っ張ったり,ねじったり,急に引き上げたりしたときに起こる。親が子どもの手を引っ張ることによって子どもの転倒を防ぐといったときに起こることが多い。子どもはひじを痛がり,その手を下にさげ,あたかも上肢全体が麻痺したかのようにまったく動かさなくなる。手を動かそうとすると泣いていやがる。親たちは〈手が抜けた〉〈肩が抜けた〉と思い込みがちであるが,これは急激に生ずる外傷性の肘関節機能障害の一種であって,その起り方に特徴があるので,肘内障という名で呼ばれてきた。これは,幼いためにまだその形が完成されていない橈骨(とうこつ)頭(前腕の親指側の骨,橈骨のひじ側の端をいう)が,それを固定している薄くてゆるい輪状靱帯(じんたい)から部分的に亜脱臼状態となることが主原因である。つまり橈骨が引っ張られることで橈骨頭が輪状靱帯外へ固定されてしまうわけである(図)。
肘内障は起り方がきわめて特徴的であり,しかも骨折などと違って子どもの痛がり方,泣き方などが軽いので,慣れた医師ならばすぐ判断できる。治療もきわめて簡単で,患児のひじを屈曲して靱帯を弛緩させ,医師の親指で橈骨頭を軽く上から押さえながら,前腕を回内外すれば,こくんと小さく触れて整復する。整復されると幼児は直ちにひじを自分で曲げ伸ばしし,上肢が使えるようになるので,たいへん劇的な治り方である。子どもが7歳くらいまで成長すると手を引っ張っても肘内障になるようなことはなくなるので,とくに心配する必要はないが,それまでは肘内障を生じうる動作は避けたほうがよい。
執筆者:山本 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
肘(ひじ)の関節内障で、学齢期以前の小児の手または前腕を急に強く引っ張ったとき、橈骨(とうこつ)小頭が環状靭帯(じんたい)から亜脱臼(だっきゅう)をおこしたものをいう。手をつないで歩いているとき、幼児が急につまずいて倒れそうになった場合に、幼児の手や前腕をつかんで支えたときなどにおこりやすい。突然激しく泣き出し、腕をだらりとさせ、前腕を回内位にして動かそうとしない。外見上、腫(は)れたり変形したりしているようなことはないが、他動的に肘関節を屈曲するか、前腕を回外しようとすると激しく泣き出すので、痛みのあることがわかる。
整形外科医または柔道整復師に整復してもらえばよいが、小児科外来でもしばしばみられる幼児の外傷である。肘関節を軽く屈曲し、片手で前腕を握り、他方の手で上腕をつかむように握って指先を橈骨小頭部に当て、前腕を外旋しながら橈骨小頭を押し、肘関節を屈曲すると整復される。このとき、軋音(あつおん)を手に感ずる。整復後は副木や三角布による固定の必要はなく、ただちに上肢を使うようになるが、再発しやすいので、5日間くらいは手や前腕を強く引っ張らないように注意するほか、一両日冷湿布を行い弾性包帯を使用する程度でよい。
なお、いわゆる関節内障は膝(しつ)関節や顎(がく)関節にもみられ、骨折や脱臼がX線写真像では認められないのに、関節運動の障害や痛みを訴える状態をいう。一般に、関節を固定する役目をもつ靭帯の損傷や断裂などによっておこるとされている。
[永井 隆・山口規容子]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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