最新 心理学事典 「自己中心語論争」の解説
じこちゅうしんごろんそう
自己中心語論争
egocentric speech controversy
しかし,子どもの遊びの場面で自己中心語が増えるのは,難しい問題や何か困難なことに出会った場合,あるいは問題を解決し,行為を計画する場合である。この事実を踏まえてビゴツキーは,ことばはもともと社会的な伝達の手段として獲得されるものであると主張した。ことばは自己中心語の多く見られる5~6歳ころに枝分かれして,一方は伝達の手段として洗練され,他方は思考の手段として個人的な言語活動へと発展し,いずれ内面化されていくものであるととらえた。彼は伝達の手段としての言語を外言external speech,思考の手段としての言語を内言inner speechとよんで区別した。自己中心語は,外言が徐々に内面化される過渡期に現われる不完全な内言であると考えた。すなわち,外言の形は残してはいるが,機能は内言と同じである。やがて内面化が進めば,音声や発語器官の運動を伴わなくなり,頭の中だけでも言語活動が起こるようになると考えたのである。後にピアジェもこのビゴツキーの考え方を受け入れた。
言語は外界を認識するための手段として発生し,その副産物として伝達の役割をも担うようになったととらえられる。音声言語発生の過程では,言語の認識機能から言語の伝達機能への分化は,ほとんど同時とみなせるほどすみやかに生じるため,それぞれは別々の起源をもつようにみなせる。しかも,これらの機能の相互作用はビゴツキーが考えたよりももっと早くから生じており,活動領域によって言語も認識も相互作用しながら働くのであろう。課題解決など両者の相互作用が不安定になると,頭の中だけでなく独語が発せられる。これが,内面化が不完全な内言なのである。困難に直面すると,内言が外化され,外的に展開された形でことばを解決過程に参与させることによって,難題を解決しようとする。独語の形でシンボル操作が明示され,思考過程が意識化・対象化されるようになるのである。言語と認識の相互作用の内面化が進んだ段階では,認識過程は自己内対話の形で進行するのである。このように考えると,両者の相互作用が生じるかどうかの年齢限界は,活動領域によって異なる可能性がある。
〔内田 伸子〕
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