高血圧などのため脳内の細い血管が破れて出血し、その血液に圧迫され脳細胞が損傷を受ける病気。出血の量や箇所により症状は異なるが、脳の左側での出血だと、右手足の運動機能や感覚のほか、言語機能に障害が出ることが多い。
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脳出血とは脳内の血管が何らかの原因で破れ、脳のなか(大脳、小脳および
近年、脳出血の死亡数は減ってきましたが、その最大の理由は高血圧の内科的治療が広く行きわたり、血圧のコントロールが十分に行われるようになったためと考えられます。また最近、脳出血は軽症化していますが、運動障害や
高血圧が原因で起こる脳出血が最も多く、全体の70%を占めます。血管の病変をみてみると、脳内の100~300㎛の細い小動脈に
高血圧性脳出血を部門別にみてみると、最も頻度が高いのは
一般的には頭痛、嘔吐、意識障害、
①被殻出血
片麻痺、感覚障害、
②視床出血
片麻痺、感覚障害は被殻出血と同じですが、感覚障害が優位のことがあります。視床出血では、出血後に視床痛という半身のひどい痛みを伴うことがあります(図7、図8)。
③皮質下出血
④
突然の意識障害、高熱、
⑤小脳出血
突然の回転性のめまい、歩行障害が現れ、頭痛や嘔吐がよくみられます。
CTが最も有用で、発症後数分以内に高吸収域(血腫が白く写る)として現れ、3~6時間で血腫が完成し、約1カ月で等吸収域(脳組織と同じ色に写る)になり、やがて低吸収域(脳組織より黒く写る)になります。脳動脈瘤、脳動静脈奇形、
高血圧性脳出血の治療は、血腫による脳実質の損傷を軽くし、再出血や血腫の増大を防ぎ、圧迫によって血腫の周囲の二次的変化が進まないようにすることです。このため内科的治療としては、
血腫の増大は、発症してから数時間以内に約20%の患者さんにみられ、多くの場合は発症6時間以内に止まります。一方、脳浮腫は脳ヘルニアを起こして、予後に重大な影響を与えます。通常、脳浮腫は3日目から強くなり、ピークとなるのは1~2週です。抗浮腫薬としてグリセオールとマンニトールを用います。
高血圧のコントロールは、脳出血の治療のなかで最も重要であり、また難しい問題でもあります。脳には、血圧の変動に対して脳の血流を一定に保とうとする自動調節能があることが知られていますが、急性期脳出血の場合はこの自動調節能が機能せず、脳の血流は血圧の上がり下がりに合わせて変動します。
そのため急に血圧を低下させると脳血流量が減って組織を流れる循環が悪くなるので、降圧の程度は降圧薬投与前の血圧の80%くらいにするのが適当です。一般に、慢性期での降圧の目標レベルは治療を開始してから1~3カ月の間に140/90㎜Hg以下とするのがよいとされています。
脳出血に対して手術が適応するかの判断については、出血量が10ml未満の小出血または神経学所見が軽度な症状では、部位に関係なく手術適応はなく、意識レベルが深昏睡の症例も手術適応はないとするのが一般的な方針です。部位別では、被殻出血は意識レベルが傾眠から半昏睡で血腫量が31ml以上、小脳出血は最大径が3㎝以上で進行性のものは手術適応があります。皮質下出血は血腫が50ml以上と大きく、意識レベルが傾眠から半昏睡の場合、手術が考慮されます。
そのほかの脳出血の合併症として重要なのはけいれん発作、発熱、消化管出血、電解質異常、高血糖、
脳出血の患者さんでは、意識障害とともに呼吸障害を伴う場合が多くみられます。倒れた直後に注意しなければならないのは、吐物によって
このような処置をして、患者さんをできるだけ早く専門の病院に運び、適切な治療を行うことが大切です。
普段から血圧の高い患者さんに突然に起こる、上下肢における持続性で片側の脱力は、脳出血を含めた脳血管障害の可能性があるので、軽い場合でも神経内科、脳神経外科のある専門病院で精密検査することをすすめます。
北川 泰久
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
高血圧などの種々の原因によって脳血管が破綻(はたん)し、脳内に出血して生じた血腫(けっしゅ)のため、周囲の脳実質が圧迫、浸潤、破壊されることによって発症する疾患で、代表的な脳血管障害の一つ。脳実質を穿通(せんつう)する動脈の細い血管(径約0.2ミリ)に血管壊死(えし)という変化がおこり、血管壁の構造が崩れてもろくなり、やがて同部に脳内小動脈瘤(りゅう)(径0.2~0.5ミリ)を生じ、ついにこれが破綻することによって脳実質へ出血し、血腫を形成する。脳出血の好発部位としては、脳出血動脈ともよばれている線条体動脈外側枝が破れておこる被殻出血がもっとも多く、脳出血全体の50~60%を占める。この被殻出血に次いで多いのは、視床膝(しつ)状体動脈あるいは視床穿通動脈の破綻による視床出血で、25~35%に相当する。なお、この視床出血を内側型出血とよぶのに対して、被殻出血を外側型出血とよぶことがある。このほか、皮質下出血、橋(きょう)出血、小脳出血の順になる。
[荒木五郎]
一見健康な人に突然発症し、発作は活動時におこることが多い。脳出血患者の大部分に既往症として高血圧があり、発作時は著しい高血圧を示すことが多く、高血圧性脳出血とよばれる。大部分の患者に意識障害がみられるが、これがなければ高率に頭痛を訴える。通常、半身不随となる。これらの神経症状は数分から数時間以内に進展、完了する。重症の場合は急に昏睡(こんすい)に陥ることがある。しかし、意識清明の軽症患者も10%くらいみられる。腰椎穿刺(ようついせんし)によって髄液を調べると、約85%は血性か黄色調であり、残りは水様で透明である。
[荒木五郎]
脳出血と鑑別を要する疾患は、脳梗塞(こうそく)とくも膜下出血である。(1)脳梗塞との鑑別 脳出血は活動時に突然おこり、意識障害がくることが多く、頭痛も訴える。脳梗塞はしばしば前駆症状がみられ、発作は休息時におこることが多く、意識も清明か、意識障害があっても軽度である。症状が徐々に出そろってくるのが特徴で、頭痛もないか、あっても軽い。(2)くも膜下出血との鑑別 脳出血は脳内に出血するので、通常、半身不随になるが、くも膜下出血は脳実質の周囲に出血するので、普通は半身不随にならず、いままで経験したことのない、金棒で殴打されたような激しい頭痛と、首の後ろが固くなる項部(こうぶ)強直で始まり、意識障害もひどくなったり軽くなったり動揺性がある。
[荒木五郎]
脳出血と脳梗塞との鑑別でもっとも確実な検査法は、頭部のコンピュータ断層撮影(CT)である。CTによると、脳出血は発作直後から画面では白く見える高吸収域を示し、出血の部位、大きさ、脳室への穿破の有無、脳浮腫(ふしゅ)の程度も明らかにすることができる。これに対して脳梗塞は低吸収域として黒っぽく造影される。ただし、この低吸収域が出現するまでに発症後、半日から1日を要する。
[荒木五郎]
脳出血は、くも膜下出血と同様、死亡率が高い。半数近くが死亡するといわれ、とくに脳室に穿破する大出血や橋出血などは死亡率が高い。脳出血で死亡する直接原因は、脳ヘルニアによるものが多い。すなわち、大脳半球内で出血して高度な浮腫のため脳の容積が増大した場合、脳は髄液を通して硬い頭蓋(とうがい)骨に囲まれていて逃げ場所がなく、脊髄(せきずい)が頭蓋骨から出ていく大後頭孔のほうへ圧迫されることになる。これが脳ヘルニアであり、呼吸中枢に関係する橋や延髄が上方から下方に向かって圧迫され、死の転帰をとることになる。このほか、消化管出血や肺炎などの合併症で死亡することもあるので、合併症の発症には十分注意して看護する必要がある。
[荒木五郎]
外科的療法、内科的療法、合併症に対する治療に大別される。(1)外科的療法 被殻出血(外側型出血)、皮質下出血、小脳出血に対しては脳内血腫除去術が行われるが、視床出血(内側型出血)、橋出血は除去術の対象とはならない。ただし、視床出血に対しては脳室ドレナージが行われ、症状の改善をみることがある。なお、除去術が適応とされる前述の脳出血の場合、意識障害が高度で内科的療法ではむずかしいと思われる患者が、外科的手術により救命しえたという例もしばしばある。(2)内科的療法 止血剤の投与をはじめ、収縮期血圧が200、拡張期血圧が110ミリ水銀柱以上ならば、再出血を予防する目的で緩徐な降圧剤を投与し、血圧を調節する。また脳浮腫に対しては、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤と高浸透圧性脳圧下降剤(マニトール、グリセロール)が使われる。副腎皮質ステロイド剤の効果については賛否両論があるが、消化管出血の引き金になることがあるといわれているので、胃潰瘍(かいよう)の既往のある人には使用しない。また、グリセロールは比較的副作用も少ないので発作直後から使われ、脳浮腫に対する効果も確証されているが、腎臓の悪い患者には禁忌とされている。
さらに体液のバランスが崩れやすいので、その是正のために輸液が行われる。意識障害や嚥下(えんげ)困難のある患者には1500~2000ミリリットルの水分補給を点滴注射で行う。4、5日経過しても口から食事がとれないときは、鼻腔(びくう)ゾンデから流動食(2000キロカロリー)を流し込む。(3)合併症に対する治療 消化管出血として発病1、2週後に胃・十二指腸潰瘍から出血することがあり、吐血あるいは下血をきたす。最近、ヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)剤シメチジンが効果があるとされている。出血が多量で貧血が著しいときは、外科手術に踏み切らなければならないこともある。また、発熱があるときは早く胸部X線撮影を行い、肺炎に対しては広域スペクトルの抗生物質を使用する。なお、床ずれに対しては、2時間ごとに体位を変換したり、エアマットを使うなどによって予防する。
[荒木五郎]
脳出血の後遺症には、病巣の部位と広がりに関連して出現する第一次障害と、発症後の経過中にみられる第二次障害とがあるが、いずれにしてもそのリハビリテーションの目標は、日常生活動作activities of daily living(ADL)の自立である。これが社会復帰につながるわけで、とくに片麻痺に対する効果はその実績からも高く評価されている。
発症後、意識が覚醒(かくせい)して痛みがわかるようになったら、寝たままの姿勢で健側と患側の四肢の関節を自動的あるいは他動的に動かすことから始める。痛がらない範囲内で行う。重症度にもよるが、発症三週後には床上で起きる練習を始め、1か月後からは歩行練習に入る。これらはリハビリテーションチームによるプログラミングに従って行われる。
[荒木五郎]
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…脊髄癆(ろう),脊髄前角炎,多発性神経炎,脚気等で反射弓のどこかが障害されると,この反射は減弱・消失するため,これら疾患の検査に利用される。一方,脳出血や反射中枢より上位の脊髄疾患等で上位中枢からの抑制性の影響が弱まると,この反射は亢進する。反射【大野 忠雄】。…
…また,中風(ちゆうふう∥ちゆうぶう)または中気という言葉が脳卒中と同義に用いられることもあるが,一般には,卒中発作後,後遺症として半身不随(片麻痺)などの運動麻痺を残した状態をいうことが多い。
[原因疾患]
(1)脳出血(脳溢血(のういつけつ)),(2)脳梗塞(のうこうそく),(3)くも膜下出血,(4)高血圧性脳症などがある。脳出血は脳における急激な出血をいい,脳梗塞は脳動脈の狭窄や閉塞のために,その動脈に栄養される領域の脳組織が壊死におちいったものである。…
…脳内における出血をいい,一般に脳出血とか脳溢血(のういつけつ)といわれるものがこれにあたる。最も多いものは高血圧性脳内出血である。…
…したがって,大脳および顔面神経核の存在する橋(きよう)より上位の脳幹で錐体路が障害されると,顔面を含む反対側の半身麻痺を生じ,それ以下で頸髄より上の病変では,顔面を含まない反対側上下肢および体幹の半身麻痺を生ずることになる。 最も多いものは,脳出血や脳梗塞のために生じた大脳半球の内包の障害による反対側の半身麻痺である。内包には錐体路の繊維が集中しており,また出血や梗塞の好発部位であるためである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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